DI業務を担う薬剤師が知っておきたい
「医薬品情報のひきだし」の増やし方
寄稿 村阪 敏規
2020.11.30
厚労省が地域包括ケアシステムの構築を推進する中で,2015年には地域医療における薬局の在り方を模索する「患者のための薬局ビジョン」1)が策定されるなど,薬局薬剤師の他職種と連携した地域医療に対する積極的な介入が進みつつあります。それに伴い薬局薬剤師に対する他職種からの問い合わせの増加が予想され,医薬品情報業務(DI業務)の重要性がさらに高まると考えられます。しかし薬局薬剤師が担う業務領域は,調剤業務,服薬指導業務など多岐にわたり,DI業務に多くの時間を費やすことが難しい状況があります。
病院では東大病院,阪大病院,九大病院への設置を皮切りに,各地の国立大学病院に医薬品情報室が設置されました。これにより医薬品情報を駆使した病院薬剤師の役割が他職種に周知され,病院薬剤師の病棟におけるチーム医療への積極的な介入が進みました。同様に薬局薬剤師も「医薬品情報のひきだし」を増やすことで,地域医療におけるチーム医療に積極的に介入できるようになると考えられます。
「医薬品情報編集者」としてDI業務を担う
医薬品に関する問い合わせがあれば,薬剤師は医薬品情報を検索・取得して批判的吟味を加え,適切に評価・確知します。その上で受け手の知識や理解度に応じて医薬品情報を再構築する「編集」を行い,的確かつ迅速に提供します。このような業務を行う薬剤師は「医薬品情報編集者」とも言えるでしょう。
DI業務を行う薬剤師は,さまざまな場面や状況下の受け手に対して刻々と更新される医薬品情報を提供し,薬に付加価値を与えます。限られた時間の中で薬剤師が DI業務を行うには,薬剤師間で問い合わせ内容と回答を分析・評価した上で医薬品情報を蓄積・共有して効率化を図り,情報の質を確保することが必要です。特に医療従事者が情報の受け手であれば,薬剤師の情報によって薬物療法の選択に大きな影響と重大な責任が生じるため,薬剤師は質の高い医薬品情報の提供に努める必要があります。
また薬剤師にとって,最終的な回答に到達するまでに多くの「問いの繰り返し」を行い,関連した情報を付加して提供することも重要です。「問いの繰り返し」を行うことで,一つの「問い」をきっかけとして薬剤師が持つ「医薬品情報のひきだし」を増やすことができます。医薬品情報業務の効率化を図り,情報の受け手の満足度を向上させるためには,一人ひとりの薬剤師が問い合わせに対する回答までの考え方の道筋を経験するなど研さんを積むことが必要です。
以下,このたび筆者が上梓した『医薬品情報のひきだし』(医学書院)に掲載したフロー(図)に沿って,問い合わせから回答に至るまでのDI業務の考え方について実例を示します。
問い合わせから回答までの一連の流れ
問い合わせ
アセトアミノフェンは他のNSAIDsと比較して消化性潰瘍が少ないと聞きましたが,空腹時に服薬することは可能でしょうか?
問い1 添付文書の記載は?
カロナール®錠の添付文書には「空腹時の投与は避けることが望ましい」と記載されています。一方で,OTC医薬品のタイレノール®Aの添付文書には「プロスタグランジンにほとんど影響を与えないため,空腹時にも飲めるやさしさで効く」と記載されています。どちらが正しいのでしょうか。
問い2 アセトアミノフェンは空腹時に服薬可能か?
アセトアミノフェンは上部消化管出血のリスク―オッズ比が1.2と低く,NSAIDsの同時投与がない場合は用量の増加にかかわらず上部消化管出血のリスクを上昇させないと報告されています2)。以上からアセトアミノフェンの上部消化管出血のリスクは非常に低いと考えられます。
問い3 食事の吸収率への影響は?
カロナール®錠のインタビューフォームでは,糖などの炭水化物を多く含む食事と共に服用すると,炭水化物と複合体を形成してアセトアミノフェンの初期吸収速度が減少すると報告されています3)。
問い4 空腹時投与のリスクは?
高用量のアセトアミノフェンによる肝毒性のリスクはアルコール摂取だけでなく,空腹時服薬により増加するという報告があります4)。ただしこれは1日あたり4 g以上という高用量のアセトアミノフェンを服用した場合であり,添付文書上での最大投与量を超えているため,通常の適正用量の範囲内では問題にならないと考えられます。
ここから,次の回答を導き出すことができます。
回答
食事による影響で吸収率が変化する可能性はありますが,アセトアミノフェンでは用量にかかわらず上部消化管出血のリスクが増加しない報告があり,食前や空腹時の投与も可能であると考えられます。
「アセトアミノフェンは空腹時に服薬可能」という回答に至るまでに,添付文書やインタビューフォームを確認し,アセトアミノフェンの消化管障害に関する学術論文を検索し,空腹時服薬のリスクや食後と比較した際の吸収率の違いなどを調査しています。もし「問い合わせに対する回答までの道筋」について臨床現場で経験することが難しい場合は,事例を書籍などで習得して問い合わせに対する回答までのストーリーの「型」を習得しましょう。
*
DI業務を担う薬剤師には「医薬品情報編集者」として医療従事者や患者に医薬品情報を提供し,個々の患者に対する薬物療法を最適化した上で在宅医療や地域医療に貢献することが求められます。問い合わせ内容とそれに対する回答を分析し,蓄積や共有,評価,更新された情報の共有による効率化を行いつつ,「問いの繰り返し」を行うことで各人の「医薬品情報のひきだし」を増やし,DI業務の実経験を積むなどの絶え間なく自己研さんを行うことが大切です。
参考文献・URL
- 1)厚労省.患者のための薬局ビジョン――「門前」から「かかりつけ」,そして「地域」へ.2015.
- 2)Br J Clin Pharmacol. 2002[PMID:12236853]
- 3)医薬品インタビューフォーム.カロナール®錠200,カロナール®錠300,カロナール®錠500.2018.
- 4)JAMA. 1994[PMID:7990219]
村阪 敏規(むらさか・としき)氏 株式会社トゥモファ代表取締役 こうなん薬局
2008年神戸薬科大卒。18年三重大大学院医学系研究科修士課程修了。医療薬学専門薬剤師。08年三重大病院薬剤部入職,11年こうなん薬局を開局。13年に株式会社トゥモファに組織変更。薬局経営・薬局実務を行いつつ,薬剤師のための医薬品情報編集室「CloseDi」を運営している。近著に『医薬品情報のひきだし』(医学書院)がある。
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