医学界新聞


保健師・助産師・看護師いずれも合格率が昨年度から上がる

取材記事

2021.04.26 週刊医学界新聞(看護号):第3418号より

 厚労省は3月26日,2020年度の第107回保健師国家試験,第104回助産師国家試験および第110回看護師国家試験の合格者を発表した。合格率は,保健師94.3%,助産師99.6%,看護師90.4%()。保健師は昨年に続き合格率が90%台,合格者数も7000人台となった。看護師の合格率は1.2ポイント上昇し,3年ぶりに90%を超え,合格者数は1255人増加した。学校区分による合格状況は下記に示す。

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 保助看国試合格者数・合格率の推移

 採点除外等となる問題は保健師国家試験で3問,看護師国家試験で2問だった。採点除外の理由は,「選択肢に正解がない」「複数の正解がある」のいずれか。複数の正解があるものは,いずれも正解として採点された。

 本紙の取材に応じた看護専門学校の教員は,「一部難しい問題もあったものの,必修問題ではスタンダードな内容の出題が多く,自信を持って回答できた学生が多かったようだ」と試験問題の難易度について語った。また,別の学校の教員は,新型コロナウイルス感染拡大の影響により,昨年に続き合格者の掲示発表が取りやめられたことに対し,「合格発表の場で喜ぶ学生たちの顔を見られる日が待ち遠しい」と歯がゆい思いを口にした。

第107回保健師国家試験
一般問題を1問1点(74点満点),状況設定問題を1問2点(68点満点)とし,次の合格基準を満たす者を合格とする。
総得点 86点以上/142点

第104回助産師国家試験
一般問題を1問1点(75点満点),状況設定問題を1問2点(70点満点)とし,次の合格基準を満たす者を合格とする。
総得点 87点以上/145点

第110回看護師国家試験
必修問題および一般問題を1問1点,状況設定問題を1問2点とし,次の①~②の全てを満たす者を合格とする。
①必修問題 40点以上/50点
 ②一般問題,状況設定問題 159点以上/250点

:一部の問題において採点対象から除外された受験者は基準が異なる場合がある。


斉藤 由美(東京アカデミー東京校 講師)

 

◆必修問題:やや易化

 近年の傾向通り,必修問題は過去問題からの出題が減少している。難しく感じた受験生もいると思われるが,必修の合格基準を満たすことは難しくない。50点満点の受験生も激増した。基礎看護の問題は増加したが,第109回と同様に正答率の低かった問題があるのは気になる点である。「PM23静脈内注射」「PM24 AED」は特に正答率が低かった。公衆衛生・社会保障の問題「AM3大気汚染物質」「AM10地域保健法」は正答率が特に低かった。社会保険,国民生活基礎調査,国民健康・栄養調査などの頻出テーマに加え,学校保健,地域保健法からも出題されているので,幅広く学習する必要がある。解剖生理・疾病に関する問題は即答しづらく,一般問題のように,正答を導くのに時間を要する問題が多かった。「AM11後頭葉」「AM14肝性脳症」「AM15喀血」は正答率が低かった。小児・老年では「AM6反射の消失」「AM8ハヴィガーストの発達課題」等の暗記が必要なものは例年通り正答率が低かった。「PM16ループ利尿薬」を解くためには薬理作用や発現を理解しておく必要がある。

 

◆一般問題:過去問のみでなく広範囲な知識の習得と思考力が必要

 視覚素材を用いた問題は2問であった。「AM41胸痛と呼吸困難」は胸部X線画像中,右肺中葉と下葉の間の濃淡差に気付けるかを問う問題である。画像診断が苦手で諦めてしまった受験生もいたようである。画像診断ができなくても,発熱もなくバイタルサインは安定しているが胸痛と呼吸困難あり,高身長・やせ型の若い男性という点から気胸を推測できるはずであるが,正答率は低かった。「AM81脈拍測定部位」は高正答率であった。人体の構造と機能・疾病の成り立ちと回復は,全般に正答率が低かった。特に「AM 76大動脈弁狭窄症」「AM78ギランバレー症候群」等は難易度が高い。成人は「AM43 クッシング症候群」「PM45脂質異常症」等の難易度が高くない問題も正答率が低かった。例年通り,解剖生理・病態が理解できていない受験生が多かったと推察される。「AM44スティーブンス・ジョンソン症候群」「PM86チャイルド-ピュー分類」は看護師国家試験としては難問である。

 「AM45膝関節鏡検査」「PM42 ADLの評価」等の検査や評価に関する問題の正答率が低かった。検査名や評価名しか覚えていない受験生が多いためと思われる。看護の統合と実践では「AM71大災害時の健康問題」「PM71災害時のトリアージ」の正答率が低かった。出題数は少ないがしっかり学習しておきたい。公衆衛生・社会保障では,「AM79生活保護法」「PM87老人福祉法に基づく老人福祉計画の策定」等の法制度や健康政策についての出題もあり,苦手な受験生が多く注意が必要である。

 

◆状況設定問題:思考力が大切

 AM,PM各10症例で,第109回同様に読解力と正確な知識,そして思考力が求められている。難易度は第109回と大差ないが,全般的に正答率が低下した。特に,看護師としての適切な対応や観察すべき項目を選ぶ問題の正答率が低下している。コロナ禍で隣地実習が十分できなかった影響が考えられる。対策としては,机上での仮想的実習でも,臨床検査データの基準値を正確に覚えた上で,疾患の知識や看護師としての気付き,行動の優先順位を理解することが必須である。加えて,公衆衛生・社会保障の知識も求められている。アセスメント力と思考力の涵養も重要である。これらは低学年時から意識した学習が必要である。

 

※正答率は当社独自の分析。

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