医学界新聞

FAQ

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

寄稿 石岡 みさき

2021.01.18 週刊医学界新聞(通常号):第3404号より

 緑内障は視神経が障害され視野が狭くなったり暗点が出たりする進行性の疾患で,ほとんどの場合,確実な原因は不明です。有病率は40歳以上で約5%,70歳以上では約10%1, 2)であり,加齢とともに増えていく疾患のため,今後のますます進行する超高齢社会では患者数の増加が予想されます。また通院が困難な患者さんの増加で,訪問診療医が点眼薬を処方する機会も増えると思われます。そこで訪問診療医が気をつけたい緑内障診療のポイントをまとめました。

 緑内障は視神経が慢性進行性に障害されていく疾患です。そのため継続中の治療は中止せず,点眼を続けてください。ただしその治療が緑内障の進行の抑制に十分な効果があるかは,検査をしなければわかりません。点眼薬の効果や緑内障の進行を調べるには,眼底写真撮影,眼底三次元画像解析(OCT)検査,視野検査などを行う必要があります。これらの検査を行わなければ点眼薬の効果は確認できません。点眼薬の処方を続けても,緑内障が進行し失明する可能性があります。眼科の診察であれば,検査で緑内障の進行が認められて点眼薬の効果が不十分と考えられた時は,点眼薬の変更や合剤への変更,追加処方を行います。現在継続している点眼薬が必ずしも最終手段とは限らないのです。

 また,緑内障治療に際して眼科医が往診してもできることはあまりないと思ってください。上記に挙げた検査機器の往診用を持っている眼科は少数です。当院にはどれもありません。一方で眼底検査は往診でも行えるので,緑内障の可能性があるかの診断は可能です。また同じ眼科医が継続して往診していれば,症状が悪化しているかどうかはある程度わかるでしょう。しかしそれまでと異なる眼科医による往診の場合は,写真などの記録がないため,症状が進行しているかどうかの判別ができません。

 適切な検査機器がそろっていない状況での緑内障診療は難しいです。患者さんが通院できれば眼科受診したほうが良いため,近隣の眼科医への相談を勧めてください。通院が不可能であれば,治療の限界を本人やご家族に説明するほうが良いでしょう。

点眼治療の継続は必要ですが,それだけでは緑内障が悪化することもあります。緑内障患者さんに対して眼科医が往診してもできることは限られるため,通院可能であれば眼科受診を勧めてください。


 完全に寝たきりで座ることができないと,眼科受診してもできる検査は限られます。また認知症があると視野検査ができないこともあります。視野検査は大変集中力を要し,健常若年者でも実施が困難な場合もある検査です。ただ眼圧測定や眼底写真撮影,OCTは座ることができれば行えるので,ある程度の緑内障の状態を評価することは可能です。

 FAQ 1でも述べた通り,緑内障治療において点眼の継続は大事です。しかし訪問診療医からの点眼薬処方のみでは,そこで眼科医と患者さんとのつながりが途絶えます。そうなると患者さんは眼科受診できるのに来院をやめてしまい,眼科医からの検査を勧められなくなるからです。訪問診療医からも,受診可能な緑内障患者さんへの眼科受診の提案をお願いします。

認知症があっても,座ることができれば行える検査があります。その場合緑内障のある程度の病状把握は可能なので,認知症で車椅子などを使用していても,受診可能であれば眼科受診を勧めてください。


 緑内障にはいくつかのタイプがあります。急性の緑内障発作では頭痛や眼痛,悪心,嘔吐などの症状が出ますが,多くの緑内障では自覚症状がありません。自覚症状が出るとしたら視力低下ですが,緑内障は進行してかなり悪化した状態でも中心視野が保たれることがほとんどです。そのため末期まで視力は良好なことがよくあります。緑内障点眼薬使用中の視力低下は,緑内障が原因ではないほうが多いと言えます。

 写真は訪問診療医から緑内障の点眼薬を処方されていたものの,1年前から急に視力が低下したとの訴えがあった患者さんの眼底です。家人は緑内障が進行したと考え,そのうち眼科受診させればよいと考えていたようです。写真は白内障が認められる上,ピントがぼけていてわかりにくいと思いますが,網膜中心静脈閉塞症が確認できます。同時に撮ったOCTでは網膜全体が浮腫状になっていて,視力は光覚弁(暗室にて眼前で照明を点滅させ明暗を弁別できる視力)でした。当然,網膜中心静脈閉塞症は緑内障とは治療方法が異なります。放置すれば眼内の血流が滞り新生血管緑内障になって,痛みを伴うようになります。

3404_07.jpg
写真 網膜中心静脈閉塞症が起こり,網膜全体が浮腫状になっている患者さんの眼底写真
全体に点状出血が散在し,視神経乳頭部分には新生血管と思われるものが確認できる。同時に撮ったOCTでは,網膜が浮腫状となっていた。

 網膜中心静脈閉塞症は発症時に特徴ある放射状の出血が起こるので,直像鏡で眼底を見ることができる医師であれば,発症直後に診断まで行うことは可能だと思います。しかし診断をつけることよりも,突然視力が低下した原因を考えることのほうが重要です。

 緑内障の末期の場合は視野が狭くなり,視力が低下する可能性もあります。とはいえもともと診療していた眼科医に問い合わせなければ,視力低下の原因は判断できません。もしくは最後に行った視野検査の結果があれば,それをもとにして他の眼科医でも緑内障か判断することが可能となります。

 緑内障の末期では,積極的治療をあきらめるのも1つの考えです。しかし緑内障の進行具合が視力が低下するほどでなければ,他の疾患を念頭に置く必要があります。今回の疾患に限らず,視力が低下する疾患はさまざま考えられます。眼科医に往診を依頼するか,患者さんに眼科受診を勧めたほうが良いでしょう。

 この患者さんはもともと当院で診ていた方ではありませんでした。当院で診察したところ僚眼に緑内障の所見が全くなかったため,訪問診療医から高眼圧に対して点眼薬が処方されていたと考えられます。視野に変化のない方だったので,突然光覚弁になるほどの視力低下は緑内障とは考えにくいです。緑内障の継続治療を訪問診療で行う場合,訪問診療医はもともと診察していた眼科医から経過や現況を聞いておいたほうが良いと思われます。

緑内障が原因とは考えにくい視力低下が起きたときは,処置治療が必要な別の疾患が考えられます。患者さんに眼科受診を勧めるか,眼科医への往診を依頼してください。

緑内障の治療点眼薬は中止すべきではありませんが,白内障の治療点眼薬は中止してもかまいません。白内障も緑内障同様に加齢性の変化ですが,点眼薬の効果はほとんど期待できません。白内障は原則手術で治療する疾患であり,手術が手遅れになることはまれです。このことは分担執筆した『薬の上手な出し方&やめ方』(医学書院)にも記載しています。ぜひお読みいただければ幸いです。


1)Ophthalmology. 2004[PMID:15350316]
2)Ophthalmology. 2005[PMID:16111758]

みさき眼科クリニック院長

1989年横市大医学部卒。同大病院研修後,同大大学院にて博士号取得(医学)。米ハーバード大留学,東京歯科大市川総合病院眼科,両国眼科クリニックを経て,2008年より現職。眼科専門医。著書に『ジェネラリストのための眼科診療ハンドブック』(医学書院)。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook