子どものけいれん&頭痛診療

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小児科診療のなかでも判断に悩みがちな「けいれん」「頭痛」(小児神経の7割を占める)の適切なアプローチを学べる1冊。けいれんか否かの判断、鑑別診断、治療。また、意外と多い子どもの頭痛についても解説。けいれんや頭痛の子どもに「問診で何を聞くか」「診察で何をみるか」「必要な検査の判断」「専門医へつなぐ時」「予防投薬」「保護者からの質問への答え方」など、ジェネラリストが最低限備えておく知識をまとめている。
*「ジェネラリストBOOKS」は株式会社医学書院の登録商標です。
シリーズ ジェネラリストBOOKS
二木 良夫
発行 2020年08月判型:A5頁:162
ISBN 978-4-260-04278-9
定価 3,850円 (本体3,500円+税)

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はじめに

 小児神経外来と聞くと,どんなイメージがあるでしょうか? 寝たきりの重度の遅れがある子どもや,教科書や国試に出てくるようなまれな患者を思い浮かべる人もいると思います.もちろんそういう患者もいますが,約7割の患者はけいれん疾患(てんかん,熱性けいれんなど)と頭痛です.残りの約2割が注意欠如・多動症(ADHD),約1割がまれな神経疾患です.ADHDは,精神科や一般小児科でもみられている境界領域の疾患で,地域によって担当する医師の専門は異なるかと思います.

 筆者は米国で小児神経科専門医として9年間開業し,その後帰国して,教育病院で神経科外来や一般小児科外来を担当し,現在は沖縄で一般小児科医として開業しています.日常診療では,風邪,下痢などの感染症と,喘息,アトピー,時に食物アレルギーなどのアレルギー疾患が大多数ですが,けいれん疾患や頭痛の患者も少なくありません.また,研修医に講義をするときに,小児神経の分野で一番リクエストが多いのが,「けいれん疾患」と「頭痛」です.
 けいれん疾患は熱があるかないかで全くアプローチが異なります.筆者の指導医の1人は,“a totally different ball game(全く別のスポーツ)”と表現していたほどです.

 小児神経というと,とても難解な分野で,苦手なイメージをもっている方も多いでしょう.筆者も最初は難解な印象があり,米国で小児神経科の研修を始めたときには,指導医によく質問をしました.彼らは,「大事なポイントはこれ」「ここまではわかっている」「それ以上は議論が分かれるところだ」と明快に答えてくれました.百科事典のように各疾患について細かく説明するのではなく,そのように教えられて,ずいぶんすっきりしたことを覚えています.本書では,その教えをもとにまとめています.

 米国小児神経科専門医の試験は,筆記試験(一次試験)と口頭試験(二次試験)があります.口頭試験では,試験官の前で,実際の患者(もしくは模擬患者)に対して問診,診察を行い,その後,質問攻めにあいます.試験官が知りたいのは,正確な診断ができるかどうかではなく,問題に対するきちんとしたアプローチができているかどうかです.たとえ最終診断が間違っていても,その過程ができていれば合格.逆に診断が合っていても,その過程ができていなければ不合格になります.
 小児神経科のカンファレンスなどに参加すると,症例の多くはまれな疾患です.研修医や一般小児科医にとっては,今後経験する可能性がないような疾患では学ぶ意欲も下がるでしょう.彼らにとって大事なのは,最終診断をすることではなく,どのように,どこまでアプローチしたらよいかを学ぶことです.そしてあとは,専門家にまかせればよいのです.

 本書では,研修医や一般小児科医がどのように「けいれん疾患」と「頭痛」にアプローチしたらよいかを一緒に考えていきます.米国の指導医を見習って正確を期するための詳細な記述は避け,むしろややざっくりとした記述にとどめて解説しています.
 本書を通して,子どものけいれん疾患と頭痛に対する苦手意識が少なくなれば幸いです.

 2020年7月
 二木良夫

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はじめに

第1章 無熱性のけいれんではどうする?
 ■子どものけいれん診療フローチャート
 無熱性のけいれん患者がきました!
 けいれんって何?
 けいれんの特徴
 Big Question! そもそも本当にけいれん?
 脳波は答えを教えてくれません
 問診が最重要!
 けいれんではない,とすると何が考えられる?
 「けいれん」を起こす理由はさまざま
 けいれんしているときに,どうするか?
 けいれん重積を知ろう
 けいれん重積を治療しよう
 けいれん重積の薬物療法
 初回の無熱性けいれんを抗てんかん薬で治療するか否か?
 再発のリスクは何か?
 特徴的なてんかんは知っておこう
 抗てんかん薬について知ろう
 保護者からの質問に答えます

第2章 有熱性のけいれんではどうする?
 熱性けいれんって何?
 都会でも田舎でも,熱性けいれん患者はきます
 なぜ発熱でけいれんするの?
 なぜ大きくなったら治るの?
 子どもが熱を出してけいれんしています!
 問診,診察のポイント
 検査は何をする?
 腰椎穿刺は必要?
 頭部CTは必要?
 脳波検査はあまり役に立ちません
 保護者からの質問攻めにどう答えるか?
 再発のリスク
 解熱薬は熱性けいれん予防に無効
 熱性けいれん予防に抗てんかん薬内服はしない
 ジアゼパムをどう使うか?
 熱性けいれん時にどうするか?
 熱性けいれん後の知的予後は?
 熱性けいれんによるてんかんのリスク
 薬・予防接種の注意点

第3章 子どもの頭痛ではどうする?
 ■子どもの頭痛診療フローチャート
 子どもに頭痛ってあるの?
 国際頭痛分類で頭痛を分類すると?
 一次性頭痛を理解しよう
 問診のポイント
 片頭痛か緊張型頭痛か,それが問題?
 危険な二次性頭痛を問診で除外しよう
 その他の二次性頭痛を判断する
 危険な二次性頭痛を診察で除外しよう
 早め早めの治療が大事
 いつ予防投薬を開始するか?
 予防投薬はなぜ効くの?
 予防投薬の進め方
 保護者からの質問に答えます

索引

レクチャー
 1 脳性麻痺の早期診断
 2 意識障害の鑑別
 3 眼底診察のコツ
 4 片頭痛とてんかんの関連

コラム
 1 医療訴訟と日本の未来?
 2 とっても大事な海外旅行保険
 3 一般小児科医と小児神経科医のアプローチの違い

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簡潔明瞭,臨床に必要な小児神経診療のエッセンス
書評者: 安次嶺 馨 (前・沖縄県立中部病院ハワイ大学卒後医学臨床研修事業団ディレクター)
 著者はアメリカに15年間滞在した小児神経科医である。沖縄県立中部病院で3年間の卒後研修を受け,その後,国内の病院で勤務して卒後7年を経て渡米した。セントルイス小児病院,アラバマ小児病院,ボストン小児病院で小児神経科のフェローとして,著名な専門家の指導を受けた。

 ボストンでは,新生児神経学の泰斗JJ Volpeの回診で学ぶという得難い体験をしている。また,優秀なフェローやレジデントたちのポイントをつかんだプレゼンテーションのうまさに感服したという。英語力の劣る外国人が米国人に認めてもらうためには,プレゼンテーションやディスカッションはシンプルにしてポイントを絞ることを,著者はボストンで学んだ。この習慣は日本での講演でも執筆でも,著者が実践しているスタイルであり,本書では「てんかん」「頭痛」という最もcommonな小児神経疾患の解説に,このことが如実に表れている。

◆この本の特色

 てんかんの分類や発作型についての説明から入るのではなく,まず救急室を訪れた症例を提示し,症状や発作の起こった背景を知る問診の重要性を説く。この本では多数の症例が示されるが,症例を重ねるごとに鑑別診断,検査,治療薬の実際へと進んでいき,てんかんや頭痛の全体像を把握できる。いわば,ベッドサイドティーチングを受けつつ,小児神経学を学ぶという実践的な学習効果を享受できる。

 全般的に,説明は簡潔明瞭である。簡潔すぎて,何か物足りない感じがして,これでよいのかと思うほどだ。元来,神経は生理,生化学,解剖学的知識が絡み,診断困難な病気が多く,敬遠したくなる。しかし著者は,小児科で見るcommon neurological diseasesは限られており,そこに十分な力を傾注し,まれな疾患は専門家に任せてよいという臨床医の立場を貫く。膨大な神経学の知識と診療経験を持つ著者が,あえて簡潔に子どものけいれんと頭痛にテーマを絞って書いた本書は,読む者の心にすっと入り,短時間のうちに,そのエッセンスを得ることができる。さらに詳しく知るためには,選び抜かれた文献に目を通せば,著者のめざす小児神経学の神髄に迫ることができる。

◆Clinical Pearls

 この本には,著者の経験から語られるclinical pearlsが随所にちりばめられている。その一部を紹介する。

・ 小児神経科医が主訴,診察所見の提示後に考えるのは,「病変はどこか」(局在診断)です。「局在診断とは,神経システムの中の,(1)大脳半球,(2)脳幹部,(3)脊髄,(4)末梢神経,(5)神経筋接合部,(6)筋肉のどこに病変があるかを診断することです」。「局在診断をせずに最初から鑑別診断を考えていくと,あまりにも鑑別診断のリストが広がりすぎてしまうのです」。(p.138)

・ 「目の前で患者がけいれんしているときは,ベテランの医師でも内心はドキドキしています。しかし,それは顔に出さず,落ち着いて(ふりでよいです)行動しましょう」。(p.37)

・ 「低血糖によるけいれんは,全身性と考えがちです。たとえ部分性のけいれんでも,鑑別診断に低血糖を忘れないことです」。(p.31)

 親しみやすいイラストが,さらに読者の理解を高めている。子どもを診る全ての医師に,この良書を薦めたい。
“小児のけいれんと頭痛”誌上ベストコーチ
書評者: 吉村 博 (聖マリアンナ医大特任教授・小児科)
◆とにかくわかりやすい一冊

 小児の診療,特に初診において「無熱・有熱のけいれん」と「頭痛」はとても頻度の高い症候です。一方で,初学者や非専門家にとっては,数ある小児神経学の名著も,この分野の難解なイメージからなかなか脱却させてくれない,というのが本音だと思います。このような現状の中,本書の売りは2つ。それは「とにかくわかりやすく明快」,そして「明日からけいれんと頭痛で困っている子どもとその保護者に向き合う勇気が湧く」ことです。まるで優秀なコーチがそばに居るような安心感です。子どもの初診を担う全ての医療従事者――期間が大幅延長された臨床実習で小児科を回る医学生,必修化された小児科を回る初期臨床研修医,初期研修終了後に専門医をめざして研修を始める小児科専攻医,ジェネラル力を何とかキープしたいベテラン小児科専門医,プライマリ・ケアの実践の中で小児の診療も担当している家庭医や総合診療医,またけいれんや頭痛の小児を担当する看護師・保健師・薬剤師・臨床検査技師・診療放射線技師――にとって,まさに待望の一冊と言えましょう。

 以下,著者の研修医時代の一期後輩としての視点から,本書の特徴を掘り下げてみます。

◆わかりやすさの源

 著者も序文で書かれていますが,本書のわかりやすさの本質は,「大事なポイントはこれ」「ここまではわかっている」「それ以上は議論が分かれる」の3つの視点を徹底して打ち出している点にあります。本書のトピックは概念や分類も日進月歩の変化でとかくもやもやを感じやすいのですが,この3つを提示してもらうことで,どれほど学修者が救われるか計り知れません。これには,著者が忙しい第一線の臨床病院を卒後研修の場として選び,さらに米国での高次専門研修と診療の他流試合を絶え間ない向上心と研鑽で乗り越えられた経験が生きています。徹底した米国の「原理・原則主義(エビデンスに立脚してまず白黒をはっきりさせる)」「実践主義(白黒はっきりしない部分はそれを認めた上で今現在どうやって目の前の患者の役に立つかを考える)」というゆるぎない診療・教育の理念を体得されているからできる技です。

◆本書から勇気をもらう,その源

 本書の語調には,経験の浅い学修者に対しても噛んで含めて優しく語りかけるような慈しみが浸透しています。これは著者が研修医時代から現在のクリニック診療まで変わらず貫いている,患児・保護者への「子育て応援団」としての温かいまなざしと同じ目線です。よく臨床医学教育において「教育の仕方に迷ったら患者への説明・指導を思い浮かべよ」と言われますが,まさにその視点が本書にはあります。著者自身が初学者だった頃の気持ちが至るところにストレートに表現されており,まさしく読者の立場に立ち,問題に向き合う勇気をくれるコーチ役を果たしています。

 本書が多くの学修者のガイドになることはもちろん,他分野の小児医学・医療の入門書の執筆者にとっての手本にもなると確信します。
これを読めば小児神経の外来診療ができる!!?
書評者: 児玉 和彦 (こだま小児科理事長)
 私は,子どもの診療が得意な総合診療医として,小児診療と総合診療の両分野でお仕事をさせていただいています。数年前,小児のまれな疾患についての症例カンファレンスをする機会をいただいたときに,最初の数分で見事な推論から一発診断をしたのが二木良夫先生でした。本書は,「けいれん」と「頭痛」について,米国小児神経科専門医でもある二木先生のあふれんばかりの情熱と,整理された知識と経験が詰め込まれた良書です。

 子どもの「けいれん」は,小児科医にとってはコモンディジーズですが,総合診療医としては対処に悩むテーマです。熱性けいれんの対応に自信を持つには,本書にあるフローチャートをみるとよいです。熱性けいれんの子どもを持つ親御さんからのさまざまな質問に答えるためのエビデンスに基づいた説明例が記載されているのも,初学者には親切です。

 また,小児科医でも苦手な子どもの「てんかん(発作)」について,専門医の視点からわかりやすく記載されていて,多くの気付きがあるところが本書の真骨頂です。「Rage attackはてんかんではない」など,てんかんに似た病気の鑑別はベテラン小児科医でも役に立ち,明日からの診療意欲につながります。付け焼き刃では専門家には敵わないことがわかります。

 一方,「頭痛」診療は総合診療医が得意とするところですが,小児科医からは鑑別診断が十分に挙がってこないことがあります。小児科医が正しく片頭痛を診断することは,子どもたちの学校生活において非常に重要です。本書では二木先生の平易な語り口で,片頭痛について学べます。子どもから適切な病歴を得ることは難しいですが,それについても小児神経科医ならではのアドバイスをもらえます。後半に書かれている片頭痛の治療,特に予防投与の解説は,果たしてプライマリ・ケア医がどこまでやってよいのかと迷ってしまうくらい,「明日から処方できる」具体的な記述になっています。

 随所にちりばめられる米国での臨床経験からのピットフォールとコツは,本書でしか読めない内容で,これだけでも価値があります。頭部CTをどの症例に撮るべきか,眼底の診察はどのようにするべきかなど,日本の現状を踏まえた二木先生だからこその,バランスのよい意見には納得するところが多いでしょう。

 何よりすごいのは,この本が一人の開業医によって書かれているところです。忙しい一般診察を丁寧に笑顔で行いながら,執筆を続けた二木先生はすごい!と思います。たくさん勉強して,たくさん患者さんをみる医者は最強であると再確認させてくれる本書を,子どもをうまく診療できるようになりたいあなたにお薦めします。

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