医学界新聞

寄稿 依田 晶男

2020.12.21 週刊医学界新聞(通常号):第3401号より

 通勤途上の交通事故や脳卒中等の疾病が原因で心身機能に障害のある状態になることは,誰の身にも起こり得ます。車椅子の生活になったり,手の動きが不自由になったり,視力が低下したりすることで,これまでキャリアを積み重ねてきた専門領域での診療が難しくなることもあるでしょう。「もう医師として働けないのではないか」と,将来に大きな不安を感じている方もいるのではないでしょうか。

 その一方で,過去に同じような経験をしながらも自らさまざまな工夫をして臨床を続ける医師もいます。障害のために将来に不安を感じている医師が,自分と同じ障害を持ちながら働き続けている医師がいることを知れば,将来への希望も感じられるでしょう。しかし,こうした情報を探すのは難しいのが現実です。この状況を改善するために「自分たちの経験を役立てたい」という思いを持った先輩医師たちに参加してもらい,2020年に「“夢をつなぐ”Doctor's Network」を立ち上げました。

 このサイトには肢体不自由,視覚障害,聴覚障害,内部障害,精神障害,難病などさまざまな障害のある医師が参加しています。障害が生じた時期は医学部入学前,在学中,医師になってからなど多岐にわたります。また障害のために外科から放射線科などに専門領域を変更した医師もいます。

 障害を持ちながら臨床現場で働く上では,障害を補う道具の活用や周囲の理解などの「合理的配慮」を知り,周囲に伝えていくことが必要です。先輩医師の経験にはそのための情報とノウハウが溢れています。サイトでは各医師が診療を行うために取り組む工夫を具体的に紹介しており,また仕事や日常生活に生かせる便利なグッズや,それらグッズの見本市である展示場のリンクも掲載しています。そのため,先輩医師の工夫を参考にしながら自分に合った道具を探すことができます。

 さらに現職の医師や医学部をめざす学生がメールで先輩医師に相談できるコーナーもあります。電動車椅子を使用する医学部志望者からの「座位維持が困難でも医師をめざせるか」との相談には,5人の医師が自らの経験を踏まえた具体的で親身なアドバイスを行い,大変ためになったと相談者から感謝されました。運営に当たる先輩医師も他の医師の話を聞く機会はほとんどないため,先輩医師同士でも参考になるようです。

 働く環境にもよりますが,先輩医師の経験からは多様な分野に活躍のチャンスがあり,重い障害でも働き続けられることがわかります。障害のために将来に不安を感じている医師には,このサイトを通じて,新たな選択肢を見いだしていただければ幸いです。また,自らの経験を紹介してくださる医師の皆さんには,ぜひ,下記アドレスから先輩医師登録をお願いいたします。プライバシーに配慮し,ハンドルネームで紹介させていただきます。先輩医師一同で,皆さんからの連絡をお待ちしています。

◆連絡先connect@dream-doctor.net

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医療機関の障害者雇用ネットワーク代表

1981年一橋大法学部卒。厚生省(当時)入省。厚生省と内閣府で障害者行政に従事。老健局総務課長等を経て,国立がん研究センター,地域医療機能推進機構で事業者の立場から医療機関の障害者雇用を推進。2015年「医療機関の障害者雇用ネットワーク」,20年に「“夢をつなぐ”Doctor's Network」を立ち上げる。全国土木建築国民健康保険組合専務理事。精神保健福祉士。

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