医学界新聞

書評

2021.09.27 週刊医学界新聞(看護号):第3438号より

《評者》 昭和大教授・成人看護学

 がん薬物療法においては,作用機序の異なる新規薬剤が次々と承認され,それに伴い有害事象も多様で複雑なものが出現し,患者や家族を苦しめる。これに対して,一般的な治療開始前のオリエンテーションや有害事象のマネジメントだけでは,到底太刀打ちできない。

 本書は,抗がん薬投与後に発現する主な副作用を取り上げ,その発現率,好発時期,リスク因子,評価方法をまとめている。第2版では新たに「味覚障害」「不妊(性機能障害)」「栄養障害」といった特定の患者にニーズの高い副作用について追加された。

 単に,CTCAEやPRO-CTCAEを用いて,症状の重症度を把握することに留まるのではなく,臨床推論力の基盤となる問診の仕方やその根拠が丁寧に解説されている点が,目の前にいる患者の症状の特徴を適切に捉えるためにとても役に立つ。このように,根拠に基づいた患者との意図的なコミュニケーションは,状況を的確に把握し判断につなげていくという臨床実践のプロセスにおいてとても重要であるが,初学者には難しい点でもある。

 さらに,薬物別の頻度や抗がん薬以外の原因を考慮するべき病態が挙げられていることで,因果関係についてより複合的な視点から鑑別することを可能にするだろう。これらは特に併存疾患を有する高齢患者や長期的な治療経過の中でさまざまな症状が蓄積している患者に対して,適切な介入を行うためにとても重要となる。さらに,各副作用管理の対策が「解決への道標」と表現されていて,事例を用いて解説されている点も具体的な介入のイメージがつきやすい。

 本書は,がん薬物療法の第一線を支える薬剤師の先生方が著者に名を連ね,日々のがん薬物療法を担うものとしてチーム医療の質保証に貢献する使命感が伝わってくる充実した内容である。「がん患者指導管理料ハ」が算定されるようになり,がん薬物療法の副作用マネジメントにおける薬剤師の役割は拡大する一方である。がん患者を総合的に診るチーム力を向上するためには,薬剤師が得意とする根拠に基づいた処方や副作用マネジメントの提案が必須となっている。

 がん薬物療法に関わる多職種がそれぞれの専門性を生かし,患者を総合的に診る力をチームで向上させるために全ての医療職にお薦めできる一冊である。電子カルテのそばや白衣のポケットにいつも忍ばせて,患者へのケアにつなげていきたい。


《評者》 元東大大学院教授・成人看護学

 本書は慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)保存期の人々が末期腎不全に至るのを防いで腎代替療法(renal replacement therapy:RRT)の導入を回避できるように支援するための看護のスタンダードを示したテキストです。日本腎不全看護学会のCKD委員会保存期グループによって作成されました。

 EBM(evidence-based medicine)が提唱される一方,情報の爆発的増加に対し,日常の臨床において個々のエビデンスの適否を判断する困難が指摘され,諸エビデンスの情報を整理した診療指針やガイドライン作成の必要性が叫ばれています。それらは臨床実践の質を担保するものとして位置付けられ,本書もその流れに即したものです。第1章はCKD療養に関する総論,第2章は各領域の療養行動,第3章は療養生活支援にかかわる諸理論の解説となっています。

 このうち,第2章が本書の特徴と考えられます。さまざまな療養行動の領域(例えば,自己管理行動,食事療法など)ごとに,まず概要を解説し,CQ(クリニカルクエスチョン)を挙げて,各CQに対するanswerのまとめを推奨文として示した後,臨床への示唆が述べられています。続いて各推奨文の根拠となる文献のレビュー結果が示されています。推奨文はCQにかかわる用語で検索した文献のnarrative reviewによっており,推奨レベルは提示されていません。各執筆者の熱い思いとエネルギーが傾注されたことを感じます。CQに関して感じたことは,特に,その設定の難しさとanswerの根拠である論文選択の適切さをどのように担保するか,です。CQを形成する用語について定義を明確にすること,CQおよびanswerにおける論理の飛躍を避けることなどが課題と思います。

 本書はその構成からいくつかの読み方ができるでしょう。例えば,CKD保存期の看護についてざっと知りたい場合は,第1章と第2章の領域ごとの解説が役立つでしょう。特定の領域に関して詳しく知りたい,あるいは各CQに対し,どういうプロセスを経てその推奨文となっているかの根拠を知りたい場合は,第2章の文献レビューの項を読む,といった具合です。

 本書ではCKD保存期の最終段階も視野に入れ,RRTの選択に際してそれまでの自己管理指導がかかわってくる可能性にも言及されています。RRTの選択に関しては診療報酬「腎代替療法指導管理料」があり,看護師も意思決定支援にかかわることが求められています。しかし,CKD保存期自体をみると,診療報酬で診療チームに看護師を含むことが求められているのは一部にとどまっています。糖尿病性腎症第2期以上に対する「糖尿病透析予防指導管理料」,腎移植後の「移植後患者指導管理料」です。CKD保存期はいわば身体の内部環境が荒廃の危機にひんし,それを回避・改善するための適応行動が必要な状態です。そのための行動の変化を支援する方策は,SDGsに向けたプログラムに該当します。このアナロジーからいえば,他のCKDについても自然史の維持・改善をめざし,本書で示された働き掛けに対する診療報酬評価が望まれます。