内科専攻医がJ-OSLERを使いこなすために
寄稿 原田 洸
2021.04.12 週刊医学界新聞(レジデント号):第3416号より
2018年度から日本専門医機構主導で新専門医制度が開始されたのに伴い,内科領域では新しい内科専門医制度に移行しています。私は新しい内科専門医制度を経験した最初の世代であり,情報が少ない新システムの中でさまざまな苦労を経験しました。現在内科専攻医として働いている先生方や,これから内科専攻医をめざす初期研修医の方に向けて,新しい内科専門医制度で気を付けるべきポイントを専攻医の目線でまとめさせていただきました。本稿の内容が少しでもみなさまのお役に立てば幸いです。
専攻医はどこから取り組めばいいのか?
内科専攻医の先生がいる病院では「専攻医登録評価システム(Online system for Standardized Log of Evaluation and Registration of specialty training System:J-OSLER)」という言葉を耳にする機会が増えてきたかもしれません。J-OSLERとは内科専門研修の標準化を図るため,オンラインで研修実績の登録と評価ができるシステムを指します。新内科専門医制度とともに始まったもので,症例のまとめを提出したり,自己評価を提出したりといった評価に関する全てのやりとりをこのJ-OSLERのシステム上で行います。
内科専攻医の立場としては「結局のところ,J-OSLERで何をしたら良いのか?」という点が気になるところです。3年間で専門医研修の修了要件を満たすために,専攻医がやるべきことを以下にまとめました。
①症例登録:56疾患群,160症例
②病歴要約:29症例
③J-OSLERシステムへの登録
④年に2回の講習会の受講(3年間で6回)
⑤日本内科学会認定内科救急・ICLS講習会(Japanese Medical Emergency Care Course:JMECC)の受講
⑥学会発表または論文発表2回以上
⑦内科系の学会に年2回参加(3年間で6回)
⑧半年おきの自己評価,指導医評価,360度評価,技能技術評価,1年おきのプログラム評価
⑨施設変更前に転出・転入届け,施設変更後に担当指導医の変更
⑩4年目の春~夏に内科専門医試験の受験
このように並べるといかにもやることが多いように見えます。しかし実質的には①,②に労力を要するものの,③~⑨は忘れずに事務手続きをすることや証拠を保管しておくことがむしろ重要であって,日頃からそれほど時間を取られるものではありません。
専攻医3年目までのおおまかなタイムスケジュールを図1~3)にまとめました。後述の病歴要約は,専攻医3年目から一次評価と二次評価が始まるため,2年目の終わりまでに29症例を全て登録しておくのが理想的です。
J-OSLERで登録する症例には,①症例登録と②病歴要約の2つがあります。両者の違いを表にまとめました。症例登録は,一言で言うと症例の簡潔なサマリーです。修了要件を満たすには,56疾患群を満たすように160症例以上を登録する必要があります。1例当たり数分~数十分で終わりますが,登録するべき数が多く疾患群も幅広いため注意が必要です。
一方,病歴要約は症例の詳細なサマリーで,29例を登録します。プログラム外の査読委員の評価があり,内容が不十分であるとRevise(要修正)やReject(要差し替え)となるため,症例登録以上の丁寧さが求められます。専攻医のプログラムが始まったら,最初の1~2か月でそれぞれの1割程度を登録してみると,どの程度労力がかかるか把握することができ,計画を立てやすくなります。
初期研修医のうちから準備できることもある
内科専攻医の修了要件のうち,いくつかは初期研修医の間から準備しておくことができます。初期研修中にも各病院でオンライン卒後臨床研修評価システム(Evaluation system of POstgraduate Clinical training:EPOC)などで症例提出を求められる場合があると思います。「病歴要約」には初期研修中に担当した症例が14例まで登録可能ですので,J-OSLERの病歴要約でも使用できるように質を高めたり,J-OSLERのフォーマットを意識して作成したりしておくと,後々役に立ちます。この時,複数の専攻医が同じ症例を登録する場合には,「担当期間が異なる場合に可能」となっている点に注意する必要があります1)。また,初期研修中のJMECCの受講は実績として認められるため1),機会があれば受講しておくことをお勧めします。なお,初期研修2年目の1月からJ-OSLERのシステムに登録が可能になっているため,忘れずに登録しておきましょう。
J-OSLER上の作業で留意すべきポイント
先述の③~⑨は大きな負担ではありませんが,さまざまな留意点があります。例えば⑤JMECCの受講証明書や⑥学会発表・論文発表の実績は,画像のアップロードが必須であるため,受講証明書や抄録の保管を推奨します。また,④年に2回の講習会(医療倫理・医療安全・感染制御に関する講習会)や⑥学会発表は日時や内容を登録する必要があるため,参加した証拠を忘れずに保管し,メモを残しておきましょう。⑧自己評価などは遡って登録することができないため,とにかく忘れないように登録することが大事です。
新しい内科専門医制度では3年間に2か所以上の医療機関で勤務することが必須条件になっており,以前よりも転勤が増えることが特徴といえます。施設を移動すると担当指導医が変更になったり,電子カルテへのアクセスができなくなったりというトラブルが増えるため,なるべく基幹病院にいるうちに症例登録や病歴要約を終わらせておくのが得策だと思います。
なお,本記事は2021年3月時点の情報をまとめたものです。現在は「COVID-19の影響に伴う内科専門研修の特例措置」が適用されていることにご注意ください2)。今後も頻繁に情報のアップデートがあることが予想されます。最新の情報は日本内科学会やJ-OSLERのWebサイトから各自でご確認ください。
参考文献・URL
1)日本内科学会.新しい内科専門医制度に向けて.
2)日本内科学会.COVID-19の影響に伴う内科専門研修の措置について.
3)日本内科学会.専攻医登録評価システム「J-OSLER」.
原田 洸(はらだ・こう)氏 岡山大学病院総合内科・総合診療科
2016年岡山大医学部卒。同大病院で初期臨床研修を行い,初期研修中にECFMG certificateを取得。18年より現職。同大病院内科専門医研修プログラムに所属。臨床業務の傍ら,臨床研究や症例報告の執筆,東南アジアでの医療教育活動支援,臨床現場で役立つアプリなどの情報発信を行っている。
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