音声障害治療学

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音声障害治療の理論的背景と最新の医学的治療、言語聴覚士による行動学的アプローチを解説する。診療現場で併用される医学的治療と行動学的治療(本書では音声治療と同義とする)の実際を、医師と言語聴覚士によるコラボレーションで紹介。
編著 廣瀬 肇
城本 修 / 生井 友紀子
発行 2018年10月判型:B5頁:208
ISBN 978-4-260-03540-8
定価 5,500円 (本体5,000円+税)

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 本書は音声障害の治療を主題とし,その理論的背景と臨床的実践についてくわしく解説することに努めた。特に言語聴覚士による行動学的アプローチの記述に重点を置いた。
 これまで音声障害について書かれた成書は少なくないが,治療に焦点を当てて深く掘り下げたものはあまり見られなかった。他の多くの疾患と同様,音声障害の診療にあたっては,患者の訴えをよく訊くことから始まり,検査,評価・診断の過程を経て,治療方針が立てられる。したがって,最終段階にあたる治療が適切に行われるためには,これに先立つ検査,評価・診断が,正確かつ的確でなければならない。このため,従来の音声障害関連の成書では,検査,評価・診断面を重視して詳細に記述するのが通例であった。しかし本書では,検査についてはその理論的背景や実施上の注意点などを述べるにとどめ,結果として得られた診断に基づく治療面の記述に多くの頁をあてることとした。
 音声障害の治療は,耳鼻咽喉科医によるものを主とする医学的治療と,言語聴覚士による行動学的治療に大別できる。このうち医学的治療には音声外科を中心とする外科的治療と,保存的な薬物治療がある。
 一方,音声障害に対する行動学的治療は,基本的に患者の望ましくない行動を,望ましい行動に変えようとする行動変容を目指すものであり,本書ではこれを音声治療と同義としている。したがって,音声治療は行動理論に立脚したものであって,その背景には運動学習理論,認知行動学などがある。しかも音声治療は,あくまで医療の一環であり,患者の音声障害に対する治療として医学的適応を前提とするものであって,言語聴覚士と医師のコラボレーションが極めて重要である。診療の現場において,医学的治療と行動学的治療が併用される例もあることは言うまでもない。
 なお,本書では,音声治療の適応を,機能性音声障害に限定している。機能性音声障害の定義については,従来あいまいな点もあり,臨床的に発声器官に器質的異常が認められない症例を一括して機能性音声障害とみなす立場もあった。しかし本書では,機能性音声障害とは,あくまで“声の使い方や声の出し方が下手になった,あるいはこれらに悪い癖がついた状態”すなわち発声様式,発声習慣という行動に異常がある状態と定義した。なお,機能性音声障害は,声帯の器質性障害や声帯運動障害などに併発して起こりうる病態であることにも注意すべきである。
 本書が音声障害診療に携わる耳鼻咽喉科医,言語聴覚士,さらにこれから音声障害診療について学ぼうとする人達にとって有用なものとして迎えられることを願っている。

 2018年 秋
 廣瀬 肇

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1章 音声障害の治療総論
 A 音声障害の医学的基礎
  1 声は音の一種
  2 声はどのようにして作られるのか―発声のメカニズム
  3 声の男女差と年齢変化
  4 声とことば
  5 正常な声が作られるための条件
  6 音声障害と病的音声の特徴
  7 臨床で出会う音声障害にはどのようなものがあるか―音声障害の分類と臨床統計
  8 日本音声言語医学会提案による音声障害の分類
 B 音声障害の治療のあり方
  1 音声障害の治療総論
  2 音声治療小史
 C 医学的治療
  1 医学的治療方法の分類
  2 保存的治療―薬物療法
  3 外科的治療―音声外科
  4 その他の治療法(レーザー照射,放射線治療など)
 D 行動学的治療(音声治療)
  1 行動学的治療
  2 音声障害の行動学的治療
  3 行動変容の基礎となる健康行動科学理論
  4 行動変容のための健康行動科学理論モデル
  5 音声治療のアドヒアランスに関する行動学的視点
  6 発声行動の運動学習を支える脳機能
  7 発声の運動学習理論
  8 運動スキルの各習得過程におけるフィードバックの与え方
  9 運動生理学からみた音声治療
  10 音声治療への運動学習理論の応用
  11 音声訓練の計画立案

2章 音声障害の評価から診断・治療への流れ
 A 検査・情報の収集
  1 はじめに
  2 検査の種別
  3 主な検査について
 B 検査から診断へ

3章 音声障害の医学的治療
 A 治療方針の策定
  1 診断に基づいた治療方針の策定
  2 保存的治療の適応―特に疾患別にみた薬物治療について
  3 音声外科の適応と基本的手技
  4 その他の治療―放射線治療など
  5 全身性疾患との関連
 B 治療の実際
  1 保存的治療の実際―疾患別にみた薬物治療(療法)
  2 音声外科的治療の実際
 C 代表的な疾患に対する音声外科的治療
  1 声帯の良性病変
  2 声帯麻痺
  3 喉頭外傷
  4 痙攣性発声障害
  5 補遺

4章 音声障害の行動学的治療
 A 音声障害の行動学的治療と適応
  1 音声障害の行動学的治療(間接訓練と直接訓練)
  2 訓練目標と実施方法
  3 行動学的治療の適応
  4 行動学的治療計画の立案の留意点
 B 行動学的治療(音声治療)の適応を考慮すべき疾患
  1 心因性発声障害
  2 運動障害性構音障害
  3 痙攣性発声障害
 C 間接訓練
  1 間接訓練
  2 間接訓練と直接訓練
  3 グループ訓練と個別訓練
 D 直接訓練
  1 聴覚弁別力訓練
  2 声門閉鎖,声の高さの調節,反射性発声(笑い声,あくび,ため息など)などの
     発声機能訓練
  3 呼吸訓練
  4 喉頭や共鳴腔の筋緊張と姿勢の調整訓練
  5 発声に関与する体性感覚訓練
  6 音声治療の研究法について

5章 音声治療の臨床
 A 音声治療の基本的な考え方
  1 医療として
  2 医学的治療と同等の治療として
  3 行動学的治療として
  4 リハビリテーションとして
  5 適応に基づいて
 B 音声治療の取り組み方
  1 2本の柱
  2 間接訓練
  3 直接訓練
  4 クリニカルマネジメント
  ■ 補遺I 自主練習のマネジメント
 C 機能性音声障害―分類と特徴
  1 機能性音声障害とは何か
  2 機能性音声障害の分類
  3 各障害の病態と症状
  4 他の音声障害に合併した機能性音声障害
  ■ 補遺II 筋緊張の調節異常とその改善法
 D 機能性音声障害の音声治療
  1 過緊張型
  2 濫用:過剰型
  ■ 補遺III 初回セッションについて
  ■ 補遺IV 声の日記ノートの実際
 E 代表的な症例の音声治療―過緊張(重度)型
  1 症例
  2 音声治療開始時(間接訓練時)に確認すること
  3 初回セッション
  4 クリニカルマネジメント
  5 まとめ

索引

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音声治療を詳説する数少ない教科書
書評者: 深浦 順一 (国際医療福祉大大学院教授・音声障害学/日本言語聴覚士協会会長)
 このたび,音声障害の研究と臨床の基礎を築かれてきた廣瀬肇先生が『音声障害治療学』を上梓された。廣瀬先生は,音声治療を担当する言語聴覚士の育成にも長年力を尽くされてきた。本書においても,言語聴覚士として音声障害の治療・研究に長年取り組んでこられた城本修先生,生井友紀子先生が音声治療(行動学的治療)の理論と臨床について担当している。本書出版の意図が言語聴覚士の音声治療の普及とその技術向上にあることがうかがえる。

 本書の特徴は音声障害の治療に力点を置いていることである。音声障害の治療は,医学的治療と音声治療の両者の特徴と適応をよく理解して行う必要がある。医学的治療に関しては,多くの教科書で詳しく述べられているが,音声治療について詳述した教科書は少ない。本書では,廣瀬先生が医学的基礎・治療,評価から治療までの流れを簡潔に記述され,城本,生井両先生が記述した音声治療(行動学的治療)について多くのページが割かれている。

 また,本書では機能性音声障害という声帯に器質的病変や運動障害を有しない音声障害,すなわち発声法や発声習慣に問題を有する音声障害に対する音声治療を中心に記述されている。音声治療の基本は運動学習であり,運動学習理論に基づくものである。本書の中でも述べられているように,運動学習が維持されるには週3~5日の訓練が必要とされているが,現実の臨床では週1~2回となっており,時間的に十分な音声治療が実施されているとはいえないのが現状である。効果的な音声治療を実施するには,音声障害のタイプや重症度によって異なるが,週3~5回は実施することの必要性が示唆されている。本書に記述された音声治療の内容は,機能性音声障害以外の運動障害性構音障害や全身的状態の変化による音声障害(男性化音声,加齢性音声障害など),喉頭手術の治療前後にも適応できる内容となっている。

 音声障害を主な対象とし,実際に音声治療を実施している言語聴覚士は少ない。しかし,高齢社会を迎え,加齢性音声障害の数は急増している。高齢者の社会参加の促進が叫ばれている本邦において重要な課題である。また,従来その取り組みの重要性が叫ばれている生活習慣による音声障害(声帯結節,ポリープ様声帯など)の予防,運動障害性構音障害における音声の問題という観点からの音声治療も今後言語聴覚士が取り組むべき課題である。

 多くの言語聴覚士が本書を読んで,音声障害で苦しむ方々の治療に取り組んでいただくことを強く希望する。
音声障害の治療に焦点をあてる教科書
書評者: 大森 孝一 (京大大学院教授・耳鼻咽喉科・頭頸部外科/日本音声言語医学会理事長)
 長年にわたって日本の音声言語医学を牽引してこられた廣瀬肇先生が『音声障害治療学』を上梓された。廣瀬先生は日本音声言語医学会理事長を10年余り務められ,この領域における臨床,研究の発展に尽力され,優れた医師や言語聴覚士を育成されてきた。特に音声障害の治療に力を入れ,医師と言語聴覚士が協力して行うチーム医療を早くから実践してこられた。今までの臨床経験に基づいて,音声障害の治療に焦点を当てて本書を企画された。

 音声障害の治療は,主に耳鼻咽喉科医による医学的治療と,言語聴覚士による行動学的治療に大別される。このうち医学的治療には音声外科治療と薬物治療がある。行動学的治療は患者の望ましくない行動を望ましい行動に変えようとする行動変容をめざすものであり,本書では発声訓練や音声治療を行動学的治療としてとらえ,運動学習理論,認知行動療法について記載している点に特徴がある。

 項目や内容をみると,まず音声障害の治療総論,音声障害の評価から診断・治療への流れ,音声障害の医学的治療については主に廣瀬先生が執筆され,理論的背景,実臨床,最新の医学的治療についてわかりやすく解説されている。次に,音声障害の行動学的治療については海外の臨床にも明るい城本修先生が執筆されている。適応を考慮すべき疾患として,心因性発声障害,運動障害性構音障害,痙攣性発声障害を取り上げ,病態の解説や音声訓練法について理論的背景を記載しており,具体的な訓練の方法やそれらのエビデンスとなる臨床研究のデザインについても書かれている。音声治療の臨床については廣瀬先生と一緒に診療に当たっておられる生井友紀子先生が執筆されている。機能性音声障害の音声治療について,直接訓練の具体的な手技が書かれており大変わかりやすい。このように,超一流の執筆者が懇切丁寧に理論と手技を解説しており,音声障害の臨床の全体像を理解しやすい構成になっている。

 本書では,音声治療の主な適応を機能性音声障害としている。機能性音声障害の定義については,従来あいまいな点もあり,臨床的に発声器官に器質的異常が認められない例をまとめて機能性音声障害と見なす立場もあった。しかし本書では,機能性音声障害とは,あくまで“声の使い方や声の出し方が下手になった,あるいはこれらに悪い癖がついた状態”すなわち発声様式,発声習慣という行動に異常がある状態と定義した。なお,機能性音声障害は,声帯の器質性障害や声帯運動障害などに併発して起こりうる病態であることも述べられている。

 超高齢社会を迎えて,高齢者の社会参加にはコミュニケーションが大切であり,加齢性音声障害への対応は重要な課題である。また,声帯結節や喉頭肉芽腫など生活習慣による音声障害への対応も求められている。しかしながら,音声障害を主な対象として実際に音声治療を実施している言語聴覚士は少ないのが現状である。日本音声言語医学会でも音声障害の専門家の育成事業を進めており,言語聴覚士の音声治療の普及とその技術向上にも貢献したいと考えている。そのような中で,本書が音声障害診療に携わる耳鼻咽喉科医,言語聴覚士,音声障害にかかわる医療関係者にとって有用なものになるのは間違いない。ぜひ,多くの方々に手に取って読んでいただき,臨床の現場で活用していただきたい。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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