MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2019.06.17
Medical Library 書評・新刊案内
廣瀬 肇 編著
城本 修,生井 友紀子 著
《評者》大森 孝一(京大大学院教授・耳鼻咽喉科・頭頸部外科学/日本音声言語医学会理事長)
音声障害の治療に焦点を当てる教科書
長年にわたって日本の音声言語医学を牽引してこられた廣瀬肇先生が『音声障害治療学』を上梓された。廣瀬先生は日本音声言語医学会理事長を10年余り務められ,この領域における臨床,研究の発展に尽力され,優れた医師や言語聴覚士を育成されてきた。特に音声障害の治療に力を入れ,医師と言語聴覚士が協力して行うチーム医療を早くから実践してこられた。今までの臨床経験に基づいて,音声障害の治療に焦点を当てて本書を企画された。
音声障害の治療は,主に耳鼻咽喉科医による医学的治療と,言語聴覚士による行動学的治療に大別される。このうち医学的治療には音声外科治療と薬物治療がある。行動学的治療は患者の望ましくない行動を望ましい行動に変えようとする行動変容をめざすものであり,本書では発声訓練や音声治療を行動学的治療としてとらえ,運動学習理論,認知行動療法について記載している点に特徴がある。
項目や内容を見ると,まず音声障害の治療総論,音声障害の評価から診断・治療への流れ,音声障害の医学的治療については主に廣瀬先生が執筆され,理論的背景,実臨床,最新の医学的治療についてわかりやすく解説されている。次に,音声障害の行動学的治療については海外の臨床にも明るい城本修先生が執筆されている。適応を考慮すべき疾患として,心因性発声障害,運動障害性構音障害,痙攣性発声障害を取り上げ,病態の解説や音声訓練法について理論的背景を記載しており,具体的な訓練の方法やそれらのエビデンスとなる臨床研究のデザインについても書かれている。音声治療の臨床については廣瀬先生と一緒に診療に当たっておられる生井友紀子先生が執筆されている。機能性音声障害の音声治療について,直接訓練の具体的な手技が書かれており大変わかりやすい。このように,超一流の執筆者が懇切丁寧に理論と手技を解説しており,音声障害の臨床の全体像を理解しやすい構成になっている。
本書では,音声治療の主な適応を機能性音声障害としている。機能性音声障害の定義については,従来あいまいな点もあり,臨床的に発声器官に器質的異常が認められない例をまとめて機能性音声障害と見なす立場もあった。しかし本書では,機能性音声障害とは,あくまで“声の使い方や声の出し方が下手になった,あるいはこれらに悪い癖がついた状態”すなわち発声様式,発声習慣という行動に異常がある状態と定義した。なお,機能性音声障害は,声帯の器質性障害や声帯運動障害などに併発して起こりうる病態であることも述べられている。
超高齢社会を迎えて,高齢者の社会参加にはコミュニケーションが大切であり,加齢性音声障害への対応は重要な課題である。また,声帯結節や喉頭肉芽腫など生活習慣による音声障害への対応も求められている。しかしながら,音声障害を主な対象として実際に音声治療を実施している言語聴覚士は少ないのが現状である。日本音声言語医学会でも音声障害の専門家の育成事業を進めており,言語聴覚士の音声治療の普及とその技術向上にも貢献したいと考えている。そのような中で,本書が音声障害診療に携わる耳鼻咽喉科医,言語聴覚士,音声障害にかかわる医療関係者にとって有用なものになるのは間違いない。ぜひ,多くの方々に手に取って読んでいただき,臨床の現場で活用していただきたい。
B5・頁208 定価:本体5,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03540-8
田村 正徳 監訳
《評者》仁志田 博司(東京女子医大名誉教授)
日本版NRPの原点となる米国NRPを知る
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