医学界新聞

2020.04.13



Medical Library 書評・新刊案内


移動と歩行
生命とリハビリテーションの根源となるミクロ・マクロ的視座から

奈良 勲,高橋 哲也,淺井 仁,森山 英樹 編

《評者》影近 謙治(富山県リハビリテーション病院・こども支援センター院長)

広い視点から「移動」をとらえたかつてない一冊!

 本書の「移動と歩行」との題名から,歩行機能不全に対するリハビリテーション医療のアプローチに関する内容を想像して読んでみた。ところが,本書は「移動」の概念について単に物理的移動を意味するのではなく,「移動と歩行」の終局的課題について社会参加に視点を置いたものであった。これまで歩行に関する書籍はたくさん上梓されているが,その多くは疾患別に歩行分析・歩行練習法を紹介するものであった。本書は従来の歩行分析・評価や疾患別の歩行機能不全に対する医学的リハビリテーション関連の書籍とは異なり,人間の移動の根源と本質をその生命に発し,行動圏の拡大をキーポイントとして社会的リハビリテーションを含む広い視座からとらえており,従来,存在しなかった斬新な書籍である。

 編者らは,「移動」という現象を細胞・組織・器官などの総合システムとしてとらえ,個人の「移動圏」を定義している。「移動圏」とは①病院内,②外来通院,③市町村内,④市町村内~県内,⑤市町村内~国内,⑥海外への移動の6段階に分類したものである。また,生活範囲の拡大とその移動手段について,各疾患別の移動圏の拡大が人間らしい社会参加には欠かせないと考察し,代表疾患別に各ステージにおけるリハビリテーションのアプローチをわかりやすく解説している。

 本書は3つの章で構成されている。第1章では,生物学,運動生理学,霊長類の進化,人間発達などの基礎医学的知識の確認から始まっており,長く忘れかけていた点を想起できた。初学者にとっても理解しやすく解説されている。第2章では,個々の疾患者の日常生活活動における移動に関する評価や制限因子,社会的リハビリテーションと関連して福祉用具の利用や環境整備の対処法について詳細に解説されている。第3章では,疾患別の歩行を含めた移動能力の向上策や治療を移動圏別に分類して,具体的に記述している点が特徴である。さらに,リハビリテーションの対象は,「臓器や器官ではなく,それに罹患した人間」であり,各疾患別移動圏の拡大が人間らしい社会参加につながることが強調されている。

 在院日数が短縮されて急性期・回復期・生活期と称する分業化が進む中,私はリハビリテーション科専門医の1人として,対象者のライフステージにわたる生活を総体的に考慮する機会が少ない現状を切実な課題であると実感している。そのようなとき,本書は基礎医学を含め,「移動」の概念をミクロ・マクロ的に再考...

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