医学界新聞


「日本版敗血症診療ガイドライン2020」公開へ

2020.11.30

敗血症は「感染に対する調節不能な宿主反応により,重篤な臓器障害が引き起こされた状態」と定義され,世界で年間約5500万人が発症し,約1100万人が死亡している。発症率,致死率が高く,救急・集中治療領域だけでなく一般診療の現場でも重要な症候群の一つだ。

日本集中治療医学会と日本救急医学会の2学会が合同で作成した「日本版敗血症診療ガイドライン2020」(J-SSCG2020)の正式版が,今年の12月末に公開される予定となっている〔先行版は,9月に日本集中治療医学会日本救急医学会のウェブサイトで公開〕。

国際的な敗血症診療ガイドラインSurviving Sepsis Campaign Guidelines(SSCG)が2004年から4年ごとに改訂を重ねる一方で,本邦の臨床の実情を考慮した独自の診療ガイドラインが必要との考えから,J-SSCGは2012年の作成以来,4年ごとに改訂を行っている。本邦の医療レベル・保険制度などを考慮し,SSCGとは一線を画するのが特徴である。

J-SSCG2020は質の担保と作業過程の透明化を図るため,2016年の改訂時と同様,相互査読制度や討議のオープン化を採用し,パブリックコメント募集は計2回実施した。また,人材育成とネットワーク構築を念頭に若手中心のグループが組まれた。

2016年以来2回目となる今回の改訂で注目されるのは,日本の診療現場を考慮した新領域の追加と,多職種が検討に加わった点である。J-SSCG2016で画像診断,体温管理,ICU-acquired weakness (ICU-AW)とPost-Intensive Care Syndrome(PICS)などが追加されたのに続き,J-SSCG2020では新たに,Patient-and Family-Centered Care,Sepsis Treatment System,神経集中治療,ストレス潰瘍の4領域を加えた計22領域で構成されている。

2学会合同による委員会は,委員と担当理事26人に,看護師9人,理学療法士4人,臨床工学技士2人,薬剤師2人の多職種と患者経験者2人を含めたワーキンググループメンバー85人,公募によるシステマティックレビューメンバー115人の総勢226人の参加協力によって進められた。

J-SSCG2020の推奨策定には,国際的に普及しているGRADE(Grading of Recommendations,Assessment,Development and Evaluation)方式が採用され,①エビデンスの質,②利益と害のバランス,③患者の価値観や希望,④コストや資源(保険診療)の利用――の4要因が評価された。推奨は全委員の投票により推奨採択の可否を決定した。その結果,118の臨床課題(Clinical Question:CQ)に対する回答は,79個のGRADEによる推奨,5個のGood Practice Statement(GPS),18個のエキスパートコンセンサス,27個のBackground Question(BQ)の解説,および敗血症の定義と診断となった。

J-SSCG2020の正式版は今後,日本集中治療医学会誌と日本救急医学会誌に同時掲載される。日本語版の作成と並行して,見開き2ページでCQ & Answerを見られる「ダイジェスト版」や,海外への発信を目的とした「英語版」も作成している。また,スマートフォンなどのデバイスをベッドサイドで利用することを想定し,時間軸に沿った診療フローを提示する「アプリケーション版」を無料で公開する予定だ。

J-SSCG2020特別委員会の委員長を務める小倉裕司氏(阪大)は,「国内外の敗血症診療の現場において十分に役立つガイドラインができた。敗血症診療に不安のある施設や,敗血症を学びたい多職種にJ-SSCG2020を活用してもらうことで,日本の敗血症診療の底上げにつなげたい」と展望を語った。

 

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