MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
書評
2021.03.15 週刊医学界新聞(通常号):第3412号より
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救急×緩和ケア ファーストブック
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坂本 哲也 監修
柏木 秀行,舩越 拓,伊藤 香 監訳 -
A5・頁192
定価:3,740円(本体3,400円+税10%) MEDSi
http://www.medsi.co.jp
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坂本 哲也 監修
《評者》 大内 啓 ハーバード大助教授・救急部
超高齢社会で救急医療をする医師には必読
「この医療は本当に患者さんのしてほしい治療なのか?」と,救急医なら一度は自問してしまう経験があるのではないでしょうか? 人類はいまだかつてない高齢化社会にあります。その中で救急医療は,数十年前に確立された急性期医療から少しずつ変わり始めています。延命に一番のフォーカスを置いた救急医療が,どんな患者さんにも適応されるかというと,そうではなくなってきています。救急医は救命に全力を注ぐトレーニングを積んでいますが,場合によってはそのトレーニングと臨床経験が覆るような緩和医療が,救急現場で速やかに必要とされる患者さんもいらっしゃいます。その救命と緩和の見極め方や,実際の緊急的に必要な緩和医療がどんなものなのか,世界中の救急医が知る必要があると思います。
本書は,救急医療に携わり,随時この救急と緩和の葛藤を目のあたりにしている先生方が日本の医療現場での必要性を見出し翻訳されたものです。しかも現場の第一線で対応に当たる救急医と,彼らの葛藤や状況をよく知る緩和ケア医によるコラボレーションを経て上梓されました。このような先生たちが邦訳を決断してくださって本当に良かったと思います。私は原書を英語で読んでいましたが,この翻訳書はとても正確にわかりやすく訳出されていて素晴らしいと感じました。救急医として臨床で必要な最低限の緩和医療の知識が全て詰め込まれており,これ一冊だけでも読んでおけば,臨床現場で終末期の患者さんに遭遇してもすぐに必要な知識を探し出せるのではないでしょうか。米国と状況の異なる倫理的・法的側面についても,付録として書き下ろされ,収載されているのも大きな長所です。
私は2009年に原書編者のTammie Quest先生とPaul DeSandre先生が主催するEducation in Palliative and End-of-life Care for Emergency Medicine(EPEC-EM)を受講し,救急医療と緩和医療の両方が救急現場に必要であると知って臨床現場での疑問が解消されました。それ以来,Quest先生たちと一緒に,救急現場で必要な緩和医療の知識とスキルを米国全土の救急医に広める研究や教育の推進に努めてきました。その経験から本書の内容は米国,日本だけではなく,世界中の救急医に必要なものと確信しています。お国柄,言語,病疾患などは国によって違いがありますが,人が最終的に必要になる救急・緩和医療というのは限られており,世界中の救急医が早急にこの最低限のスキルと知識を身につける必要があります。本書が少しでも,日本の患者さん個人の人生最終段階のゴールに基づいた医療を随時提供できる救急医を増やしてくれることを祈っています。
《評者》 二木 芳人 昭和大客員教授・臨床感染症学
病態の解釈と臨床的対応の在り方を知る
新型コロナウイルス感染症がパンデミックを生じて早1年になろうとしている今日,世界の診断確定感染者数は1億人を超え,死者も220万人を上回り,まだまだ感染収束には程遠い感がある。本書が上梓された2021年1月中旬,わが国でも第3波の真っ只中であり,これからもこの感染症とは長い戦いを余儀なくされるであろうと考えられる。
われわれは,この感染症とはすでに1年以上の戦いを繰り広げてきたが,当初全く未知のウイルス感染症であった本症も,多くの基礎的研究・臨床的経験が積み重ねられた結果,かなりの情報がすでに得られ,病態の理解も進んだと考えられる。その結果として,かなり効率的な予防や診断・治療が実施可能となっており,ワクチン接種も昨年末から急速に世界に普及し,わが国での実施もまさに目前である。
ただ反面,この新しいウイルス感染症では現在も未知の部分,あるいは将来への課題も少なからず残されており,今後の基礎的あるいは臨床的研究のさらなる継続は極めて重要であろう。
本書は,基礎・臨床のさまざまな領域で,この感染症と正面から向き合って戦いを繰り広げている研究者と臨床医の知見を結集したもので,現状での本症の病態の解釈と臨床的対応の在り方を知る上では有益な資料であろう。また,それぞれの領域における現状の理解は,同時に将来に向けての課題をも示唆するものであり,さらに今後,この感染症にとどまらず,近い将来に襲来するであろう新たなる感染症パンデミックに立ち向かわんとする研究者,臨床医にとっては必読の1冊であろう。
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