医学界新聞

2020.04.27



Medical Library 書評・新刊案内


《看護教育実践シリーズ5》
体験学習の展開

中井 俊樹 シリーズ編集
高橋 平徳,内藤 知佐子 編

《評者》鈴木 啓子(名桜大教授・看護学)

生涯学び続けられる人を育てるための参考に

 本書は看護基礎教育における豊かな感性と実践知を育むための体験学習についてコンパクトにまとめられている。大きく2部構成になっており,第1部では,体験学習の起源,特徴,理論的枠組みが非常にわかりやすく整理されており,われわれ看護教員がすでに日常的に実践している体験学習の理論的な背景をあらためて理解する上で役立つ。また,第2部は体験学習を実際に行う際に欠かせない計画,必要資源および環境の準備,振り返りの具体的方法,コーチングによる学生へのかかわり方が丁寧に,しかも読みやすくまとめられており,忙しい教員にとってはどこから読んでも活用しやすい構成になっている。

 授業に対して学生が,「あまり興味がなくても単位を楽にとれる授業がよい」(54.8%),体験学習より「教員が知識・技術を教える講義形式の授業が多い方がよい」(83.3%)とする割合は高い(ベネッセ教育研究開発センター,2012年)。評者も学生時代に実習終了後提出したレポートに「反省美人にならないように」との教員からのコメントに,どきりとしたことを今も覚えている。「教師の喜びそうなことを書いておけば,文句も言われまい」くらいに考えていて,自分自身と向き合っていなかったのだ。このような学生の傾向を踏まえた上で,体験学習の主人公である学生が自らの学びに意欲的に,責任をもって取り組める仕組み作りが必要である。

 本書では,そのための教員の役割を「ともに旅をする仲間」。すなわち同行者とし,その重要性を述べている。教員が実際に同行する臨地実習は,毎回が一つの小旅行ともいえる。そこでは,時に学生が想定された枠を越えた学びを得ることがあるが,それこそが体験学習の醍醐味といえる。このような実習における「主体的で深い学び」(ディープアクティブラーニング)は,学生にとってはもちろんのこと,かかわる教員,臨床指導者にとっても看護の可能性や奥深さをあらためて実感させてくれる。このような学びが起こる看護における体験学習の可能性や広がりについてはさらに知りたいと思う。

 また,体験学習の振り返りが「未来志向のプロセス」であるとの本書の指摘により,振り返りによって自分の可能性にチャレンジする学習意欲を高めることにもつながることを再確認できた。

 看護は実学であり,看護基礎教育において体験を通して学習することは,ナイチンゲール以来本質的には変わっていない。評者も長く教員として看護基礎教育に携わっているが,当たり前のよ...

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