医学界新聞

書評

2021.02.15 週刊医学界新聞(通常号):第3408号より

《評者》 医療法人社団全生会江戸川病院看護部長

 本書を目にした時,「実現した方法とプロセスを全公開」というタイトルに惹きこまれた。

 講演や学会などで,東京都立松沢病院が行動制限最小化の取り組みに成果を上げていることは幾度となく聞いてきた。今回その取り組みの全てを知ることができる本書を手にし,胸が躍りワクワクした。本書には「身体拘束最小化を実現した25の方法」と「身体拘束を外せた15の事例」が書かれている。内容を読み進めていくとワクワクが確信へと変わる。なぜなら私たち精神科看護師は誰もが一度は,なぜ拘束が外せないのかと悩んだことがあるからだ。しかし,適切なアドバイスや方法が見つけられず,安全と人権の倫理に悩みながらも身体拘束を続けてしまっているのではないだろうか。本書はその悩みを解決する糸口を見つけ出せる1冊だからである。

 「精神保健福祉資料・630調査」によると2018年に身体拘束は全国で1万人以上に実施され,10年前の約2倍に増加している。そして日本は2025年に75歳以上の後期高齢者が2000万人を突破。この超高齢社会においてさまざまな疾患が増えたこと,そして認知症が増加したことが身体拘束増加の要因の1つなのだろう。しかし,果たして原因はそれだけだろうか。

 身体拘束実施について厚生労働省は,三要件「切迫性」「非代替性」「一時性」を全て満たしているケースに限るとしている。ただ,自身の経験では,身体拘束開始の時には確かに三要件に基づき開始したものの,いつの日かその理由がすり替わってしまい,長期間の拘束実施になってしまったケースがある。

 なぜ理由がすり替わるのか? そこには医療安全の壁がある。当初は「患者の身を守るために拘束する」であったはずが,拘束を続けることで「身体機能が衰える」「身体機能の衰えから転倒する」「転倒すればインシデントレポートを書かなくてはならない」「レポートを書くことが苦痛(懲罰)である」「書きたくないから転ばせたくない」「転ばせたくないから拘束をする」という悪循環に陥り,患者さんの身の安全よりも自分たち医療者の安全のために漫然と拘束を続ける。

 「ふらふらしていて転倒リスクが高いから」と言えばいかにも患者側の理由に聞こえるが,その裏には「転ばれたら困る」という医療者側の実情があるのだ。

 この医療安全の壁を乗り越えたのが,東京都立松沢病院である。始まりは,新院長・新看護部長による方針表明だったとある。

 職員一人ひとり,誰しもが医療や看護に対して悩んだり,不安だったり,変化を起こしたい,改善したいと思っている。しかし自分1人ではできることも限られる。何よりも自分が行動を起こして患者さんに何かあったらどうしようと思うと,行動する手が止まってしまう。その職員のチャレンジを生かす原動力になったのが方針表明である。

 トップの思いや考えが職員に伝わり,自分たちが支え守られていると感じられると,1人,2人と「やってみましょうか」と声が上がり,活動の輪が広がっていった。身体拘束最小化を行うことで得られる患者さんの笑顔のために,そして私たち医療者の笑顔のために,「まずは1人から,少しずつ」を合言葉に,この1冊を手に成功体験を積み重ねていこう。私は今,看護部長としてそう考えている。

《評者》 琉球大大学院教授・内分泌代謝・血液・膠原病内科学

 COVID-19パンデミックは日常生活の在り方を根本から大きく変え,あっという間にリモートワーク・オンライン・マスク着用・自粛生活が当たり前の風景になった。糖尿病診療においては制約の多い生活下,いかに上手に血糖コントロールを保ち,運動不足や食べ過ぎに陥らないようにできるか,新たな工夫や知恵が求められている。特に,COVID-19重症化要因として糖尿病に伴う血管障害がクローズアップされ,あらためて感染症の底知れぬ脅威と重要性を全ての医療人が再認識することにもなった。新常態の時代に同期して,奈良医大医師・患者関係学講座石井均教授の編集による渾身の一作,『誰も教えてくれなかった糖尿病患者の感染症診療――感染症合併例はココに気をつけて!』が上梓された。母教室,京大第二内科の大先輩である石井先生をはじめ執筆陣の多くに日頃から私自身がご指導いただいている先生方が参画され,紙面の隅々まで「実践的・アップデート・医療人と患者さんへの温かな眼差し」という3点が徹底されており,深い感銘を受けた。通読してみると,わかっているつもりで実は正しく理解できていなかった点やこの数年の感染症診療の進歩に驚かされる点が少なくなかった。あらゆる記述は医師のみならず,多職種の医療関係者,医学生・保健学科生が読んでも十分にわ...

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