進化する標準的医療説明の活用を
寄稿 蝶名林 直彦
2021.11.01 週刊医学界新聞(通常号):第3443号より
インフォームド・コンセント(以下,IC)の考え方は1964年の「ヘルシンキ宣言」において,臨床試験の被験者への十分な「説明と同意」が不可欠と規定されたことに始まる。ICはその後,通常の医療行為における患者の「自己決定権」へと範囲を拡大していく。本邦でも日本医師会が作成した医師の職業倫理指針1)に,病名・病状について本人および家族へ「理解できるよう丁寧に分かりやすく説明する義務がある」との記載がある。欧米では近年,一歩進んだ協働意思決定「Shared Decision Making:SDM」の考え方が主流となっている。
医療説明の重要性が診療現場で高まる背景は
本邦でもICの言葉が用いられる以前は,いわゆる「ムンテラ」として患者に対する医療説明が行われた。1997年の医療法改正以降はICとして説明されているものの,診療現場では医師ごとに内容の量と質に大きな差があるのが現実である。医師の医療説明を患者が十分に理解・承諾した上で,検査や治療を行うかどうかが決まる。したがって医師の説明内容や説明の技術はもちろんのこと,患者の立場や環境を考慮しつつ説明されたかどうかなどさまざまな要素が決定に影響する。最終的にはこれらが,検査・治療の医学的適応以上に医療行為の実行を決定付けるといっても過言ではない。加えて,時代とともに医療が複雑化するほど患者は検査・治療の目的について正確な理解が難しくなり,医師にとってその説明の難易度は上がっている。十分に納得のいく説明さえできていれば避けることのできた医療訴訟も増加している現状がある。
そこで,国内の内科系138学会が加盟する内科系学会社会保険連合(内保連)では2014年5~9月の5か月間に,内科関連の123学会にアンケート用紙を送付して調査を行った2)。各科領域の臨床において通常行われる検査や治療のうち,一般的に説明が実施されている(同意書取得の有無は問わない)ものを網羅的に洗い出し,当該施設で行われた説明に費やされるおよその時間と人数,職種(医師,看護師,コメディカル等)についてのエキスパートオピニオンの記載を依頼した。
さらに二次調査は,前向きの実態調査として全国約90の大学病院,総合病院等の医療施設を対象とした多施設共同の観察研究を実施した。一次調査で「説明と同意」にかかる時間が比較的長いと予測された40の検査・治療について,医師と患者に対するアンケート調査から「説明と同意」の手続きにかかる実際の時間や負荷等,および患者の満足度等の実態を調査した。
一次調査結果では,治療関連の説明に要する時間は15分以上が約4分の3を占めた。また医師が他の職種と同席して説明を行う場合が半数以上あると明らかになった。
直接説明実時間の長いIC手続き項目が明らかに
二次調査では,医師へのアンケート調査による総合負荷度を重視した。これは感冒の説明を1とし,通常の胃内視鏡検査説明を5,急変時の気管挿管・人工呼吸器装着の説明を10とする10段階評価で行った。説明行為の医療者への時間的,精神的,肉体的負荷を総合的に判断する指標として用いた。
本調査の全症例に対する総合負荷の中央値は7で,総合負荷9以上とされた症例は約1割だった。呼吸器領域の「人工呼吸器装着」,神経領域の「人工呼吸器装着」および循環器領域の「重症心不全」で,対象となった症例の5割以上が総合負荷9以上であった。
二次調査結果による総合負荷と直接説明
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蝶名林 直彦(ちょうなばやし・なおひこ)氏 聖カタリナ病院 院長/内科系学会社会保険連合副理事長
1976年神戸大医学部卒業後,虎の門病院勤務。88年東京女子医大第一内科にて学位取得し,1990年に聖路加国際病院内科医長に。同院呼吸器内科部長,内科統括部長,呼吸器センター長を歴任し,2018年より聖カタリナ病院長。博士(医学)。同年より内科系学会社会保険連合(内保連)副理事長を務める。『標準的医療説明――インフォームド・コンセントの最前線』(医学書院)責任編集者。
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