医学界新聞

FAQ

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

寄稿 吉永 繁高

2021.06.14 週刊医学界新聞(レジデント号):第3424号より

 「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン」2014年版において,50歳以上の男性・女性を対象とした対策型胃がん検診の方法として,胃部X線検査の他に胃内視鏡検査が推奨されました。以降,内視鏡を用いた胃検診も始まり,クリニック等でも上部消化管内視鏡検査の重要性が増しています。

 そこで本稿では,胃癌にまつわる最新の情報にも触れながら,上部消化管内視鏡検査手技をスキルアップさせるための方法をご紹介します。

 内視鏡は検査「手技」ですので,1に練習,2に練習,3,4が無くて5に練習です。左手で上下,左右アングル,左腕でひねり,右手で押し引き,ねじりと,左右異なる動作をこなすには熟練が必要です。上司にも言われたことですが,私が内視鏡を始めた時「ゲームが上手な人は内視鏡が上達するのが早い」と感じました。例えば格闘ゲームで必殺技を出す時に「左手で下,右下,右に十字キーを動かして,右手はパンチボタンを押す」なんて考えずに,自然に動かせないと勝てません。これと一緒で内視鏡も「アップアングルをかけて,右にひねって……」なんて考えずに扱えるようにならないと,内視鏡の操作に気が行ってしまい病変を見つける余裕がなくなります。

 では,練習はどうするか。私は上部消化管の内視鏡トレーニングモデルを使って,両手,両腕が内視鏡の動きを覚えるようにひたすら練習しました。私の場合,内視鏡に取り組み始めてからすぐに患者さんの検査をしなければならなかった上,上司も別の部屋で検査していたため一人で検査しなければならず,本当に必死でした……。最近ではシミュレーターが登場したことから,送気や吸引が可能となり,無理に内視鏡を押すと模型の患者がつらそうな声を上げるなど,より実際に近い感覚で練習ができます。ただし,シミュレーターは研修指定病院などにしかありませんので,関連する病院に設置されていないと活用できません。もしもそうした施設に伝手があるならば,週1回でも勉強に行くとよいでしょう。実際,循環器内科の先生が実家のクリニックを継承する前に週1回当院へ勉強にいらっしゃっていました。継承された今では,「こんな病変を見つけられるのか」と感心するほどの小さな病変を見つけては当院へ紹介いただいています。

 次に内視鏡の操作に慣れてからの話です。実際の症例を用いて診断力を高めるには時間がかかります。まずは内視鏡検査手技に関する本をたくさん読んで勉強しましょう。おすすめは『上部消化管内視鏡診断マル秘ノート』(医学書院)です。中堅の先生方が中心になって執筆されている本でとてもとっつきやすい本です。あとは雑誌『胃と腸』(医学書院)も勉強になります。特に昨年出版された増刊号『消化管腫瘍の内視鏡診断2020』は全消化管の腫瘍性病変を網羅しており,とても勉強になります。

 本以外では研究会,学会への参加も有益でしょう。特に「早期胃癌研究会」など診断力を鍛えるための勉強会はいろいろな病変を知ることができ,非常に勉強になります。コロナ禍のためハイブリッド開催となっており,自宅からでも研究会に参加可能です。ぜひそのような機会を逃さないようにしてください。また医学書院が運営する「ガストロペディア」というWebサイトには内視鏡に関してためになる情報が満載です。こちらもぜひ活用ください。

技術的なこと,学問的なことを分けて習得する。技術的なことは上部消化管の内視鏡トレーニングモデルやシミュレーターなどで鍛え,学問的なことは本や研究会,インターネットで勉強しましょう。


 私が内視鏡を始めた25年前は検査を受ける患者さんのほとんどがピロリ菌に起因する萎縮性胃炎に罹患していました。そんな中,ピロリ菌陰性の所見の一つである胃底腺ポリープを見るとホッとしたものです。最近ではピロリ菌の感染率は低下傾向にあり,またピロリ菌陽性の萎縮性胃炎に対し除菌療法が保険適用となったことから,ピロリ菌陰性の患者さんが増加し,胃底腺ポリープを見る機会が増えています。胃底腺ポリープがあっても除菌後の患者さんは少なからず胃癌が発生する可能性がありますので,萎縮粘膜の名残を認めた場合には要注意です。

 では,生まれつきピロリ菌未感染の患者さんは大丈夫なのでしょうか。近年,未感染の患者さんが多くなった反面,いえ多くなったからこそ未感染特有の病変が指摘されるようになってきました。胃底腺型胃癌やラズベリー様の腺窩上皮型腫瘍などがその代表ですが,前者は胃底腺から(まれに感染胃の胃底腺からも)発生するため粘膜下腫瘍様を呈しますし,後者は過形成性ポリープと似た外観をしています。これら以外にも印環細胞癌や,まれながら腸型の胃癌も発生します。このような未感染胃に発生する病変は胃癌全体の1%1)と非常にまれであり,まだまだ長期的な予後などが明らかになっておらず議論の余地もありますが,知らないと診断できません。最新の知識を押さえるためにも,『胃と腸』2020年7月号「H. pylori未感染胃の上皮性腫瘍」をぜひご一読ください。

 何はともあれ,胃底腺ポリープがあるからと油断は禁物です。紹介した本などを参考にピロリ菌陰性の胃にどんな病変ができるのかを念頭に置いて検査に臨んでください。

胃底腺ポリープを認めたからといって油断は禁物。胃底腺ポリープを認めても,ピロリ菌除菌後ならば確率は低くとも胃癌が発生する可能性があり,未感染だとしても未感染特有の病変が発生する場合があります。状況に応じた内視鏡検査が必要です。


 「見落としをできるだけ少なくするような内視鏡検査を心掛けること」が基本だと考えます。病変そのものを見ない限り見つけられないからです。そのためにはいつも同じように系統的な内視鏡検査を行うことが重要です。当院での基本的な検査方法については当院の角川先生が論文2)を執筆していますのでぜひ参照ください。

 また内視鏡観察時には「何か変だな」と感じることが大切です。その際は「どこに違和感を覚えたのだろう」と今観察している部分をしっかり検索しましょう。腫瘍ではないかもしれませんが,違和感を抱いた原因がきっとどこかにあるはずです。「何か変だな」を感じるためにはたくさん検査をして,病変のない状態を心に刻み込むことが重要ですので,日々の検査を頑張ってください。

 違和感に近いかもしれませんが,小さな変化に気付くことも大事です。例えば隆起,陥凹,びらん,色調変化,潰瘍,瘢痕,ひだ集中,出血,血管透見像消失,粘膜粗糙,壁の伸展不良です。紙幅の関係上一つひとつを詳しく説明はできませんが,拙著『百症例式 早期胃癌・早期食道癌 内視鏡拾い上げ徹底トレーニング』(医学書院)に詳しく書いていますので,病変の拾い上げの練習の意味でもお手にとっていただければ幸いです。

 「先入観を持たないこと」も大切です。FAQ2でも触れましたが,ピロリ菌未感染の胃に見えても胃癌はまれながら発生しますし,悪性リンパ腫の一つであるMALT(mucosa-associated lymphoid tissue)リンパ腫が発生することもあるため,常に油断せず検査をしましょう。

違和感や小さな変化を見逃さず,先入観を持たないように系統的な検査を行いましょう。

 内視鏡検査は1日にして成らず,です。日々鍛錬を怠らず,基本に忠実に,慢心や油断をせずに検査を行い,患者さんの役に立てる内視鏡検査を心掛けましょう。


1)鈴木翔,他.H. pylori未感染胃上皮性腫瘍の臨床的特徴.胃と腸.2020;55(8):981-7.
2)角川康夫,他.胃癌に対する内視鏡スクリーニング――私はこうしている.胃と腸.2008;43(8):1225-9.

国立がん研究センター中央病院内視鏡科

1997年鹿児島大卒業後,九大大学院医学研究院病態制御内科学(旧 第三内科)に入局。佐久総合病院,国立がんセンター中央病院,愛知県がんセンター中央病院等で内視鏡の修練を積む。2008年より現職。著書に『百症例式 早期胃癌・早期食道癌 内視鏡拾い上げ徹底トレーニング』(医学書院)。

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