医学界新聞

書評

2021.05.17 週刊医学界新聞(レジデント号):第3420号より

《評者》 日本小児救急医学会理事長
京都第二赤十字病院副院長・小児科部長

 医学書院から『小児科レジデントマニュアル』の第4版が発行された。本書は1994年の初版発行以来好評のうちに版を重ね,実に27年の歴史を有する小児科診療における代表的なレジデントマニュアルである。医学の進歩に伴って改訂のたびに項目数,ページ数ともに増加したにもかかわらず,ここ19年にわたり定価が据え置かれていることは驚きであるが,監修は一貫して安次嶺馨,我那覇仁両先生が担当されていることには感服の至りである。

 かつてわが国の大学の医学教育カリキュラムの中で軽視されがちであった小児救急医療は,米国式卒後研修を取り入れた沖縄県立中部病院の安次嶺,我那覇という師弟コンビの登場によって学問的体系化が一気に加速されたといっても過言ではない。全国から沖縄に集結した若手医師が研修成果を各地に持ち帰った結果として,執筆陣も沖縄にとどまらず全国に及んでいる。さらに各門下生がそれぞれのsubspecialtyを追求した成果が,項目を問わず本書のqualityの高さに反映されている。この豊かな人材群こそがまさに安次嶺,我那覇両先生の最大の財産である。今回の改訂ではカラーアトラスが新設されたが,忙しい診療の中での写真撮影はresearch mindなしには実践困難で,この新企画も両先生の薫陶の賜物であろう。

 以上より,本書の白眉が「I.小児救急」であることは論をまたないが,「(呼吸障害は)SpO2値のみではなく,呼吸数や心拍数を意識する」(p.18),「乳幼児では興奮や不穏,傾眠が重症の呼吸障害を示す重要な徴候である」(p.19),「頻脈の原因は多岐にわたるが,ショック状態ではないかと疑うことがまず大切である」(p.44),「(心肺蘇生時の)家族の立ち合いは家族にとって有益との報告もあるが,蘇生に慣れていないチームでは別室に案内し,逐次報告するほうがよいと思われる」(p.59),「腹部診察は患児の表情,四肢の動き,心拍モニターを見ながら行うと腹痛の最強点を見つけやすい」(p.77),「(異物誤嚥で)患児が咳き込んだり,泣いたり話せたりするなら重篤な気道閉塞はなく,緊急処置は不要」(p.93),「乳幼児(の心筋炎)では受診時の主訴に非特異的症状が多く見落としやすいため,保護者の『いつもと様子が違う』という訴えは傾聴」する(p.165)など,豊富な臨床経験から紡ぎ出された箴言しんげんが随所に溢れている。

 不安を抱えて一人で当直業務に当たるレジデントも本書を参考にすれば,症候を確認しての初期対応が容易となる。その際,患児の評価に「小児保健」「検査・手技」「検査基準値」の項目が,病名が想定できれば「疾患各論」が,処方の指示時には「薬用量」の記述が役に立つ。さらに,小児病棟と新生児病棟を併設する多くの一般病院の当直レジデントには「新生児疾患」の項目まで用意されているところが大変心強い。要するに,このマニュアル一冊あれば小児科レジデントは仕事に困らないようになっている。加えて指導医にとってもレジ...

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