ICT機器利用における小児の視機能への影響
寄稿 吉田 朋世
2021.09.06 週刊医学界新聞(通常号):第3435号より
スマートフォン,タブレット端末,パソコンなどの情報端末(ICT機器)の発展はめざましく,10年前にはとても考えられなかった速さで普及しています。総務省による通信利用動向調査結果1)によれば,全世帯の86.8%がスマートフォン,70.1%がパソコンを保有しており,日常生活から切り離せないものとなっています。小児もその影響を受けており,文部科学省はGIGAスクール構想を立ち上げ,教育環境においてこれらのICT機器を使いこなせるよう,1人1台の端末を用意し学習に取り入れていくと発表しました。もちろん,簡便に情報にアクセスでき,情報を図形化しやすく,記憶に取り入れやすい映像を用いて学習することは小児の能力を育てる上で非常に有用なツールになると思われます。一方で,これらを常に用いることで,どのような健康的な影響が出るかどうかについては,まだわかっていないことが多いのです。
ICT機器を利用することにより,小児の視機能にどのような影響が出る可能性があるのか。影響の一つに,近視の増加が挙げられます。スマートフォンの普及は2010年代前半に始まりましたが,同様の時期より若年者の裸眼視力1.0以下の割合が増加傾向に転じ,2019年には小学生,中学生,高校生いずれにおいても過去最高となりました2)。ICT機器の使用時間そのものが直接近視化に影響しているというエビデンスは現在ありませんが,これらの機器を用いた近業(近くで作業を行うこと)の増加は,小児の近視化に関係していると推測されます。
もう一つの影響としては,急性後天内斜視の増加です。一般的に,小児期に起こる内斜視は1~3歳頃の発症が最も多いのですが,近年,それより上の年齢において,内斜視を急に発症する症例が増えてきているのです。I......
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吉田 朋世(よしだ・ともよ)氏 国立成育医療研究センター 眼科
2012年鹿児島大医学部卒。14年より国立成育医療研究センターに勤務。小児の視機能におけるICTの影響に関する研究に取り組む。
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