医学界新聞

寄稿 錦織 淳美

2020.12.21 週刊医学界新聞(通常号):第3401号より

 2020年9月1日より,改正医薬品医療機器等法(薬機法)が段階的に施行されている1)。対人業務の充実が焦点となっている今回の改正では,薬局の在り方の見直しやオンライン服薬指導の導入に加え,調剤後の患者の病態変化のフォローアップが義務化されたことが大きな変更点である。

 具体的な業務に照らし合わせると,薬局薬剤師が処方箋をもとに処方薬を調剤するだけでなく,その後患者が指示どおり薬を飲めているかのアドヒアランス評価や,効果・副作用の発現があるかなどの経時的な確認が同時に求められていると言える。さらに努力義務ではあるものの,薬剤師が患者から確認した情報の中から必要なポイントを処方医や看護師・介護士などの医療ケアチームにフィードバックする役割も求められている。 患者が慢性疾患のために同一薬品を長期的に内服している場合は,この業務にはさほど重要性を感じられないかもしれない。しかし,入院して化学療法を変更したり手術後に新規薬剤を追加したりした場合などは,薬局薬剤師と病院薬剤師の継続的な薬物治療の把握のための情報共有,つまり薬薬連携がKeyとなる。

 フォローアップ服薬指導に関する海外の事例では米アリゾナ州ツーソンメディカルセンターにて実施された,薬剤師による退院患者への電話コンサルト業務(退院時フォローアッププログラム)に関するパイロットスタディ2)が挙げられる()。本研究では電話コンサルト介入により退院後の処方内容の見直しや追加処方の提案,継続的な患者服薬指導がなされ,病態悪化・再発による再入院を未然に回避できた例がいくつも報告されている3)。適切なフォローは患者の安心や信頼関係の維持においても重要である。

 入退院を経ても患者の薬物治療が滞りなく継続されるために,薬薬連携は大変重要な役割を担っている。医師や看護師は紹介状を利用して病院間の情報共有を行うことが多いが,この患者情報が病院薬剤師のもとに届くまでに時間が掛かることが多い。そのため薬剤師は先にお薬手帳の確認もしくは患者との面談によって内服薬の種類や数を把握し,不足した情報は直接薬局に電話確認することで補っている。現在は患者が携帯するお薬手帳をもとに行う薬薬連携が主流となっているが,解決すべき課題も数多く存在する。

◆かかりつけ薬剤師の不在による情報提供不足

 ある程度の処方医療機関や処方薬,調剤歴の記載はお薬手帳に残っているものの処方医療機関が多岐にわたる場合や,患者が受診のたびに異なる薬局を訪れて薬剤を調剤されている場合,どの薬局薬剤師に情報を求めれば患者の全体像が把握できるのかが不明瞭となる。これはかかりつけ薬剤師の不在が問題と言える。

◆入院前情報の収集が困難なため病歴・薬歴の詳細が不明

 患者がお薬手帳を活用していない場合や,内服薬の処方元からの紹介状がなく病歴が不明瞭である場合などは,薬歴が抜け落ちることがある。

◆入退院の中で継続的な薬物治療を保証する連絡体制の不備

 病院での治療に使用した薬剤の内容や退院時処方薬については病院薬剤師が退院時情報提供書をお薬手帳に貼付することで薬薬連携の役割を果たしている。しかしかかりつけ薬局・かかりつけ薬剤師を持つ患者が少数なため,退院後どこの薬局・薬剤師が責任をもって薬物治療の継続を患者と確認しているか把握できないことが多々ある。また患者がかかりつけ医のもとに再び行かなければ処方箋が出ないため,そのまま薬局を訪れずに内服中止になっている例も散見される。

 薬局が病院や診療所の近隣に立地し特定の医療機関からの処方箋を応需する「門前薬局」の役割を改め,かかりつけ薬局として個々の患者に向き合うようになることが理想である。

 先述のお薬手帳以外で患者の医療情報を検索するツールとして,医療情報連携ネットワーク(Electric Health Record:EHR)が挙げられる。厚労省によると全国に200を超えるEHRが整備されている(2019年10月現在)ものの,利用が停滞している地域がある現状が示されている4)。筆者の地元である岡山県でも「晴れやかネット」が2013年より稼働している。しかし登録医療機関・薬局数共に伸び悩み,十分活用されているとは言えず,結果として情報共有が不十分になっている。

 国レベルの動きでは,総務省と厚労省が連携してEHRを相互接続する基盤として全国保健医療情報ネットワークの構築をめざしている5)。病院・薬局の双方で薬剤使用歴の最新情報のタイムリーな収集や現場の業務へのフィードバックが期待される。

 医療ネットワークに関する海外の医療政策としては,国民IDと医療情報のひもづけがなされているスウェーデンの医療情報システムが挙げられる。スウェーデンでは薬歴や既往歴を含む患者医療情報がeHealthシステム(日本の医療情報連携ネットワークの全国版に当たる)により整備されている。病院薬剤師はシステムの基本情報から薬歴の確認と病院の電子カルテへの必要な情報の転記を行い,退院時処方についてeHealthへの再転記を行う。これにより地域薬局ではeHealthシステム上で最新の薬歴を確認しながら調剤を行うことができる。これはわが国でも参考にできるシステムだと思われる。

 EHRや全国保健医療情報ネットワークが整備されてフォローアップ服薬指導が日常業務として定着した後,さらに効果的な薬薬連携を実施するためには,薬剤師同士が症例研究会などを通してお互いの知識やアプローチポイントの共有を行い,伝達が必要な医療情報を整理することが大切だと考える。この方法の一例として臨床現場を再現した薬剤師のシミュレーション教育の実践を紹介する。

 筆者が勤務する岡山大学病院では2013年より薬剤師のシミュレーション教育を開始し,バイタルサインの把握や間質性肺炎の症状把握,喘息増悪時の呼吸音の確認,電解質異常時の状態変化などについてシミュレーション教育法を用いた勉強会を開催している6)。2016年からは保険薬局薬剤師向けシミュレーション教育の開発や,病院薬剤師と薬局薬剤師の薬学的アプローチの確認・情報共有も行っている。この教育プログラムの目的は,患者の異変や副作用の発現時に,薬剤師が医師や看護師など他職種と同じ視点に立って把握して医療チーム力の底上げを図ることである。

 今後の展望としては,勤務する環境や医療機関が異なる薬剤師同士が共通の認識や視点を持ち多角的な薬学的アプローチを行えるようにするための新しい教育プログラムを構築していきたいと考えている。


:2015年8月~16年9月までの間に同センターを退院した18歳以上のうち,肺炎,喘息,COPD,心不全,心筋梗塞,腎不全,糖尿病,大腿/膝関節置換術後,冠動脈バイパス術後のハイリスク患者456人を対象として340人を介入群,116人を対照群に割り付け,退院後7日後および21日後に薬剤師が電話コンサルトを行った。その結果,介入群では13%,対照群では17%の患者で退院後30日以内に再入院がみられ,再入院率が減少傾向を示した。再入院率が低下すれば患者が負担する追加医療費の削減にもつながる。

参考文献・URL

1)厚労省.令和元年度全国厚生労働関係部局長会議資料 医薬・生活衛生局.2020
2)Pharmacy. 2019[PMID:31248090]
3)薬事日報.薬物療法電話コンサルティング―米国アリゾナ州で薬剤師が試行.2016年9月12日号.
4)厚労省.地域医療情報連携ネットワークの現状について.2020.
5)自治体通信ONLINE.医療情報連携ネットワーク(EHR)について【自治体事例の教科書】.2020.
6)薬事日報.「患者模型」用いた教育例を共有―岡山で多職種研究会が発足.2018年2月16日号.

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岡山大学病院薬剤部

1996年岐阜薬大卒。98年米フロリダ大Pharm.D.プログラム修了,Pharm.D.学位,フロリダ州薬剤師免許取得。99年より現職。病棟薬剤師として働きながら,臨床薬学教育関連の講義・執筆および薬薬連携についての臨床研究を行う。

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