MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2020.06.29
Medical Library 書評・新刊案内
角南 久仁子,畑中 豊,小山 隆文 編著
《評者》藤原 康弘(独立行政法人医薬品医療機器総合機構理事長)
まず手に取ってほしいと素直に思えた一冊
がん遺伝子パネル検査が保険適用となり,既に活用されておられる方も多いと思う。ただ,活用したくとも,「ゲノム」という言葉を目にしたり,耳にしたりすると,とっつきにくいと感じられるベテランの方も多いだろう。そんな時,がん診療の一線に立っている医療者の方たちに,まず手に取ってもらいたいと素直に思えたのが本書である。
がん遺伝子パネル検査の基本と実際を,基礎科学者,臨床検査や病理の専門家,腫瘍内科医,さらには企業人まで,がん遺伝子パネル検査を開発し,さらには一線で診療に活用されている日本全国からえりすぐりの新進気鋭の執筆陣が解説してくれている。
がんゲノム医療の初学者である臨床家には,「第1章 基礎知識 臨床のためのがん遺伝子パネル検査のABC」と「第2章 がん遺伝子パネル検査のキーワード」は,がんゲノム医療の背景になっている事項の理解に非常に役立つ。がん遺伝子パネル検査結果レポートの遺伝子異常の欄に出ている英語と数字の並ぶバリアントの表記に二の足を踏まれた方もベテランには多いのではないかと思うが,74ページから始まる「遺伝子異常(バリアント)の表記方法は?」を一度ご覧いただくと安心して次回から結果レポートに目を通せるのではないだろうか。また,巻末付録のがんゲノム医療関連webリンクはQRコード付きで非常に参考になる。
がんゲノム医療をしっかり行うために重要なのは,どんな臨床検査でも同様なことではあるが,きっちりとした検体採取である。「第3章 運用のための基本」の80ページから始まる「臨床医に知っておいてほしい検体取扱いの基本」は,まさにそこをかゆいところに手が届くように解説してくれている。
そして,いよいよがんゲノム医療のうち最も難関といえる患者さんへの結果フィードバックと治療方針選択の場面で活用したいのが「第4章 実際の使用に際して」である。特に,184ページからの「適切な治療の探し方」のところは実践で役立つこと請け合いである。がん遺伝子パネル検査結果に基づいて診療を行う際に,臨床家を悩ませるのは抗がん剤の適応外使用であるが,2019年10月より始まり,全国のがんゲノム医療中核拠点病院で受けられる「遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく複数の分子標的治療に関する患者申出療養」(通称:受け皿試験)が適応外使用問題の一つの大きな解決策になるので,ぜひ,詳細部分を読み込んでもらいたい。また,がん遺伝子パネル検査の結果で緊張するのは,遺伝性腫瘍に関する遺伝子異常の存在が返却されてきた時だと思うが,173ページからの二次的所見への対応を読んでおけば,安心して対応できると思う。
最後に,本書を読まれた方にお願いがある。分子標的薬の治験や前述の患者申出療養に参加するだけでは,全ての患者さんへの治療提供機会の確保にはつながらない。ぜひ,次のステップとしてご自身たちで医師主導治験や先進医療B,患者申出療養を計画し実施してほしい。
B5・頁252 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04246-8


本多 通孝 著
《評者》佐藤 雅昭(東大病院・呼吸器外科)
「患者の生の声を形にする」ための方法論を軽妙に解説
今回,本多通孝先生の著書『外科系医師のための臨床研究 手術を評価するアウトカム』を拝読する機会をいただいた。私自身も外科医として,とても納得というか,「そうだよな~」と激しく同意する部分が多々あり,大変勉強になった。これから臨床医として研究を進める若手医師にもぜひ一度読むことをお勧めしたい。
特に「おわりに」に書かれている,忙しい臨床医が業務と両立できる研究は「患者の生の声を形にする研究がよいのではないか」との言葉は,本多先生ご自身が第一線の外科医であることがにじみ出ており,わが意を得た思いだった。われわれ臨床医が研究を行う意義はまさにそこにあり,患者が何を期待しているか,われわれ外科医はそれにどれだけ応えられているかという問題は,大きな侵襲を伴い「肉を切らせて骨を断つ」手術という治療を行うわれわれにとって常日頃から真摯に向き合わなければならない課題である。
一方,本書に書かれている内容からは,それは言うほど簡単なことではない,というのが本多先生からの重要なメッセージと思われる。特に「第4章 手術を評価するQOL研究」に関しては,本多先生も執筆に苦労されたと書かれており,われわれ外科医のめざす手術と患者の受け取り方,そして患者の人生におけるさまざまなイベントや人生観とその変化なども加わって,いかにその評価が難しいかがよくわかる内容になっている。命を救うことを第一に手術をして,それがうまくいって外科医が満足しても,その後の生活・人生の中でその手術の結果をどう解釈するかは患者次第であり,思わぬ不満を耳にすることは多くの外科医が経験していることだろう。本書では,これを研究という形で普遍的なサイエンスに落とし込む作業がいかに難しいかが,取っ付きやすい軽妙な対話形式で問われ,それに対する一定の答えが示されているところが実に秀逸である。
臨床医にとって研究とは何か――なぜ臨床医なのに研究するのか,これは私自身も追い求めているテーマだが,本書の中にはその答えに通じる内容が多く書かれている。そして「アウトカムそのものを深めていく作業を通じて,外科医のプロフェッショナリズムを高めてくれるヒントがたくさん見つかる」(「おわりに」から引用)...
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