医学界新聞

書評

2021.01.11 週刊医学界新聞(レジデント号):第3403号より

《評者》 聖マリアンナ医大特任教授・小児科学

◆とにかくわかりやすい一冊

 小児の診療,特に初診において「無熱・有熱のけいれん」と「頭痛」はとても頻度の高い症候です。一方で,初学者や非専門家にとっては,数ある小児神経学の名著も,この分野の難解なイメージからなかなか脱却させてくれない,というのが本音だと思います。このような現状の中,本書の売りは2つ。それは「とにかくわかりやすく明快」,そして「明日からけいれんと頭痛で困っている子どもとその保護者に向き合う勇気が湧く」ことです。まるで優秀なコーチがそばに居るような安心感です。子どもの初診を担う全ての医療従事者――期間が大幅延長された臨床実習で小児科を回る医学生,必修化された小児科を回る初期臨床研修医,初期研修修了後に専門医をめざして研修を始める小児科専攻医,ジェネラル力を何とかキープしたいベテラン小児科専門医,プライマリ・ケアの実践の中で小児の診療も担当している家庭医や総合診療医,またけいれんや頭痛の小児を担当する看護師・保健師・薬剤師・臨床検査技師・診療放射線技師――にとって,まさに待望の一冊と言えましょう。

 以下,著者の研修医時代の一期後輩としての視点から,本書の特徴を掘り下げてみます。

◆わかりやすさの源

 著者も序文で書かれていますが,本書のわかりやすさの本質は,「大事なポイントはこれ」「ここまではわかっている」「それ以上は議論が分かれる」の3つの視点を徹底して打ち出している点にあります。本書のトピックは概念や分類も日進月歩の変化でとかくもやもやを感じやすいのですが,この3つを提示してもらうことで,どれほど学修者が救われるか計り知れません。これには,著者が忙しい第一線の臨床病院を卒後研修の場として選び,さらに米国での高次専門研修と診療の他流試合を絶え間ない向上心と研鑽で乗り越えられた経験が生きています。徹底した米国の「原理・原則主義(エビデンスに立脚してまず白黒をはっきりさせる)」「実践主義(白黒はっきりしない部分はそれを認めた上で今現在どうやって目の前の患者の役に立つかを考える)」という揺るぎない診療・教育の理念を体得されているからできる技です。

◆本書から勇気をもらう,その源

 本書の語調には,経験の浅い学修者に対しても噛んで含めて優しく語りかけるような慈しみが浸透しています。これは著者が研修医時代から現在のクリニック診療まで変わらず貫いている,患児・保護者への「子育て応援団」としての温かいまなざしと同じ目線です。よく臨床医学教育において「教育の仕方に迷ったら患者への説明・指導を思い浮かべよ」と言われますが,まさにその視点が本書にはあります。著者自身が初学者だった頃の気持ちが至るところにストレートに表現されており,まさしく読者の立場に立ち,問題に向き合う勇気をくれるコーチ役を果たしています。

 本書が多くの学修者のガイドになることはもちろん,他分野の小児医学・医療の入門書の執筆者にとっての手本にもなると確信します。

《評者》 国立病院機構近畿中央呼吸器センター呼吸器内科

 医学書を読んで,鳥肌が立ったのは一体何年ぶりだろうか。こんなことを書くと,書評だから大げさに書いているのではないかと誤解されそうだが,事実である。

 ちまただけでなく,医学出版の世界も現在コロナ一色なのだが,呼吸器内科領域で脅威となりつつあるのが非結核性抗酸菌(NTM)である。その...

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