外国人患者への処方薬の説明に「くすりのしおり®」の活用を
寄稿 俵木 登美子
2021.03.15 週刊医学界新聞(通常号):第3412号より
新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により,日本への外国人旅行客は激減し,2020年に4000万人としていた訪日外国人旅行者数の目標は夢物語となった。しかしながら,日本には2020年6月時点で288万5904人もの在留外国人がいる。厚生労働省においては,2018年から「訪日外国人旅行者等に対する医療の提供に関する検討会」を開催し,外国人患者が安心・安全に日本の医療サービスを受けられる体制を充実させていくための取り組みを進めている。
厚生労働省の調査1)によれば,約5割の医療機関が外国人患者を受け入れている。一方で,医療通訳者の配置,電話・ビデオ通訳の利用,タブレット端末・スマートフォン端末等の利用により言語対応を行える医療機関は,徐々に増加しているものの,まだまだ未整備の医療機関が多いのが実態である。
そのような中で,外国人患者への処方薬の説明はどのように行われているだろうか? 医薬品の使用方法を正しく理解してもらうことは当然であるが,副作用の初期自覚症状についての注意や生活上の注意など,患者の安全のために重要な情報も適切に提供する必要がある。
そこで,ぜひ多くの医療者に薦めたいのが「くすりのしおり®」である。一般社団法人くすりの適正使用協議会では,医療用医薬品の添付文書情報を基に,患者・家族向けにわかりやすくA4用紙1枚程度に簡潔にまとめた医薬品情報「くすりのしおり®」をウェブサイトで提供している。現在,製薬企業178社の協力を得て,薬価収載医薬品の約75%を網羅(外来処方されるものはほとんどカバー)しており,その64%について英語版が作成されている。「くすりのしおり®」ウェブサイトには毎月数百万件のアクセスがあり,その8割はスマートフォンからである。患者本人からのアクセスも相当数に上っていると推定され,利用者からは高い満足度を得ている。
しかし,医師における「くすりのしおり®」の認知度は高くないのが現状である。2020年9月に当協議会が実施した医師,薬剤師各300人を対象としたアンケート調査では,薬剤師の約8割が「くすりのしおり®」を知っている,または聞いたことがあると答えたのに対し,医師は約2割に留まった。
私たちは「くすりのしおり®」の中でも特に英語版を医師に活用していただきたいと考えている。英語版の提供はまだ日本語版全体の3分の2程度であるが,厚生労働省委託事業として提供されている「外国人患者受入れ情報サイト」においても,医療用医薬品の患者向けの英語資材として,唯一,英語版「くすりのしおり®」が紹介されている。日本語版があるので英語版と対比しながら説明できること,英語が苦手な医療スタッフも使用しやすいこと,などのメリットがある。また,ご希望の医薬品の英語版が作成されていない場合には,ウェブサイト上の「英語版をリクエスト!」ボタンを押していただきたい。リクエストが寄せられた医薬品の製薬企業は優先度の高いものから英語版を作成できる。
医薬品の適正使用には,患者の正しい理解が必要である。外国人患者への対応時にはぜひ英語版「くすりのしおり®」を活用していただきたい。また,外国人患者ばかりでなく,日本人が海外渡航する際にも英語版の医薬品情報があれば安心であり,そのような用途でもぜひ活用してほしい。
「くすりのしおり®」ウェブサイト https://www.rad-ar.or.jp/siori/
参考文献・URL
1)厚労省.令和元年度 医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査結果(速報版)について.2020.
俵木 登美子(たわらぎ・とみこ)氏 一般社団法人くすりの適正使用協議会 理事長
1981年東大薬学部卒。厚労省医薬食品局安全対策課長,PMDA組織運営マネジメント役などを経て,2018年より現職。専門領域は市販後安全対策,医療機器評価,レギュラトリーサイエンスなど。
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