医学界新聞

2020.01.20



Medical Library 書評・新刊案内


がん化学療法レジメン管理マニュアル 第3版

濱 敏弘 監修
青山 剛,東 加奈子,池末 裕明,内田 まやこ,佐藤 淳也,高田 慎也 編

《評者》狭間 研至(ファルメディコ株式会社代表取締役社長/医師)

がん化学療法における薬剤師の使命を果たすための相棒

 今から15年ぐらい前,さしたる知識も経験もなく薬局業界に飛び込んだ私は,薬剤師の使命は「医薬品の適正使用」と「医療安全の確保」だと教わりました。最初は,そんなものかなと思う程度でしたが,この10年ほど,薬局経営者としても医師としても取り組んできた在宅医療の現場で,薬剤師は何をするのかと考えたときに,この2つの言葉は最も大きな指針となりました。

 アドヒアランスが守られるというのは医薬品の適正使用そのものだと思いますし,バイタルサインも駆使して患者の状態をフォローし薬学的見地からアセスメントすることは,効果の発現や副作用の有無をチェックすることであり,これすなわち,医療安全確保だと言えるでしょう。

 一方,新規抗がん薬の開発や支持療法の発達により,がん化学療法は点滴から経口薬へ,そして治療の現場は,医療機関から自宅へとシフトするなど,20年前とは様相が一変しています。ここでも薬剤師の役割は大きく,活動の現場は多岐にわたるようになってきましたが,やはり,その目的は「医薬品の適正使用」と「医療安全の確保」にあるのだと痛感しています。

 すなわち,医師が処方した抗がん薬という医薬品が適正に使用されていることを,薬剤師もチェックしフォローする必要があり,さまざまながん種に対するいろいろなレジメンを理解した薬剤師が調剤に当たることが重要になります。そのためにも,新薬の開発もあり適応も細かく分類されるようになってきた多くのレジメンをきちんと理解し,現場で活用することが求められます。

 また,抗がん薬ではほとんどの例で副作用が見られます。治療強度を落とさずに,副作用を管理して治療を完遂できるような最適な用量の設定や,支持療法の適用を考え,医師と協働して治療に臨むことは,がん化学療法という医療における安全を確保するということにつながります。

 毎日忙しい臨床の現場で,これら2つのテーマをクリアし,薬剤師の使命を果たす際に,常に手元に置き,何かの折りにすぐ手に取って調べる書籍があるのは,心強いものです。スマートフォン全盛の時代ではありますが,独特の手触りや重さ,ふっと鼻をかすめるインクの匂いなど,書籍も捨てがたいものがあります。何年か使っていく内に,手に馴染んでいくだろう本書は,きっと薬剤師がその使命を果たす際の重要な相棒になるだろうし,そのような薬剤師はがん治療に臨む医師や看護師,さらには,治療を受ける患者にとっても,心強い相棒になるでしょう。

 初心者からベテランまで,がん化学療法に携わる薬剤師必携の一冊だと思います。

B6変型・頁638 定価:本体4,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03837-9


BRAIN and NERVE―神経研究の進歩
2019年11月号(増大号)(Vol.71 No.11)
増大特集 ALS2019

《評者》葛原 茂樹(鈴鹿医療科学大大学院医療科学研究科長/同大看護学部教授・神経内科学・老年医学)

ALSに携わる研究者,医療者にぜひ読んでもらいたい一冊

 2019年11月に出席したある学会の会場に出店していた書店で,『BRAIN and NERVE』11月号表紙の「増大特集 ALS 2019」という表題に引き寄せられて手に取り,その内容の豊かさに引き付けられ,その場で購買して読み始めた。「特集の意図」として,シャルコーの最初の記載から150年のALS研究の進歩と今後の展望を論じる,と書かれているが,内容は正にその意図通りに充実したもので,これまでの研究の紹介から,最新の知見と将来展望までが明快な文章と美しい図表で記載されており,興味深い内容にも引き込まれて一気に読み終えた。

 内容のタイトルを順に紹介すると,「ALSの疫学と発症リスク(成田有吾)」,「診断基準と電気診断の変遷(野寺裕之)」,「Split Hand――ALSに特徴的な神経徴候(澁谷和幹)」,「ALSの病理(吉田眞理)」,「家族性ALS(鈴木直輝,他)」,「TDP-43封入体から解くALSの分子病態(坪口晋太朗,他)」,「C9orf72――日本のALS/FTDにおけるインパクト(富山弘幸)」,「プリオノイド仮説の現状(野中隆)」,「ALSにおける患者レジストリの役割――JaCALSなど(熱田直樹,他)」,「ALSとFTD(渡辺保裕)」,「紀伊ALS/PDCの現状(小久保康昌)」,「エダラボンを用いた新規ALS治療(山下徹,阿部康二)」,「HGFによる治療法開発(青木正志,他)」,「メコバラミン(和泉唯信,他)」,「孤発性ALSに対するペランパネル(相澤仁志,郭伸)」,「ロピニロール塩酸塩――iPS細胞創薬(髙橋愼一,他)」,「ALSにおける免疫療法開発の現状と展望(漆谷真,他)」である。

 本特集には,わが国の最新の知見を踏まえたALSの疫学,オール日本で進められている患者レジストリから見えてきたALSの実像,最新の分子生物学と分子遺伝学の研究成果,診断基準,古典的症候学の近代的研究法による解明,神経病理学,治験から市販にこぎ着けた新治療薬と,現在治験が進行中の新しい治療薬の研究開発など,ALSに向き合っている臨床家と研究者にとって今すぐに知りたい最新の知見が全て網羅されている。

 さらに特筆すべきことは,全てのテーマの中に,日本人研究者によって成し遂げられた世界的な研究成果がちりばめられていることである。今やALSの病因・病態研究の主流となったTDP-43は,2006年にArai,HasegawaらがNeumannらの米国勢と同時に発見したものであるし,診断基準として紹介されているAwaji基準もわが国の研究者が推進したものである。ALS疫学と関係したJaCALS研究,紀伊ALS研究,治療に関しては,エダラボン,HGF,メコバラミン,ペランパネルは日本の研究者の発想から出たものである。ロピニロールは,孤発性ALS患者から作製されたiPS細胞から誘導分化させた運動ニューロンに対する効果から特定された薬物であるが,パーキンソン病の治療薬として認可市販されている既存薬のリポジショニング(repositioning)であることも幸いし,動物実験をスキップして「試験管から一足飛びにヒトへ適用」という,iPS細胞を活用した新しい方式の治験が可能になった第1号である。紙数の関係で割愛するが,これ以外のテーマにもわが国の研究者が貢献した最新の研究成果が,諸外国でなされた成果と並んで満載されている。

 評者は日本医療研究開発機構(AMED)の難病の治療薬研究開発事業と,疾患特異的iPS細胞を活用した難病研究事業のプログラムスーパーバイザーとして,本特集に挙がっているほとんどのテーマについて,研究計画書や成果報告書を目にする機会があったが,実際に論文になったものを読んで,その研究の重要な意義と大きな成果にあらためて驚嘆している。本特集は,世界とわが国の研究の現状と将来の展望を俯瞰し,これからのALS研究を考える上で極めて優れた紹介書・解説書であり,読み物としても面白い。基礎研究か臨床かを問わず,わが国のALS研究とALS医療に携わる者に,ぜひ一読を薦めたい一冊である。

一部定価:本体3,800円+税 医学書院


マクロ神経病理学アトラス

新井 信隆 著

《評者》水澤 英洋(国立精神・神経医療研究センター理事長)

エキスパートもハッとさせられる新しい発見がいくつもある

 このたび,東京都医学総合研究所神経病理解析室長の新井信隆先生の手になる本書を拝読する機会を得て,まさにその迫力と美しさに息をのんだ。本書の帯にある「大迫力…!」の文句の通りであった。写真は極めて美しく,必要に応じて破線で輪郭を示したり指示線を活用したりして,かゆいところに手が届く工夫がなされている。長年,神経病理学の教育に尽力してこられた先生の面目躍如である。先生は2年間の研修の後は病理学の道に入られた神経病理学のプロフェッショナルであり,片や私は脳神経内科医でありながら研究手法として神経病理学を学んだ者であるが,神経病理学会では親しくお付き合いをさせていただいた。

 病の人を診るときに,まずよく観て(視診),触って(触診),あるいは叩く(打診)など目,耳,手などを動員して病気を探り診断に導く。神経病理学もまさに同様であり,自らの眼をもって脳や脊髄をその場で観察し,取り出して観察し,割を入れて内面・断面を開いて観察することが大切である。本文はほぼ全て貴重なマクロ(肉眼)写真とその理解を助けるための少数の大切片染色像で占められている。最初の40ページが正常像である。硬膜で覆われた大脳から始まり,脊髄の馬尾に至るまでが,外面,内面,背面,底面,水平断,冠状断,矢状断などさまざまな方向から提示されている。また,神経解剖学は学生にはあまり人気はないそうであるが,実はその名称は非常に自然でわかりやすい。すなわち,断面に多数の線状が見えるので線条体,あたかも歯のように見えるから歯状回といった具合に,見える通りに素直に命名されている。そのような由来が極めてよくわかるようになっている。このような観察には当然ながら脳を切り出す必要があり,その仕方がわかりやすく写真で表示されているのも本書ならではの特徴である。各論は循環障害(p.42~63),感染症(p.64~73),変性疾患(p.74~94),形成異常(p.95~114),周産期脳障害(p.115~121),代謝異常(p.122~131),脱髄疾患(p.132~134),プリオン病(p.135),頭部外傷(p.136~139)と重要な疾患は十分カバーされている。先生のご専門は発達の障害にかかわる神経病理であるが,形成異常と周産期脳障害は合わせて27ページと充実している。しかも,全体で150ページ余りと極めてコンパクトに仕上げられており,持ち運びにも困難はない。

 私は40年以上にわたって脳神経内科と神経病理を専門としてきたが,うれしいことにハッとさせられる新しい発見がいくつもあった。本書は,神経病理学や神経解剖学を学ぶ方々はもちろんのこと,それらを専門とするエキスパートの方々にも非常に役に立つ。また,脳神経内科,脳神経外科,精神科など脳や神経にかかわりのある領域の医師・看護師のみならず,リハビリテーション,内科,小児科など全身を対象とする医療スタッフにもぜひ見ていただきたい一冊である。

A4・頁152 定価:本体9,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02528-7


作業療法の話をしよう
作業の力に気づくための歴史・理論・実践

吉川 ひろみ 編

《評者》酒井 ひとみ(関西福祉科学大教授・作業療法学)

作業療法の熱量がずっしりと感じられるOT紹介本

 本書のタイトルは,日本作業科学研究会の理事会前に,「面白い作業療法の紹介本を書きたいね」と,皆で集まった喫茶店で決まったと記憶している。発想から短期間で形にするのは大変なことだが,そこは,さすが吉川ひろみさん,手元に届いた本は想像をはるかに超え,作業療法の熱量がずっしりと感じられるものに具現化されていた。

 1970年代後半から,海外に留学した日本人の作業療法士(以下,OT)によりOTが創り上げた理論や療法が国内に紹介され始めた。1980年代以降徐々に留学帰りのOTが中心となり,近年の知識の流入とともに,作業モデルの現代化が行われていることが紹介された。1990年代になると日本国内にいても,WFOT(世界作業療法士連盟学術大会)などの国際学会に参加すると,世界の作業療法は作業支援に向けて大きく舵を切っていることを実感することができた。わが国の養成校教育に作業モデルが取り上げられるようになったのも,2000年前後が境になったのではないだろうか。

 そういう意味もあり,もし本書の読者がOTであるならば,21世紀以前に国内で作業療法教育を受けた人は,真っ白いキャンバスのような頭と心で歴史の章も含めて読み進めることをお勧めしたい。そして,21世紀に入ってから作業療法教育を受けた人は,再確認の意味で前半の理論と実践枠組みを読み,後半の実践物語を味わってほしい。

 じっくり一人で読むのもいいけれど,それで終わらせるのはもったいない。前半で取り上げられている作業療法理論や実践枠組みと後半登場する実践物語を結び付けて考えるのは結構大変だ。人の話を聴くのが仕事のOTなら,何人かで集まって,ああだこうだと討議するのもなかなか面白そうだ。さらには,自分の体験と引き合わせながら語り合うことで,OTとしての誇りと自信とやる気を携えて明日の臨床に挑んでいける,そんな力が湧いてくるのではないだろうか。

 なお,本書のプロモーションビデオでは,本書収載の座談会「作業療法の話をしよう」にも登場されている日本の作業療法界を牽引し続けている先達者のお声を拝聴することができる。そちらもぜひ一度ご覧になってほしい。

B5・頁256 定価:本体3,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03832-4

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