医学界新聞

2019.08.12



Medical Library 書評・新刊案内


問題解決型救急初期検査
第2版

田中 和豊 著

《評者》志水 太郎(獨協医大主任教授・総合診療医学)

現場での重要点を的確に網羅した「おねだん以上」の書

 本書は,救急のマニュアルとしては最も有名なものの一つである,田中和豊先生の『問題解決型救急初期診療』(医学書院)の姉妹本にあたる同著者の「検査版」の第2版である。

 検査と銘打たれているが,本書の本質は検査の解説本やマニュアル的な内容ではない。

 「この本を眼の前の患者を救いたい人に捧げる」とだけ書かれた冒頭のページは鮮烈である。救急現場で疾患と対峙する医師ならではの魂のこもったお言葉と思う。田中先生は自分より10年ほど上の学年の先生に当たるが,このような先生が自分が1年目の時に上級医にいらしたら,どれだけ心強いか。勇気が湧き明日へのモチベーションが高まることは,自分の研修医時代を振り返っても想像に難くない。

 「診療」は初版が2003年,「検査」は初版が2008年である。これらの本がなぜ長く読まれているか。序文にも書かれているが,エビデンスに配慮するだけではなく,ご自身で実践されていないことは記載しない,という田中先生のポリシーが生きているからだと感じる。ベッドサイドの実感を伴わない臨床教育は内容が薄い。これは評者自身も日々感じていることであり,患者不在のディスカッションや一般論は,魂に刻み込まれることはないだろう。一見すると「実践していないことは記載しない」という本書の方針は一般化されたマニュアル的書籍としては異彩を放つように映るが,実臨床家の眼から見れば大変リーズナブルである。また,幸い本書はマニュアルのように見えて,マニュアルとは銘打たれていないところに独自性が高い。

 本書の臨床的こだわりは随所に見られる。検査という本のタイトルからにわかに想像する採血や尿の検査などの総花的マニュアルという印象を覆し,470ページにわたる本文のおよそ3分の1までが臨床の考え方をまとめた総論に続くバイタル・サイン(とモニタ),フィジカルに割かれている。これは,バイタル・サインの測定と解釈やフィジカルもれっきとした検査であり,またそれらの検査は項目が少ないながらも,より高度なテクノロジーを要する現代医学の検査を圧倒するかのような情報量を秘めている,という田中先生の強いメッセージが込められた結果であると感じる。

 実際に救急の現場では,一般採血や尿を見てマネジメントが変わることもたまにはあるが,大方の方針はフィジカルまでで立ってしまうということが多い。例えば発熱の患者では,救急外来における採血が与える熱源に関する情報は極めて限定的であることは,読者の皆さまなら想像に難くないだろう。フィジカルの章も,目次だけを見ても素晴らしい。フィジカルが網羅的に並べられるのではなく,呼吸,循環を筆頭に,危険な病態を示唆する腹部や皮膚といった項目が優先的に並べられていることなど,現場で用いるフィジカルが濃淡をはっきりさせて記載されていることに強い共感を覚える。身体診察の2つ目の項目は「stridorと肺音」という章だが,「呼吸」などと平板な章立てになっていない点など,重要度のメリハリを実感する内容で非常に良いと感じる。

 肝心の「検査」の章だが,各検査について,不要な記載はなく,臨床的有用性や基準値,重要な表などがぎっしりと詰まっていて,この一冊さえあれば検査についての救急における重要点を十分に網羅できる内容になっている。

 このように,本書は救急における熱いハートとメッセージがぎっしり詰まった本である。コンパクトながら定価の5000円以上に価値は大きく,この本がボロボロになるまで使い込めば,その価値は10倍にも20倍にもなって返ってくるだろう。

B6変型・頁512 定価:本体5,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03598-9


細胞診を学ぶ人のために
第6版

坂本 穆彦 編

《評者》伊藤 仁(日本臨床細胞学会細胞検査士会会長/東海大病院病理検査技術科長)

初学者の手引書として,生涯教育のテキストとして

 このたび,待望の『細胞診を学ぶ人のために 第6版』が刊行された。1990年に初版が刊行されて以来,来年で30年を迎える本書は,これまで細胞診を勉強するための教科書として,多くの皆さまが必携の書として愛用している一冊である。

 本書は,細胞診を学ぶ人にとって必須の基本的内容が網羅され,詳細かつ簡潔な説明は平易で理解しやすい。細胞像,組織像などはオールカラーで美しく仕上がっており,要所には表や図が的確に配されている。特に初版からの特徴であるシェーマは,豊富に盛り込まれており,活字では表現し難い内容を視覚的に理解することが容易となっている。

 第6版では,基本的な内容の他,新しい情報が積極的に取り上げられ,液状処理法(liquid-based cytology;LBC)や,On-site cytologyなど

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