医学界新聞

医師のための研究留学術(前編)

寄稿 耒田 善彦,藤雄木 亨真

2020.08.10



【寄稿】

医師のための研究留学術(前編)
価値ある留学先とメンターに出会うには

耒田 善彦(米マサチューセッツ総合病院救急部リサーチフェロー)
藤雄木 亨真(米マサチューセッツ総合病院救急部リサーチフェロー)


 昨今,医師が研究留学先を探す手段は多様化しています。ただ,まとまった情報は少なく,断片的な情報を頼りに留学先を決定する人が大多数ではないでしょうか。

 今回は,米マサチューセッツ総合病院(MGH)に現在留学している私たちから,全2回に分けて研究留学の現状と準備すべき内容をお伝えします。前編では研究留学先の探し方と海外大学院への留学,後編では現在行っている研究と海外大学院での学習環境を扱います。

研究留学に当たっての留学先の探し方

 私は今,MGHにリサーチフェローとして留学中です。留学先を探すに当たり,情報が少ない中で多くの人に頼って情報収集を行いました。私の知る限り留学先の探し方は,①医局で確立された研究室の選択,②知人の紹介,③留学情報サイトを通じて直接応募,④研究室への直接の問い合わせ,⑤学会でのPI(Principal Investigator)とのコネクションづくり,⑥海外大学院への進学,の6パターンが挙げられます。

①医局で確立された研究室の選択

 医師が想像する留学は①が多いと思います。実績があり安定した研究室であることが多く,交渉が少ないメリットがあります。一方,前任者の研究を引き継ぐことが多く自分の興味がある研究を選べない可能性や,医局内で留学タイミングを調整する必要があるなどのデメリットもあります。

②知人の紹介

 もし行きたい研究室に知人がいれば,その方経由でPIに連絡を取ってもらうことが留学への近道です。素性が明らかな人の方が受け入れられやすいのは自明の理です。医師の世界は狭いため,知り合いの留学経験者をたどるとどこかでPIにつながっていることも多いです。

③留学情報サイトを通じて直接応募

 研究室員の募集情報をまとめているサイト(研究留学ネット)があります。ここには研究の内容や連絡先も載っています。多い時は月に10件以上募集されており,留学情報収集に当たって必見のサイトです。

④研究室への直接の問い合わせ

 全ての求人が公にはなっているわけではありません。そのため,受け入れ可能かどうか研究室に直接連絡するのもいい手段です。私は研究したい領域の論文から研究室の候補を見つけ,論文に載っているメールアドレス宛にCV(履歴書)を付けて問い合わせをしました。ほとんど返信は来ないだろうと思っていましたが,半分程度は返信があり,受け入れが可能でありそうな研究室につないでくれるPIもいました。

⑤学会でのPI(Principal Investigator)とのコネクションづくり

 国際学会等でコネクションをつくり,留学を直接交渉するのも1つの手段です。④のように素性の知れない相手からメールが来ても忙しいPIは返信しないかもしれません。しかし,学会では直接話すことができます。例えばPIの発表が終わった後など,意外に話し掛ける時間はあるものです。

⑥海外大学院への進学

 後ろで述べる「海外大学院留学での学びと卒業後の進路」を参照してください。

 私は研修医の頃から情報収集を行い,本格的に動き始めてから約2年後に留学することになりました。応募にはCVに記載する実績が必要であり,一朝一夕で留学することはできません。

 上述の②~⑤を実行し,その過程で多くの先生方に助言や情報をいただいた結果,最終的には②で現研究室に留学することになりました。周囲の留学経験者も数パターンを同時に取り組み,留学しています。皆さんも可能な限り,複数の手段を講じることをお勧めします。暗中模索になりますが,それでも「Connecting the Dots」を信じて諦めないことが大切だと思っています。

(藤雄木 亨真)

海外大学院留学での学びと卒業後の進路

 日本ではMaster of Public Health(MPH)が臨床研究を学ぶ王道のように扱われています。しかし公衆衛生大学院は非常に分野の幅が広く,大学院によって得意とする分野も異なります。他にもMaster of ScienceやResearchを中心にしたプログラムもあるため,自分に合ったコースを選ぶことが大切です。

 MPHでは通常,1~2年で授業の他にCapstone(修士プロジェクト)やPracticum(実習やインターン)が課されるところが多いと思います。学生ビザではなく,交換交流プログラムの一つであるJ1ビザで渡米して,研究しながら2年間でMPHを取得する人もいます。そのためビザの種類や,研究室に最初から所属しているかどうかなども違いがあります。

 私が18年に米ジョンズ・ホプキンス大公衆衛生大学院でMPHを取得した時は,病院勤務と並行しながら,非常勤学生としてオンライン授業と対面授業の混合で単位を取得しました。他の大学院にも,夏学期のみで複数年でMPHを取得できたり,オンライン講義と併用したりできるプログラムがあるので参考にしてください。

 20年に米ハーバード大医学大学院を修了した時は,論文と学位審査が原則でした。そのため研究時間も十分確保できるプログラムであり,2年間のうち多くの時間を研究に費やすことができました。ここでは学生は原則としてMDの学位を取得しており,授業は研究に関連した分野であるため,MPHのように幅広い講義を選択することはできません。自分の学びの方向が座学中心か,加えて研究を重視するかでも進学するプログラムは変わると思います。

 卒業後は,米国で最も重要とされる研究予算であるNIHグラントを持つメンターから研究指導を受けるために,さらに競争の厳しいPhDに行く人や,留学を延長して研究を継続する人など,さまざまな進路選択が考えられます。学生ビザであれば,Optional Practical Training(OPT)によって通常は1年間,専門学位の種類によっては3年間延長して滞在が可能です。Master修了時点ではまだ臨床研究のできる一人前の研究者とは言えないため,その後にどれだけ自分に合ったメンターを見つけられるかが重要です。

 メンターと出会うためには,大学院生の間に積極的にミーティングやセミナーに参加して情報収集を行うことが大事です。出会いを大切にしている人がボストンで企業の研究職を見つけたり,思わぬ形で次の就職先に巡り合ったりする様子を見ると,どんな形であれ留学の価値があると思います。研究に没頭できる絶好の機会なので,ぜひ戦略的に準備して海外大学院への進学を考えてみてください。

(耒田 善彦)

COLUMN① 夫婦で留学する時の選択肢は?

 各家族の事情によりますが,夫婦で留学するケースもあると思います。米J1ビザ所持者の配偶者はJ2ビザになります。J2ビザ所持者は,労働許可証(Employment Authorization Document:EAD)を取得すると,研究や労働に携わることが可能になります。また臨床見学やカンファレンス参加という選択をする方もいます。家族で留学する場合にこうした選択肢があることも知ってもらえれば幸いです。

(藤雄木 亨真)


COLUMN② オススメの英語学習法は?

 海外大学院の入学には,英語が一番の関門ではないでしょうか。私も昔はTOEFLやIELTSのスコアに苦しめられました。今ではなぜこんな試験で苦労したのだろうと思いますが,当時は大変でした。
 オススメの学習法は,同時通訳の世界で有名な國弘正雄先生の本などで書かれている只管朗読(ひたすら英文朗読)です。プレゼンテーションの練習にもなるので,私は今でもこれを行っています。基本的な英文はシャドーイングによって音で暗記するのが一番効果的だと思います。短いTED talkなどをシャドーイングする中で徐々に表現が身につき,英語特有の抑揚もスムーズに発声できるようになります。一見簡単そうに思えますが,続けるのは結構大変です。最初は5分程度の短いものから始めましょう。

(耒田 善彦)


らいた・よしひこ氏
2005年金沢大医学部卒。総合内科専門医,腎臓専門医,リウマチ専門医。沖縄県立中部病院にて研修。同病院での勤務を経て,18年米ジョンズ・ホプキンス大公衆衛生大学院修了(MPH)。19年より現職。20年米ハーバード大医学大学院修了(MMSc)。

ふじおぎ・みちまさ氏
2008年埼玉医大卒。小児外科専門医,内視鏡外科技術認定医,Annals of Clinical Epidemiology編集委員。埼玉県立小児医療センター等に勤務後,17年東大大学院小児外科学に入学,同大大学院臨床疫学・経済学教室にてビッグデータを用いた臨床研究に従事。19年より現職。

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