角膜クリニック 第3版
角膜診療に携わるすべての眼科医必携の書!
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本書は一般の眼科医から角膜を専門とする眼科医までを対象とし、角膜領域に関する深く幅広い知識を解説している。第3版においても、初版からのコンセプトである臨床に即した書とする基本的な編集方針を踏襲しつつ、角膜パーツ移植や再生医療などの最先端の内容もふんだんに盛り込んだ構成とした。大阪大学眼科角膜グループおよびその流れを汲む角膜スペシャリストによる集大成の書。ここに堂々の刊行。
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- 序文
- 目次
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序文
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第3版 監修の序
20世紀後半,医療は内科,外科などの治療手段別の分類から,消化器,呼吸器,感覚器などの臓器別分類へと移り変わり,それぞれの分野に専門医制度が導入されることとなった。眼科もその例外ではなく,われわれの分野においては,視器をさらに組織別,機能別に分類していく方向性が主流となり,眼科専門医のなかに,角膜,網膜,緑内障などのsubspecialist(特別専門医)が生まれることとなった。
さて,遠く水川孝教授の時代から,難治性角膜疾患に対する根治的治療法の開発は大阪大学眼科学教室のメインテーマであり,全国に先駆けて角膜疾患を対象とする特殊(専門)クリニックを開設している。当初,わずか2名のスタッフで始まった角膜クリニックは,眞鍋禮三教授の時代には20名を超える大所帯へと発展し,「角膜疾患に関する教科書がわが国にも必要である!」というモチベーションのもと,当時のメンバー全員が分担執筆者として参加した本書初版(いわゆる赤本)が刊行された。
しかしながら,角膜領域における進歩は驚くほどに速く,初版刊行から10年も経たないうちに改訂が必要となった。幸いなことに,初版執筆者の約1/3にあたる8名がすでに他大学の眼科教授に就任しており,それぞれの教室において多くの弟子が育っていたこともあって,新世代も参加する形で新たな企画が練られ,実に総勢51名の執筆による第2版が刊行されたのである。
それからさらに20年近くが経過し,初期のメンバーの何名かが退官を迎えるなか,新たな時代の波の到来を踏まえつつ,「創刊時の理念を再び!」との熱意から生まれたのがこの第3版である。今回も,初版執筆者の弟子のみならず孫弟子が加わり,第2版の序文でお約束したとおり,角膜の再生医療や遺伝子治療,そして角膜パーツ移植などの先端医療に関する知見もふんだんに盛り込まれている。大阪大学眼科角膜グループの集大成として,読者の皆さまの期待に応えられる内容になったものと考えており,われわれの診療のフィロソフィを少しでも感じていただけるなら幸いである。
最後に,ご繁忙のなか,労苦を惜しまずに編集作業にあたられた西田幸二教授,井上幸次教授,渡辺仁先生,前田直之先生,そして貴重な原稿をお寄せいただいた執筆者の先生方,さらには,本書の刊行に向けてわれわれを忍耐強く励まし続けて下さった医学書院・渡辺一氏に心よりの感謝を申し上げる次第である。
2021年6月吉日
監修者ら記す
第3版 編集の序
角膜クリニックの初版が刊行されたのは1990年6月のことである。恩師である眞鍋禮三大阪大学名誉教授,木下茂先生,大橋裕一先生らが,Thoft & Smolin のThe Cornea やGraysonのDiseases of the Corneaに匹敵する角膜専門書を創刊することを目標に掲げて,阪大眼科の角膜疾患の考え方とその治療法の集大成を記したのが,『角膜クリニック』であった。「病態から疾患を科学的に捉え,プラクティカルに治療する」というコンセプトは極めて実用的であり,角膜を専門としている医師のみならず,一般の勤務医や開業医の座右の書となってきた。そして,10年以上を経て2003年1月に改訂された第2版においても,水川─眞鍋によって培われた,この阪大流角膜学のコンセプトが継承されている。
さて,第2版から20年近くを経て,第3版を発行することとなった。第2版の序に,新たな世代交代と「角膜学」の飛躍的な進歩という,将来の改訂第3版への思いが綴られている。実際に改訂作業をしていて強く感じたことは,この20年間の発展の凄まじさである。前眼部OCTや波面収差解析,あるいはDSAEKやDMEKなど,過去になかった検査法や治療法が今では日常的に行われ,さらに,角膜上皮や内皮の細胞治療・再生医療は実用化段階あるいは実用化一歩手前まで発展している。改訂第3版では,まだ保険適用外の薬の使用を含め最先端の知見も取り入れつつ,初版から受け継がれている阪大流角膜学のコンセプトを,読者により明確に伝えるべく練り上げた。眼科解説書が濫立する中,本書が日常角膜診療のバイブルとなることを信じてやまない。
改訂第3版の発刊は前回から20年近く経過してしまったが,次回の改訂は10年後くらい? と願っている。その頃には,人工知能を活用した検査法や角膜再生医療の普及,水疱性角膜症や角膜ジストロフィに対する新しい薬剤開発などが実現されているはずである。「角膜学」の進歩は止まることがないと信じている。最後に,本改訂第3版の刊行にあたって多大なる尽力をいただいた,医学書院編集部の渡辺一氏に心から感謝申し上げる次第である。
2021年6月吉日 新型コロナウイルス感染症の終息を願いつつ記す
西田幸二
井上幸次
渡辺 仁
前田直之
目次
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正常角膜
1 角膜の構造と細隙灯顕微鏡所見
2 角膜上皮
3 角膜実質
4 角膜内皮
5 角膜輪部
6 結膜
7 涙液
8 眼瞼
9 角膜の発生
10 角結膜の免疫機構
11 角膜の神経
12 角膜の光学
異常角膜所見
1 涙液の異常
2 Meibom腺異常
3 点状表層角膜症
4 角膜糸状物
5 樹枝状病変
6 角膜上皮欠損
7 角膜潰瘍
8 角膜浸潤
9 角膜混濁
10 角結膜瘢痕
11 角膜浮腫
12 角膜内皮異常
13 角膜形状異常
14 角膜輪部病変・腫瘍性病変
15 角膜後面沈着物
16 角膜穿孔
17 角膜外傷
18 結膜異常
19 コンタクトレンズ合併症
検査編
1 細隙灯顕微鏡(スリットランプ)
2 涙液検査
3 マイボグラフィー
4 角膜厚測定
5 角膜知覚検査
6 スペキュラーマイクロスコープ
7 角膜形状解析
8 前眼部OCT
9 波面収差解析
10 角膜生体力学特性
11 塗抹検査・培養
12 抗原検査,抗体検査,PCR
13 遺伝子検査
14 生体共焦点顕微鏡
15 細胞診
16 前眼部フルオロフォトメトリー
治療編
I.薬物療法
1 抗菌薬
2 抗真菌薬,消毒薬
3 抗ウイルス薬
4 ステロイド薬
5 非ステロイド抗炎症薬
6 抗アレルギー薬
7 カルシニューリン阻害薬
8 人工涙液,ドライアイ治療薬
9 ビタミン薬
10 創傷治癒に対する薬剤
11 自家調製薬
II.外科的治療
1 角膜移植の歴史
2 全層角膜移植
3 層状角膜移植
4 角膜内皮移植
5 角膜上皮移植・培養上皮細胞シート移植
6 羊膜移植
7 人工角膜
8 角膜屈折矯正手術の歴史
9 エキシマレーザー
10 フェムト秒レーザー
11 角膜クロスリンキング
12 翼状片手術
13 結膜切除術
14 瞼板縫合
15 角膜表層切除
16 涙点プラグ
17 涙点閉鎖(涙道閉鎖)
18 治療用コンタクトレンズ
索引
書評
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角膜臨床における,実務的で無駄のない優れた教科書
書評者:大鹿 哲郎(筑波大教授・眼科学)
待望の『角膜クリニック 第3版』が刊行された,などと書くと,いかにも月並みな書評の書き出しとなってしまうが,しかし1990年の初版,2002年の第2版を長らく愛用してきた評者にとって,まこと「待望の」あるいは「待ちに待った」第3版というのが偽らざる感想である。今回,31年前の初版を久しぶりに取り出してみたのだが,多くの付箋や下線が残っており,よく勉強させてもらったという記憶がよみがえってきた。角膜を学ぶ眼科医が必ず手に取る良書であった。赤本と呼ばれた初版,新赤本と呼ばれた第2版とも,すでに背表紙は色あせて赤くはない。時の流れを感じる。
さて,19年ぶりの改訂である。阪大眼科角膜グループの伝統を反映した,非常に実務的で,無駄のない優れた教科書という印象は変わらない。今回最も大きな変化と感じたのは,基礎編という項目をなくしたことである。前版までは,生理・生化・発生・免疫・微生物学・創傷治癒・薬学・遺伝子などの知識が,巻末にまとめて記されていた。今版では,それらの基礎知識を,臨床編や治療編の中に入れ込んで解説するようになっている。これにより基礎的知識と臨床的知識を結び付けやすくなり,角膜の機能や疾患をより有機的に理解できるようになった。
新しく追加された項目としては,前眼部OCT,波面収差解析,角膜生体力学特性,抗原検査・抗体検査・PCR,遺伝子検査などがある。また,角膜パーツ移植の発展や上皮移植・培養上皮移植の臨床導入を受けて,角膜移植の項が充実した。その他にも,人工角膜,フェムトセカンドレーザー,角膜クロスリンキング,涙液検査などに関する解説が紙幅を増し,最新の医療状況を反映したものとなっている。
このように明らかに内容の充実が図られた本書であるが,それにもかかわらずページ数の増加が最小限に抑えられていることは特筆しておきたい。改訂に伴ってボリュームを増していく本が少なくない中,本書では読者の使い勝手や価格を考えて編集陣が工夫されたのであろう。このあたりも阪大流であろうか,好感が持てる。
一方で,あえて欠点を挙げると,初版や前版から同じ写真が用いられているものが少なくないことと,引用文献が古いことが若干残念であった。古い写真と新しい写真ではクオリティが違う。次回の改訂に期待したい。
本書の刊行と時を前後して,初版から監修を務めてこられた眞鍋禮三先生の訃報が届いた。おそらく,本書の完成を目にされることはなかったと思われる。しかし,眞鍋先生が構想された国産角膜専門書が30年を超えるロングセラーとなり,昭和・平成を経て令和時代に第3版が刊行されたということは,眞鍋先生が育てられた「角膜学」が日本に広く根付いたことを示しているのではないかと思う。日本における角膜臨床のレベルアップへの貢献は,計り知れない。
角膜移植や再生医療に関する研究成果が改訂
書評者:澤 充(日大名誉教授/公益財団法人日本アイバンク協会理事長)
『角膜クリニック』は1990年に初版が上梓され,その後,増刷と改訂を重ね今回第3版が発刊され,角膜に関する金字塔と考えています。初版の序文にありますように難治性角膜疾患の治療の臨床をテーマとしての角膜専門外来が起点ですが,臨床医学は病態生理についての知見の集積と構築とがいずれの分野でも必須です。眼表面疾患は“Atlas der Spaltlampenmikroskopie des Lebenden Auges”(A. Vogt, 1842)にみられるように,1842年に角膜内皮像を含む角膜所見が得られていたと感じ入りました。一方で,角膜の透明性を含む病態生理はDM MauriceのLattice theoryなど1960年代の研究が現在の基盤になったと考えています。その後,本書初版にあるように細胞レベルでの病態研究,分子生物学,第2版では遺伝学的研究などの発展が加えられました。第3版の今回は角膜移植や再生医療に関する研究成果に関して改訂されました。
本書の特筆すべきことは上記のごとく,水川孝教授,眞鍋禮三教授,大鳥利文教授らの阪大医学部眼科学講座では単なる角膜の臨床ではなく,その基本となる病態生理の重要性を後進の方々が深く理解し,体得され,第3版では西田幸二教授を筆頭編集者として,51名の執筆者の内容をまとめられたことにあると思います。単著または2,3名での著作は全体を通しての整合性を図ることは容易ですが,多岐にわたる病態,臨床にわたるため多くの方に執筆を依頼せざるを得ず,その分,内容の整合性を図るのは大変であり,編集者のご苦労が多かったと思います。
本書は「正常角膜」で病態生理,「異常角膜所見」でほとんどの角膜疾患が網羅されています。「検査編」では基本的な細隙灯顕微鏡から細菌,遺伝子検査などが記載されています。「治療編」では薬物とその薬理から再生医療まで記載されています。
私自身は常に診療において,症状,所見,鑑別診断,確定診断と進め,患者には診断,原因(解明されていなければその旨,頻度),治療法(薬物,観血的,治療しない場合も含む),そしてそれら治療法の予後を説明することとしています。こうしたことで本書を拝読して,「正常角膜」と「検査編」は,日常診療を行う上でたとえ結膜炎を診察する場合でも,どういう病態,所見であるかを考えつつ診察を行う上で必読です。「異常角膜所見」と「治療編」は症例に対して診断以降のプロセスでその都度,項目を参考にするのが有益と思いました。
本書の内容とのかかわりですとKeratitis superficialis diffusa(KSD)があります。以前,東大系はSuperficial punctate keratitis(keratopathy)(SPK),阪大系はKSDと記載しており,東大の三島済一教授からKSDは好ましくないとの指摘があり,2回にわたる角膜カンファランスにおいて海外の文献を基にSPKに統一するとなりました。その際,扱いに苦慮したのがAdenovirus後のThygeson’s SPKでした。これは欧米では確立された病態でしたので,SPKとは別にThygeson’s SPKと記載することになりました。近年,アデノウイルス角結膜炎の角膜所見に多発性角膜上皮下浸潤との用語が使用される旨の記載がありますが,私には馴染めません。
角膜穿孔もしくは切迫穿孔に対する角膜移植手術療法の記載があります。日本アイバンク協会ではメーリングリストを介して全国のアイバンク(限定登録)の間でこうした緊急に角膜移植を必要とする症例に対する緊急あっせん要請システムを運用しています。緊急要請例の約7割以上に角膜の緊急あっせんが行えていることを追記させていただきます。こうした緊急例を生じましたら,地域のアイバンクに連絡をとっていただければと存じます。
阪大医学部眼科学教室が眞鍋教授の薫陶のもと,西田教授にその連綿たる業績が本書に結実し,今後さらに継続されることを祈念申し上げます。