医学界新聞

2019.12.23



Medical Library 書評・新刊案内


こころの回復を支える
精神障害リハビリテーション

池淵 恵美 著

《評者》京極 真(吉備国際大教授・作業療法学)

リアルな事例から学ぶ,当事者の人生に向き合う支援

 名著だと思う。精神障害リハビリテーションの基本から応用,そして最先端の動向まで端的に論じており,著者の豊かな経験と洞察,そして幅広い知識がなければ書けないと思う。ここでは,本書を読み解くに当たって,重要だと思われるポイントを3つ解説する。

 第一のポイントは,共同創造である。本書はリハビリテーション,エビデンスに根差した実践,パーソナル・リカバリー,パーソナル・サポート・スペシャリストなどさまざまな論題を扱うが,その中心軸には共同創造があると思う。共同創造とは,専門家と当事者がコラボレーションすることである。精神障害リハビリテーションは精神障害によって生活が困難になった当事者を対象に,社会へのその人らしい参加を実現するために支援するアプローチである。それを実質化するには,専門家のみが主導してもダメだし,当事者のみが主導しても不十分であり,専門家と当事者がともに手を取り合っていく必要がある。ここは,著者の際立った洞察が光るところであり,精神障害リハビリテーションの本質を表しているところだといえるだろう。

 第二のポイントは,豊富な事例である。本書は随所にリアルなエピソードをはさんでいる。これらは,著者の体験から創作した事例であるものの,目の前に当事者がいるかのような臨場感をもたらしている。その理由は,事例が単に医学的な治療経過を示したものではなく,人生のプロセスを反映しているところにあると思う。例えば,悩みつつ試行錯誤しながら就労する事例(pp.110-111)もあれば,周囲の反対に遭いながらもどうにかこうにか結婚したのにしばらくしたら現実に気付いて離婚した事例(pp.190-191)も示されている。このように,本書では一人ひとりが病とともに生きる姿を描き出している。人生のプロセスを反映した豊富な事例が示されているため,本書はリハビリテーションの本質である「人間にふさわしい生活を取り戻すこと(p.42)」の意味がとてもよく理解できる構成になっていると思う。

 第三のポイントは,当事者の人生の課題と向き合っているところにある。特にそれが表れていると思ったのは「恋愛・結婚・妊娠・出産・子育て支援」に多くの紙面を割いているところである。従来の精神障害リハビリテーションの本では,当事者の回復過程に沿った支援の在り方を論じても,人生の課題である「恋愛・結婚・妊娠・出産・子育て」についてはほとんど議論してこなかったと思う。評者はいつもこの点に違和感を抱いていたが,本書は見事にその壁を壊してくれている。当事者は自分の人生を生きる人であり,そこには「恋愛・結婚・妊娠・出産・子育て」といった一大イベントが待ち構えている。本書は専門家がどう支援していけばいいかを具体的に論じつつ,技術を磨く必要性を示している。

 以上,3つのポイントを解説した。他にも,本書にはさまざまな読みどころがあるため,皆さんにはぜひ自らの目で確かめていただけたらと思う。

A5・頁284 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03879-9


マクロ神経病理学アトラス

新井 信隆 著

《評者》田中 伸哉(北大大学院教授・腫瘍病理学)

神経病理への第一歩を一緒に踏み出そう

 本書の特徴は,脳の正常構造・病変ともに,大迫力の美しい写真が満載されていることである。本書は,A4判で約150ページ,質感のよいソフトな本で手に取りやすく,ページ半分の非常に美しい大きな写真が基本となっている。脳のマクロ構造の美しさが,著者オリジナルの視点で切り取られて掲載されており,その美しさに思わずうなる。「ミクロはどうなっているのだろう」とより深く脳を知りたくなるように配置されており,見た者の探究心を惹起し,より深い神経病理の世界へ誘うこれまでに類を見ない素晴らしいマクロアトラスである。

 「第I編 中枢神経系の観察(正常)」では,百科事典のような単調な神経解剖のアトラスとは異なり,ブレインカッティングを前提とした詳細な観察のポイントが,神経病理医の視点で丁寧に示されている。美しい写真は枚挙にいとまがないが,くも膜の迫力のショットは下方からのアングルで撮影されており,透きとおるくも膜が非常に美しく印象深い。外側膝状体にフォーカスを絞った写真もインパクトがある。著者オリジナルのこのアングルからの写真は非常に理解しやすい。中心溝の同定の方法も複数の美しい写真でわかりやすく解説されており,初学者も必見である。側脳室を直方体として切り出して3方向から見たアングルのセットの写真は,尾状核頭,視床が直感的に理解できる。ブレインカッティングの手順は的確な刃を入れるに当たってのポイントの写真が明示されており,非常にわかりやすい。また,解説の部分では「手のひらで軽くしっかり押さえて切り始める」など,脳を押さえる手の力の入れ具合のアドバイスは絶妙で他の追随を許さない。脳刀を「1スライスごとに綺麗に拭き取る」など細やかな配慮も写真付きで示されている。

 「第II編 病変(疾患)の見方」は,循環障害,感染症,変性疾患,形成異常,周産期脳障害などに分かれており,いずれの疾患についても,一つひとつ目を見張るような鮮明で迫力のある写真が示されている。まさに一球入魂,経験豊かな著者ならではの圧巻の写真である。これだけ多くの疾患について,これほど高い質感を保持した,生き生きとした病変の肉眼像が示されたアトラスは他にはない。

 本書は,神経病理を志す病理医,神経内科医,精神科医にとって使いやすいアトラスであることはもちろんのこと,それ以外にも一般病理医や病理専攻医にも役立つ実践的なアトラスである。ぜひ一般病院の病理検査室にも一冊は常備してほしい。また,わが国において,死因究明が重要事項と位置付けられており,法医学教室にとっても役立つ一冊であろう。神経病理に興味のある者であれば,学生であれ,医師であれ,誰にとっても第一歩を一緒に踏み出せる実践的なアトラスである。ぜひ身近なところに置いて,常時手に取って神経病理の学習,診断,切り出しなどに役立てて欲しい。

A4・頁152 定価:本体9,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02528-7


新訂 うまい英語で医学論文を書くコツ
世界の一流誌に採択されるノウハウ

植村 研一 著

《評者》近藤 克則(千葉大教授・予防医学センター社会予防医学研究部門/国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センター老年学評価研究部長)

採択基準の日米差も解説英語論文執筆のバイブル

 海外の研究成果に学ぶ時代なら英語論文は読めれば良かった。が,医学研究において,日本が最先端の一角を占める分野が珍しくなくなった。つまり,英語での論文発表が求められる時代になった。その時代に不可欠なノウハウを,長年にわたる英語論文の執筆・添削指導をしてきた経験から引き出し,多くの添削事例とともにまとめたのが同名書の初版であった。1991年の出版以来,30年近く読み継がれてきた名著の新訂版が本書である。

 著者の植村研一先生は,中学時代に英語弁論大会に出場して以来,千葉大医学部卒業後は横須賀米国海軍病院でのインターンを経て,7年半にわたって米英に留学されるなど,英語をたくさん使ってきた経験を持つ。さらに帰国後も日本脳神経外科学会の英文機関誌に投稿される論文の英文添削にかかわり,日本医学英語教育学会や日本脳神経外科同時通訳団まで創設してしまった方である。

 本書は,次の4部と付録からなる。「I 学術論文のうまい書き方」では,「1.日本語の論文をいかにうまい英語に訳しても採用されない」理由を,論文採択基準の日米差などから説明し,採択されるようにうまく書くコツを紹介している。例えば,日本では「くも膜下出血後の脳血管攣縮についての研究」など研究課題をそのまま表題にした表示的タイトルが8割を占める。しかし,これでは診断,治療,予後,発生機序のうち何の研究なのか,臨床研究か動物実験か,どんな価値がある成果なのかわからない。採択率数%の一流雑誌では,タイトルだけで9割の投稿論文がゴミ箱行きとなるので,こんなタイトルでは採択されない。「イヌでのくも膜下出血後の脳血管攣縮発生におけるProtein Kinase C関与の直接証明」のように内容や意義までわかる(informative)タイトルでなければならない。

 「II うまい英語での表現法」では,英語と日本語とでは言語系が異なるので逐語訳では不適切であるとして,「うまい英語」を“comfortable English”などと意訳するコツが25節にわたって紹介されている。評者の印象に残ったものを挙げれば,うまく意訳すると逐語訳に比べて単語数が減るので短縮率が指標となる,意訳の手順,paragraphと段落の違い,subjectは「主語」ではない,be動詞はできるだけ避ける,などである。

 本書の圧巻は「III comfortable English 100本ノック――添削例の総合的解析」だろう。100の問題文をcomfortable Englishに直して,その全てに解説が付いている。「IV さらに,comfortable English 100本ノック――原文と訂正文の対比」では,解説は省かれるが原文(問題文)と訂正文,そして短縮率が示されている。6割から8割の短縮率が珍しくないから驚きである。「付録」には,週刊医学界新聞に掲載されたMary Louise Robbins名誉教授との「対談 うまい英語で地球が狭くなる――アクセプトされる英語医学論文を書くために」,「よくみられる語,句の使用上の誤り」も収載されている。

 本書を読んで,日本と英語圏での論文採択基準や考え方の違い,意訳のコツを学び,200もの添削事例を通じて多くの気付きを得て,comfortable Englishで論文を書けば,論文採択率はアップするに違いない。

A5・頁224 定価:本体3,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03936-9

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