細胞診を学ぶ人のために 第6版
細胞診初学者の手引き/細胞診従事者の生涯教育テキスト
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細胞検査士を目指す技師、学生のみならず、細胞診専門医を志す医師、ベテランの技師にとっても、細胞診とは何かということを理解する上で最初の一歩を踏み出すきっかけになる1冊。初学者が習得すべき、病理診断における細胞診の位置づけ、標本作成の実際、細胞の所見に関する分かりやすく丁寧な解説はもちろん、新しい細胞診の報告様式、改訂されたWHO組織分類、癌・腫瘍取扱い規約に基づく診断体系にも対応している。
編集 | 坂本 穆彦 |
---|---|
発行 | 2019年03月判型:B5頁:424 |
ISBN | 978-4-260-03799-0 |
定価 | 10,780円 (本体9,800円+税) |
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- 目次
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序文
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第6版の序
臨床医学,臨床検査における細胞診の意義それ自体にはいささかの変わりはないが,細胞診の標本作製・判定などの運用面や,細胞診の関連領域には,テクノロジーの進展や疾患概念の変更などによるさまざまな変化が生じている。そのような現状を背景に本書の改訂が行われ,第6版として上梓されることになった。
第6版では新しい動向を意識的にとりあげた。例えば徐々に浸透しつつある液状処理法や,注目を集めているOn-site cytologyはその例である。細胞診の免疫染色は広がりをみせ,新しい抗体は次々に開発されている。細胞診報告様式は,子宮頸部細胞診ベセスダシステムに引き続いて,甲状腺細胞診ベセスダシステム,尿細胞診パリシステム,唾液腺細胞診ミラノシステムがすでに公にされた。乳腺細胞診などの横浜システムのほか,他臓器にもこの流れは波及しつつある。
他方,細胞診周辺では各種癌・腫瘍のWHO組織分類の改訂と,それに連動したわが国の癌・腫瘍取扱い規約の更新が間断なくつづいている。細胞診にとって組織診断は推定診断の直接対象であり,われわれは常にその動向を追う必要がある。
改訂第6版は細胞診に関連するこれらの状況の変遷に留意してまとめられた。当然のことながら,細胞診初学者のための手引きとしても,細胞診従事者にとっては生涯教育のテキストとしてもお使いいただけることを目指すという初版以来の立場は崩していないつもりである。
なお,前版まで執筆陣に名を連ねていただいた何名かの方々に代わって,第6版では次世代の細胞診専門医,細胞検査士の方が新たに各々の得意分野を担当されている。初版以来,本書執筆のためにご尽力いただいた執筆者の方々には心より謝意を表する次第である。第6版刊行にあたり医学書院編集部の大野智志氏をはじめ,担当者の方々には大変お世話になった。文末ながら厚く御礼申しあげたい。
第6版が今までの版と同様,細胞診を学ぶ皆様にとり,少しでもお役に立てれば幸いである。
2019年3月
坂本 穆彦
臨床医学,臨床検査における細胞診の意義それ自体にはいささかの変わりはないが,細胞診の標本作製・判定などの運用面や,細胞診の関連領域には,テクノロジーの進展や疾患概念の変更などによるさまざまな変化が生じている。そのような現状を背景に本書の改訂が行われ,第6版として上梓されることになった。
第6版では新しい動向を意識的にとりあげた。例えば徐々に浸透しつつある液状処理法や,注目を集めているOn-site cytologyはその例である。細胞診の免疫染色は広がりをみせ,新しい抗体は次々に開発されている。細胞診報告様式は,子宮頸部細胞診ベセスダシステムに引き続いて,甲状腺細胞診ベセスダシステム,尿細胞診パリシステム,唾液腺細胞診ミラノシステムがすでに公にされた。乳腺細胞診などの横浜システムのほか,他臓器にもこの流れは波及しつつある。
他方,細胞診周辺では各種癌・腫瘍のWHO組織分類の改訂と,それに連動したわが国の癌・腫瘍取扱い規約の更新が間断なくつづいている。細胞診にとって組織診断は推定診断の直接対象であり,われわれは常にその動向を追う必要がある。
改訂第6版は細胞診に関連するこれらの状況の変遷に留意してまとめられた。当然のことながら,細胞診初学者のための手引きとしても,細胞診従事者にとっては生涯教育のテキストとしてもお使いいただけることを目指すという初版以来の立場は崩していないつもりである。
なお,前版まで執筆陣に名を連ねていただいた何名かの方々に代わって,第6版では次世代の細胞診専門医,細胞検査士の方が新たに各々の得意分野を担当されている。初版以来,本書執筆のためにご尽力いただいた執筆者の方々には心より謝意を表する次第である。第6版刊行にあたり医学書院編集部の大野智志氏をはじめ,担当者の方々には大変お世話になった。文末ながら厚く御礼申しあげたい。
第6版が今までの版と同様,細胞診を学ぶ皆様にとり,少しでもお役に立てれば幸いである。
2019年3月
坂本 穆彦
目次
開く
第1章 細胞診の臨床的意義と歴史・現状
1 医療における細胞診
2 細胞診の歴史・現状と未来
3 細胞診の専門資格
第2章 細胞の形態と機能
1 細胞と細胞小器官の構造
2 タンパク合成のしくみとその調節機構
3 細胞分裂と細胞増殖
4 幹細胞と細胞分化
第3章 上皮組織・非上皮組織
1 上皮組織
2 非上皮組織
第4章 病理組織学・総論
1 新陳代謝の障害による病変
2 炎症性病変
3 腫瘍性病変
4 その他の病変
第5章 標本作製の実際とその理論的背景
I 検体採取法
1 検体採取法の種類
2 臓器と検体採取法
II 塗抹・固定法
1 塗抹法
2 固定法
III 液状処理細胞診
IV 染色法
1 通常用いられる細胞診
2 必要に応じて用いられる染色法
3 免疫染色
V 術中迅速細胞診
1 術中迅速診断の意義
2 術中迅速細胞診の具体例
3 術中迅速細胞診の実際
第6章 顕微鏡の基礎知識と操作法
1 顕微鏡の種類
2 顕微鏡の基礎知識
3 顕微鏡の操作法
4 写真撮影とスライド作製
5 デジタルパソロジー
第7章 スクリーニングと細胞の見方/細胞像と組織像の対比
I スクリーニングと細胞の見方
1 スクリーニングの目的
2 スクリーニングの精度管理
3 スクリーニングの実際
4 細胞の見方
5 判定・診断と報告
II 細胞像と組織像の対比
細胞診断学各論
第8章 婦人科領域の細胞診
1 婦人科臓器の構造と細胞
2 婦人科領域疾患の分類と組織像
3 婦人科領域の細胞診
写真1~87
第9章 呼吸器領域の細胞診
1 呼吸器の構造と細胞
2 呼吸器疾患の分類と組織像
3 上気道の細胞診
4 下気道(気管・気管支および肺)の細胞診
写真1~33
第10章 消化器領域の細胞診
1 消化器の構造と細胞
2 消化器疾患の分類
3 口腔の細胞診
4 唾液腺の細胞診
5 食道の細胞診
6 胃の細胞診
7 十二指腸,肝,胆,膵の細胞診
8 大腸の細胞診
写真1~21
第11章 泌尿・生殖器の細胞診
1 泌尿・生殖器の構造と細胞
2 泌尿器系疾患の分類
3 泌尿・生殖器における尿細胞診
4 膀胱の細胞診
5 腎盂,尿管の細胞診
6 尿道の細胞診
7 陰茎の細胞診
8 腎臓の細胞診
9 精巣の細胞診
写真1~21
第12章 乳腺の細胞診
1 乳腺の構造と細胞
2 乳腺疾患の分類
3 乳腺の細胞診
写真1~15
第13章 甲状腺の細胞診
1 甲状腺の構造と細胞
2 甲状腺疾患の分類と組織像
3 甲状腺の細胞診
写真1~14
第14章 体腔液・脳脊髄液の細胞診
I 体腔液の細胞診
1 体腔液貯留を伴う疾患
2 体腔液の細胞診
II 脳脊髄液の細胞診
写真1~28
第15章 骨・軟部組織の細胞診
1 骨・軟部組織の疾患と分類
2 骨・軟部腫瘍の細胞診
写真1~27
第16章 骨髄・リンパ節の細胞診
1 骨髄の細胞診
2 リンパ節の細胞診
写真1~17
第17章 中枢神経系の細胞診
1 解剖と臨床病理学的特徴
2 細胞診の意義
3 出現する正常細胞
4 主な病変と細胞像
写真1~16
参考文献
カラー写真目次
和文索引
欧文索引
1 医療における細胞診
2 細胞診の歴史・現状と未来
3 細胞診の専門資格
第2章 細胞の形態と機能
1 細胞と細胞小器官の構造
2 タンパク合成のしくみとその調節機構
3 細胞分裂と細胞増殖
4 幹細胞と細胞分化
第3章 上皮組織・非上皮組織
1 上皮組織
2 非上皮組織
第4章 病理組織学・総論
1 新陳代謝の障害による病変
2 炎症性病変
3 腫瘍性病変
4 その他の病変
第5章 標本作製の実際とその理論的背景
I 検体採取法
1 検体採取法の種類
2 臓器と検体採取法
II 塗抹・固定法
1 塗抹法
2 固定法
III 液状処理細胞診
IV 染色法
1 通常用いられる細胞診
2 必要に応じて用いられる染色法
3 免疫染色
V 術中迅速細胞診
1 術中迅速診断の意義
2 術中迅速細胞診の具体例
3 術中迅速細胞診の実際
第6章 顕微鏡の基礎知識と操作法
1 顕微鏡の種類
2 顕微鏡の基礎知識
3 顕微鏡の操作法
4 写真撮影とスライド作製
5 デジタルパソロジー
第7章 スクリーニングと細胞の見方/細胞像と組織像の対比
I スクリーニングと細胞の見方
1 スクリーニングの目的
2 スクリーニングの精度管理
3 スクリーニングの実際
4 細胞の見方
5 判定・診断と報告
II 細胞像と組織像の対比
細胞診断学各論
第8章 婦人科領域の細胞診
1 婦人科臓器の構造と細胞
2 婦人科領域疾患の分類と組織像
3 婦人科領域の細胞診
写真1~87
第9章 呼吸器領域の細胞診
1 呼吸器の構造と細胞
2 呼吸器疾患の分類と組織像
3 上気道の細胞診
4 下気道(気管・気管支および肺)の細胞診
写真1~33
第10章 消化器領域の細胞診
1 消化器の構造と細胞
2 消化器疾患の分類
3 口腔の細胞診
4 唾液腺の細胞診
5 食道の細胞診
6 胃の細胞診
7 十二指腸,肝,胆,膵の細胞診
8 大腸の細胞診
写真1~21
第11章 泌尿・生殖器の細胞診
1 泌尿・生殖器の構造と細胞
2 泌尿器系疾患の分類
3 泌尿・生殖器における尿細胞診
4 膀胱の細胞診
5 腎盂,尿管の細胞診
6 尿道の細胞診
7 陰茎の細胞診
8 腎臓の細胞診
9 精巣の細胞診
写真1~21
第12章 乳腺の細胞診
1 乳腺の構造と細胞
2 乳腺疾患の分類
3 乳腺の細胞診
写真1~15
第13章 甲状腺の細胞診
1 甲状腺の構造と細胞
2 甲状腺疾患の分類と組織像
3 甲状腺の細胞診
写真1~14
第14章 体腔液・脳脊髄液の細胞診
I 体腔液の細胞診
1 体腔液貯留を伴う疾患
2 体腔液の細胞診
II 脳脊髄液の細胞診
写真1~28
第15章 骨・軟部組織の細胞診
1 骨・軟部組織の疾患と分類
2 骨・軟部腫瘍の細胞診
写真1~27
第16章 骨髄・リンパ節の細胞診
1 骨髄の細胞診
2 リンパ節の細胞診
写真1~17
第17章 中枢神経系の細胞診
1 解剖と臨床病理学的特徴
2 細胞診の意義
3 出現する正常細胞
4 主な病変と細胞像
写真1~16
参考文献
カラー写真目次
和文索引
欧文索引
書評
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初学者の手引書として,生涯教育のテキストとして
書評者: 伊藤 仁 (日本臨床細胞学会細胞検査士会会長/東海大病院病理検査技術科長)
このたび,待望の『細胞診を学ぶ人のために 第6版』が刊行された。1990年に初版が刊行されて以来,来年で30年を迎える本書は,これまで細胞診を勉強するための教科書として,多くの皆さまが必携の書として愛用している一冊である。
本書は,細胞診を学ぶ人にとって必須の基本的内容が網羅され,詳細かつ簡潔な説明は平易で理解しやすい。細胞像,組織像などはオールカラーで美しく仕上がっており,要所には表や図が的確に配されている。特に初版からの特徴であるシェーマは,豊富に盛り込まれており,活字では表現し難い内容を視覚的に理解することが容易となっている。
第6版では,基本的な内容の他,新しい情報が積極的に取り上げられ,液状処理法(liquid-based cytology:LBC)や,On-site cytologyなど,近年,注目されている技術や方法にも言及している。現代の医学,医療は目覚ましい発展を遂げ,それに対応する組織分類の改訂や更新が続いているが,細胞診に深く関係するこれらの状況や変遷についても留意されている。細胞診報告様式についても,子宮頸部細胞診ベセスダシステムに続いて公表されている甲状腺細胞診ベセスダシステム,尿細胞診パリシステム,唾液腺細胞診ミラノシステムなどについても触れられている。
執筆者も時代に合った次世代の専門医や細胞検査士が加わり,それぞれの得意分野を担当し,フレッシュさが感じられる内容となっている。細胞診初学者のための手引書として,そして細胞診従事者の生涯教育のテキストとしても有用な初版以来のスタンスを色濃く継承している。『細胞診を学ぶ人のために 第6版』,まさに細胞診を学ぶ人のために刊行された一冊である。
説得力のあるスケッチで細胞所見の特徴を的確に捉えられる
書評者: 佐藤 之俊 (北里大主任教授・呼吸器外科学)
『細胞診を学ぶ人のために 第6版』が上梓された。1990年6月の初版第1刷から29年という年月が過ぎ,第5版の上梓からも8年経った。まず,細胞診従事者でこの本を知らないものはいないと言って過言ではないと思う。かくいう私も細胞診専門医の資格を持とうと決めた時にこの本を購入した。それも記念すべき初版第1刷であり,この本のおかげで細胞診専門医になることができたと感謝するとともに,第6版を拝読し,細胞診に従事した自らの年月を振り返る貴重な機会をいただいた。初版は現在も座右の書として大切にしている。
今回の第6版は初版より100ページも増加しており,内容がますます充実した。編集の坂本穆彦先生が第6版の序で書かれているように,本書では細胞診や病理診断を取り巻く新しい動向が盛り込まれている。特に液状処理法やOn-site cytologyなどがその一例であり,さらに,免疫細胞化学的染色の進歩にも対応している。また,各分野の細胞診の報告様式(国際あるいは国内の)が次々と公にされており,それに即した記載や紹介もなされている。
私がこの書籍で注目し強調したいのは,美しい細胞写真ではなく,手書きのシェーマ・スケッチである。細胞所見などの特徴を的確に捉え,しかも説得力のあるスケッチは初版からますます増えて充実している。シェーマ・スケッチは写真に比較して,核や細胞質といった細胞個々の所見や細胞集塊の特徴などがとてもわかりやすい。これは,初心者にとっては検鏡学習時の手引きとなり,さらに,細胞診従事者にとっては生涯教育テキストである上に後進の教育の現場で参考にすべきものといえる。
例として,私の専門分野である呼吸器領域の第9章をひもといてみよう。気管・肺の組織構築と細胞所見の図では,口腔から肺胞レベルに至る各部位の正常な上皮細胞が,それらの特徴を良く捉えたシェーマとして提示されている。そして,文章中では各細胞の機能がコンパクトかつ理解しやすく記述されている。さらに,主な肺癌の解説として,腺癌,扁平上皮癌,小細胞癌,大細胞癌という肺癌の4基本組織型における細胞の特徴が,カラーのシェーマに説明文を加えた図として記載されている。百聞は一見に如かずというがごとく,各組織型における細胞の特徴が一目瞭然であり,自分の細胞診断能力が格段に向上したような錯覚を起こさせるくらいに工夫されている。
次に,テクノロジーの進歩の盛り込みという観点からみてみよう。「第6章 顕微鏡の基礎知識と操作法」の中に,デジタルパソロジーの項があり,デジタルパソロジーシステムの現状と問題点がコンパクトにまとめられている。さらに,AIに関しても言及されており,細胞診におけるデジタルの波は押し寄せているというより,その波に乗っていかねばならないという現状と展望がよく理解できる。
さて,初版の本体価格は9700円であったが,今回の第6版はなんと9800円である。経済的にも「超」お薦めの一冊といえる。
書評者: 伊藤 仁 (日本臨床細胞学会細胞検査士会会長/東海大病院病理検査技術科長)
このたび,待望の『細胞診を学ぶ人のために 第6版』が刊行された。1990年に初版が刊行されて以来,来年で30年を迎える本書は,これまで細胞診を勉強するための教科書として,多くの皆さまが必携の書として愛用している一冊である。
本書は,細胞診を学ぶ人にとって必須の基本的内容が網羅され,詳細かつ簡潔な説明は平易で理解しやすい。細胞像,組織像などはオールカラーで美しく仕上がっており,要所には表や図が的確に配されている。特に初版からの特徴であるシェーマは,豊富に盛り込まれており,活字では表現し難い内容を視覚的に理解することが容易となっている。
第6版では,基本的な内容の他,新しい情報が積極的に取り上げられ,液状処理法(liquid-based cytology:LBC)や,On-site cytologyなど,近年,注目されている技術や方法にも言及している。現代の医学,医療は目覚ましい発展を遂げ,それに対応する組織分類の改訂や更新が続いているが,細胞診に深く関係するこれらの状況や変遷についても留意されている。細胞診報告様式についても,子宮頸部細胞診ベセスダシステムに続いて公表されている甲状腺細胞診ベセスダシステム,尿細胞診パリシステム,唾液腺細胞診ミラノシステムなどについても触れられている。
執筆者も時代に合った次世代の専門医や細胞検査士が加わり,それぞれの得意分野を担当し,フレッシュさが感じられる内容となっている。細胞診初学者のための手引書として,そして細胞診従事者の生涯教育のテキストとしても有用な初版以来のスタンスを色濃く継承している。『細胞診を学ぶ人のために 第6版』,まさに細胞診を学ぶ人のために刊行された一冊である。
説得力のあるスケッチで細胞所見の特徴を的確に捉えられる
書評者: 佐藤 之俊 (北里大主任教授・呼吸器外科学)
『細胞診を学ぶ人のために 第6版』が上梓された。1990年6月の初版第1刷から29年という年月が過ぎ,第5版の上梓からも8年経った。まず,細胞診従事者でこの本を知らないものはいないと言って過言ではないと思う。かくいう私も細胞診専門医の資格を持とうと決めた時にこの本を購入した。それも記念すべき初版第1刷であり,この本のおかげで細胞診専門医になることができたと感謝するとともに,第6版を拝読し,細胞診に従事した自らの年月を振り返る貴重な機会をいただいた。初版は現在も座右の書として大切にしている。
今回の第6版は初版より100ページも増加しており,内容がますます充実した。編集の坂本穆彦先生が第6版の序で書かれているように,本書では細胞診や病理診断を取り巻く新しい動向が盛り込まれている。特に液状処理法やOn-site cytologyなどがその一例であり,さらに,免疫細胞化学的染色の進歩にも対応している。また,各分野の細胞診の報告様式(国際あるいは国内の)が次々と公にされており,それに即した記載や紹介もなされている。
私がこの書籍で注目し強調したいのは,美しい細胞写真ではなく,手書きのシェーマ・スケッチである。細胞所見などの特徴を的確に捉え,しかも説得力のあるスケッチは初版からますます増えて充実している。シェーマ・スケッチは写真に比較して,核や細胞質といった細胞個々の所見や細胞集塊の特徴などがとてもわかりやすい。これは,初心者にとっては検鏡学習時の手引きとなり,さらに,細胞診従事者にとっては生涯教育テキストである上に後進の教育の現場で参考にすべきものといえる。
例として,私の専門分野である呼吸器領域の第9章をひもといてみよう。気管・肺の組織構築と細胞所見の図では,口腔から肺胞レベルに至る各部位の正常な上皮細胞が,それらの特徴を良く捉えたシェーマとして提示されている。そして,文章中では各細胞の機能がコンパクトかつ理解しやすく記述されている。さらに,主な肺癌の解説として,腺癌,扁平上皮癌,小細胞癌,大細胞癌という肺癌の4基本組織型における細胞の特徴が,カラーのシェーマに説明文を加えた図として記載されている。百聞は一見に如かずというがごとく,各組織型における細胞の特徴が一目瞭然であり,自分の細胞診断能力が格段に向上したような錯覚を起こさせるくらいに工夫されている。
次に,テクノロジーの進歩の盛り込みという観点からみてみよう。「第6章 顕微鏡の基礎知識と操作法」の中に,デジタルパソロジーの項があり,デジタルパソロジーシステムの現状と問題点がコンパクトにまとめられている。さらに,AIに関しても言及されており,細胞診におけるデジタルの波は押し寄せているというより,その波に乗っていかねばならないという現状と展望がよく理解できる。
さて,初版の本体価格は9700円であったが,今回の第6版はなんと9800円である。経済的にも「超」お薦めの一冊といえる。