医学界新聞


宮城県登米市の緩和ケアアウトリーチ活動から

寄稿 田上 恵太,和田 布由美,北山 真理,佐藤 麻美子,田上 佑輔

2020.05.11



【寄稿】

「愛する地域で最期まで過ごす」を実現する戦略
宮城県登米市の緩和ケアアウトリーチ活動から

田上 恵太(東北大学大学院医学系研究科 緩和医療学分野/やまと在宅診療所登米 緩和ケアチーム)
和田 布由美(やまと在宅診療所登米 緩和ケアチーム)
北山 真理(やまと在宅診療所登米 緩和ケアチーム)
佐藤 麻美子(東北大学大学院医学系研究科 緩和医療学分野/やまと在宅診療所登米 緩和ケアチーム)
田上 佑輔(やまと在宅診療所登米 緩和ケアチーム)


 東北地方は慢性的に医療者が不足しており「緩和ケア均てん化」実現への道はまだ遠い。そこで東北大学病院緩和医療科(以下,当科)は,緩和ケア専門家が不在の地域における医療機関と連携し,緩和ケアに関するアウトリーチ活動を2018年から行っている。本稿では宮城県登米市の実践例を中心に,現場の多職種の声も交え紹介する。

専門的緩和ケアに関するアウトリーチ活動の現状

 アウトリーチ活動とは,地域医療の中心的役割が期待されるものの,専門性が求められる診療のスキルや知識がまだ十分でない医療機関に対し,専門家が定期的に訪問して共に診療にかかわりながら専門性の向上を図る活動である。専門的緩和ケアアウトリーチ活動の有効性や教育面の効果は世界中で実証されており,本邦でも「緩和ケア普及のための地域プロジェクト(OPTIMプロジェクト)」で検証されてきた。これまで,ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)などで,緩和ケアに関する勉強会の開催や短期間の診療支援,WEBを用いた症例検討会に関する記載を目にしてきたが,一方向性のアプローチは地域の実情に沿わない場面も見受けられた。また,診療支援や症例検討会の中には,中長期的な戦略がないために,いつの間にか消滅しているものもあった。

 がん緩和医療に関する地域連携では「顔の見える関係」が最も重要な因子とされ,話す機会を重ねることで信頼関係を構築することが重要と報告されている1)。現地に定期的に赴き,共に診療を行い,地域の問題を同じ目線で話し合う中で信頼関係を築くことの大切さを実感している。

 「緩和ケアの専門家が外勤や出向するのと何が違うの?」と思われる方もいるだろう。私たちが展開しているアウトリーチ活動は,外勤や出向と何が違うのだろうか。今回紹介する宮城県登米市の他,当科では鹿児島県の徳之島(徳之島徳洲会病院緩和ケアチーム)などでアウトリーチ活動を行っている。両地域に共通する活動の契機は,「自身や大切な人が老いて病気になったとき,地域で安心して暮らせるのか。緩和ケアや終末期ケアを受けられるのか」という問題意識,言い換えれば地域に対する愛と危機感である。

 なお,アウトリーチ活動を始めるに当たり当科では,協働できるキーパーソンを地域で設定してもらった上で,戦略的・計画的に活動内容の検討を進めている。「自分たちの地域でも行ってほしい」との要望も受けることがあるが,私たちは地域のニーズや実情に即したアウトリーチ活動をめざしており,共に成長できる活動かを踏まえ協力していくことを考えている。

知識やスキルの伝承を現場に出ていかに行うか

 さて,私たちがアウトリーチ活動を開始した登米市には,緩和ケア病棟などのリソースがもともとなく,地域の中核病院は救急対応やアドバンス・ケア・プランニング(ACP)を行っていない高齢者の対応で疲弊気味だった。さらに,病院の再編・縮小の重点地域に指定され,緩和ケアの専門施設が新設される見込みも少なかった。

 そこで「自宅や施設で安心して終末期ケアや緩和ケアを受けられる町,登米」を合言葉に,2018年から当科によるアウトリーチ活動を始めた。当科の医師が市内のやまと在宅診療所登米(以下,診療所登米)に週に1~3日出向き,現地の医療者と共にベッドサイドで知識やスキルを伝授している。と同時に,私たちも地域について学んでいるのだ。

 診療所登米では,「将来の地域医療や生活を考える,推測する,準備する」をテーマに地域の医療・福祉関係者を対象とした聴衆参加型の勉強会を月に1~2回...

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