医学界新聞

書評

2021.10.25 週刊医学界新聞(看護号):第3442号より

《評者》 日本看護協会会長

 2011年の第31回日本看護科学学会学術集会シンポジウムIIIで「社会に向けた看護の価値の可視化」が企画され本書の著者である田倉智之氏が登壇し,「価値が共有できることが可視化」と述べ,「看護サービスの『価値』を定量化し関係者が理解することが要」「看護のサービスの価値を社会経済性という観点から看護報酬を最終負担する国民に説明を行うことが理想」と述べた。

 これまでの議論の中心にある看護の有用性や看護職の存在意義,すなわち,「看護の価値」をどのように可視化することが可能であろうか。本書は,この問いに応える。

 「看護の価値」とは何か。看護の価値を可視化するための前提となる「価値」を理解するために,本書の「第2章 健康・生命の価値の考え方と表現」「A 人間の行動を決める価値とは何か」を熟読しよう。Columnの「失ってはじめて気づく健康の価値を考える」(p.70)は興味深い。

 「看護師の労働価値と給与水準を考える」(p.72)というcolumnの中で「(前略)准看護師も含む日本の給与水準は,国際的にみて概ね平均的な水準にあると推察される」とある。このcolumnを読み,私は反論したいと思った。なぜなら,日本の看護職員は,24時間体制であらゆる現場を守っており,業務の特殊性から,夜勤・交代制勤務によるさまざまな健康上のリスクにさらされている。諸外国とは,労働環境が異なる。

 今回のコロナ禍においても,看護職は引き続き高い使命感を持って働いているが,使命感だけでは限界がある。正当な処遇が必要だ。このような厳しい勤務の中,看護師の賃金をみると,企業で働く大学卒や他の職種と大差はないが,その内容は年収・月収には「夜勤手当」がかなりのウエイトを占めているからだ。看護職は患者の擁護者である。看護職員が日中も夜間も健康に働くことは,患者に提供される医療の安心・安全を守ることに直結している。医療提供体制を維持する上でも,看護職員が健康に働き続けられることが重要であり,看護職員の厳しい仕事内容に見合った処遇改善が欠かせない。しかし,こう主張するためには,国民に説明できるデータが必要だ。国民に説明が必要なのだ。

 価格はどうだろう。「第5章 医療の価値の議論と価格のあるべき姿」A項目では,システムの価値評価の考え方が整理されている。本書から,医療・介護分野における価値や価格の関係性を学ぶことができる。「看護の価値」と現行の価格もしくは配分にギャップはないのか,議論のヒントがある。

 本書を深く理解するには,前提知識が必要だ。そういう意味では,少々やっかいな本かもしれない。だが,認定看護管理者教育課程サードレベルで学ぶ看護職諸氏には読破していただきたい。仲間と読もう。現実と対比させながら読み,議論をしよう。認定看護管理者として活躍する管理者は,ブラッシュアップするためのテキストとして活用していただきたい。仕組みがわかればマネジメントに生かせる。修士・博士課程で看護職の経済活動等に関する研究に取り組む諸氏にはうってつけの書だ。

《評者》 大分県立看護科学大理事長・学長

 読みやすく,楽しく,ためになる本である。著者の意欲と熱意,そして,適度な遊び心が伝わってくる好著である。学会発表から論文執筆に至る必要な事項とコツが具体的に解説されている。ソフトな語り口で,しかし,押さえておくべき...

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