医学界新聞

書評

2021.02.08 週刊医学界新聞(レジデント号):第3407号より

《評者》 沖縄県立中部病院呼吸器内科部長

 近年,非結核性抗酸菌症例の検出率と診断症例の上昇が顕著で,呼吸器感染症の中でも注目されている疾患である。しかしながら,わが国での疫学・診断方法・治療開始の時期などについては不明な点も多い。

 今回,医学書院から『症例で学ぶ肺非結核性抗酸菌症』が上梓された。本書の構成は大きく総論と各論に分かれ,総論では最新のわが国の疫学情報,臨床的および細菌学的基準の意義,菌種ごとの使用治療薬の相違点と使用上の注意点,2020年に公表された米国胸部疾患学会/欧州呼吸器学会/欧州臨床微生物感染症学会/米国感染症学会(ATS/ERS/ESCMID/IDSA)ガイドラインの臨床的疑問に対する推奨とその解説をして,具体的な症例の診断・治療のイメージが湧くように配慮がなされている。

 各論では日常診療で遭遇する具体的な症例を呈示し,対話形式で大変わかりやすく個々の症例をひもといている。会話の中で特に読者に伝えたいメッセージについては太字で強調して非専門医にも理解が深まる構成になっている。また,症例のまとめの後にこれまでに明確になっているエビデンスを項目別にまとめ,最後にはエキスパートオピニオンとして箇条書きで各症例のポイントを絡めて記載されており,肺非結核性抗酸菌症診療のクリニカル・パールがここにちりばめられていると言っても過言ではない。エビデンスにも日本の保険適用に関する情報がしっかり盛り込まれ,結節・気管支拡張型での隔日投与の可能性などにも触れられており,より適切な治療を意識していることも読み取れる。

 さらにわが国で近年増加傾向にあるMycobacterium abscessus complex(MABC)について,診断のみならず内科的・外科的な治療についても詳細に記述され,苦手意識のある読者の悩み・疑問に十分に答える内容になっている。

 また,代表的な合併症も個別に丁寧に記載され,疾患そのものの合併症としてのアスペルギルス症の予後不良因子と治療の優先順位もエビデンスをきちんと示して解説されている。そしてM. avium complex(MAC)症の重要な合併症である気胸と喀血について予測因子,遭遇した際の管理と治療の実際についても豊富な参考文献に裏付けされた推奨が記載されていて,現場でしっかり活用できるようになっている。最後のほうの症例では背景疾患のとらえ方について現場の先生方が知りたい内容にしっかりと触れられている。

 以上のように本書の概要について述べてきたが,若い先生方には各症例呈示の中の現病歴に注目してもらいたい。病歴で必要な情報が漏れなく簡潔に述べられており,内科疾患の病歴聴取の参考にしてほしいと思う。また,複数の医師による対話形式でのテーマ別の解説は臨場感に溢れ,読者も一緒に個々の症例の担当医の気持ちになって読んでいける構成である。エビデンスとエキスパートオピニオンを読み込むことで肺非結核性抗酸菌症への親近感が湧き,実際の診断・治療への自信が持てると思われる。この1冊を手にすることで肺非結核性抗酸菌症の全てを理解し,より適切な診断と治療が全国の先生方の各施設・地域で展開されることを願います。


《評者》 大名古屋ビルセントラルクリニック院長/藤田医大名誉教授

 本書はどちらもA5判の大きさで,総ページ(索引を除く)は『上部消化管内視鏡診断アトラス』が247ページ,『下部消化管内視鏡診断アトラス』が237ページ,疾患数は前者が108疾患,後者が96疾患である。すなわち,1疾患がほぼ2ページにまとめられ,左ページは「疾患の概念・特徴」と「内視鏡所見と診断のコツ」,右ページは画像である。左右は見開きになっており,「内視鏡所見と診断のコツ」を読みながら,画像を確認することができる。画像は書名が「内視鏡診断アトラス」とあるように診断の鍵となる内視鏡画像であるとともに,内視鏡画像の成り立ちを説明する病理組織像,X線像などが添えられている。内視鏡画像には通常の内視鏡像の他に,必要に応じて拡大内視鏡像,NBI像,超音波内視鏡像なども加えられている。可能な限り簡潔になるように編集されているが,内視鏡所見が多彩な疾患では画像にページ数を多く割いている。

 これらの画像は美しく鮮明である。執筆者による選りすぐりの画像であり,編者が画像にいかにこだわっているのかがよくわかる。そう言えば,下部消化管の編者の松本主之先生は,医学雑誌『胃と腸』の編集委員長であり,上部消化管の編者の長浜隆司先生,竹内学先生はいずれも『胃と腸』編集委員である。また,執筆者に『胃と腸』編集委員の多くが加わっている。『胃と腸』は画像診断を重視しており,画像から病態解明などが行われてきた。そのこだわりを本書の随所に窺い知ることができる。その他の執筆者も内視鏡診断の一流の方ばかりである。

 また,本文の「疾患の概念・特徴」と「内視鏡所見と診断のコツ」の説明は箇条書きで,疾患の概念・特徴,画像所見のうち何が重要であるのかが容易に理解できるようにしてある。本書をA5判の大きさにしたのは,持ち運びを容易にして何時でも開けることを可能にしたかったのか,内視鏡室の机の上に邪魔にならないように置けるようにしたのか。しかし,考えてみると,A5判とコンパクトにしたため,大切なことが簡潔に記載されている。そのため,日本消化器内視鏡学会専門医を受験する際に疾患の特徴・所見はここに書かれていることを覚えていればよいのではないかとも思われる。記載された疾患は同学会の専門医カリキュラムに沿って精選されているとのことであり,本書を読みながら,内視鏡検査を行えば実力がアップすることは間違いないであろう。本書は消化器内視鏡診断に特化して編集されており,診断を行う者にとって座右の書であると言える。


《評者》 ほーむけあクリニック院長

 これまでの糖尿病関連の書籍とは一線を画す,素晴らしい書籍を手にすることができた。『かゆいところに手が届く! まるわかり糖尿病塾』の名前の通り,かゆいところに手が届いた。

 例えば薬の使い方。よくある書籍では,ガイドラインに準じた薬の紹介をしておしまい。本書では一般的な内容を過不足なく学べることに加え,薬価(患者さんの負担)も併記されているあたりが憎い。また,「高齢者のメトホルミンどうしよう」「そろそろインスリンに切り替えた方が良さそうだけど,どういう手順で進めようか」など,日常診療で困るポイントが症例ベースで解説されているため,明日からの診療に即役立つ。

 例えば運動指導。「適度な運動をしましょうね」で終わってしまうこともしばしばだが,本書では「3分でできる」具体的な運動をわかりやすく紹介してくれている。コピーして渡せる配布資料も掲載されているのもうれしい。

 例えば栄養指導。行動変容のステージに沿って解説されているのだが,患者の発言内容がどのステージに当たるのか例を挙げて示してくれているためわかりやすい。ステージごとに私たち医師がどのような声掛けをすると有効かについても具体例を複数挙げてくれており,私自身,本書を読んだ後はスムーズかつ双方の納得感のある診療に変化したと実感している。

 以上のように,それぞれの項目につき,知りたい内容がわかりやすく書かれていることで,「かゆいところ」がなくなっていくのが本書のだいである。加えて興味深いのが「そうそう,そこ,かゆいところだった!」と気付かされる項目設定。挙児希望の女性患者,精神疾患を抱えた患者,がん治療中/がんサバイバー患者の糖尿病治療など,言われてみれば気になる項目についても書かれている。総合病院に勤務している時は糖尿病内科に紹介して後はお任せだったような方々だが,地域の一診療所医師となった今ではぜひとも知っておきたい内容ばかりだ。

 本書は30人を超える執筆者によって書かれている。編者のお二人が最適な方を選ばれたことがよくわかる,どの項目も極めて質が高く過不足のない内容である。一方で,執筆者が多いと読者としては読みにくく感じることがしばしばあるが,本書は極めて読みやすい。編者と執筆者で何度もやりとり,すり合わせを行ったのであろう。まるで一人の執筆者が全てを書いたのかと錯覚するほど統一感がある。

 本書の編者は,糖尿病専門医であり家庭医療専門医でもある三澤美和氏と,「医療×アート×教育」をテーマに活動する岡崎研太郎氏である。このお二人だからこそ,質が高く,現実的で,やわらかくて,面白い書籍になったのだと思われる。糖尿病診療にかかわる全ての人に読んでもらいたい一冊である。

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