医学界新聞

2019.05.13



Medical Library 書評・新刊案内


プロメテウス解剖学 コア アトラス 第3版

坂井 建雄 監訳
市村 浩一郎,澤井 直 訳

《評者》野田 泰子(自治医大教授・解剖学)

理想形に到達したといえる改訂

 『プロメテウス解剖学 コア アトラス』は,21世紀に入り新たに作成された解剖学アトラス『プロメテウス解剖学アトラス』3分冊より,特に学生教育を意識して作られた。本シリーズは,当初より図版の美しさが話題となり,欧州で数々の賞を受賞し,今や独語から英語や日本語などにも翻訳され,全世界に広まっている。

 まず第1の特徴である図版の完成度について,最新のコンピュータグラフィックスを駆使して作成される図版は,本書でも健在である。部位によるばらつきの少ない統一された仕上がりは,実物に近い質感を備えながら,かつ強調されるべき構造をきちんと伝え,より「リアル」が実現されている。従来の,描き手の思いが伝わるデフォルメを最小限としたことで,かえって初学者は自然な形で人体の理解が進められる。

 また,各図の解像度が上がりサイズダウンしたことも特徴といえる。小さくても十分な情報を伝えられることから,本「コア アトラス」では,3分冊版での解説を最小化し,新たに図版を改変・再構成したことで,複数の図版が効率的に同じページ内で配置されている。全体のイメージ形成や相互関係の理解に大きく貢献している。コンパクトで持ち歩きも可能であるのに加え,情報量はかえって増加した感さえある。

 構成の特徴としては,3冊に掲載されていた図版が体部ごとに系統的にまとめ直され,版を重ねるごとにさらに洗練された配置には,細部に至るまで解剖学実習での学習への配慮がうかがわれる。本版においては,著者らの意図通りの,ほぼ理想形に到達したといえる。

 さらに,第3版では,臨床医学の学習を視野に入れ,断面図や放射線画像の章がそれぞれの単元に増設された。前版より40ページほど増えている。常に臨床医学の進歩を意識し,医学生目線で,構造情報を最新応用にまでつなげようとする執筆者の気概が感じられる。解剖学自体は,時代を超え変わることのない学問ではあるものの,こうした工夫により,この書で学んだ医学生が将来にわたりこれを座右に置き,愛用することへの期待を込めたアトラスに仕上がっている。

 なお,この日本語版では,従来のアトラス同様,日本語・英語のダブル表記となっている。監訳者の坂井建雄氏は,日本解剖学会解剖学用語委員長として解剖学用語改訂にも長年携わっており,信頼度の高い日本語訳となっている点も魅力である。

A4変型・頁768 定価:本体9,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03535-4


人工呼吸管理レジデントマニュアル

則末 泰博 編
片岡 惇,鍋島 正慶 執筆

《評者》北野 夕佳(聖マリアンナ医大横浜市西部病院救命救急センター)

なんとすっきり!!!

 「ノリスエ先生,ちょっと教えてもらいたいんですけど!」

 秘密をバラすと,本書ご編集の則末泰博先生は私の集中治療の家庭教師です。しかも月謝なし。写真は,私が難渋した人工呼吸器の設定調整過程を動画に撮っておいて,自分の行った臨床の論理が合っていたのかを振り返りとして聞きに行った時のものです()。しかもこの時だけではなく,「コソっと相談」は何回もあります。大感謝。

 今回,東京ベイ・浦安市川医療センター集中治療部門の則末組,片岡惇先生と鍋島正慶先生の経験と知識を詰め込んだ『人工呼吸管理レジデントマニュアル』が刊行されました。書評を依頼されたことが光栄で,文字通り最初から最後まで読ませていただきました。

感想:
・究極に知識のある集中治療医集団だからこそ書ける,究極に簡潔化された一般論を凝縮
・イラストが多用され,極めてわかりやすい
・実務が回せることを重視したマニュアル
・病態生理に基づいた論理的な記載
・何度でもここに戻ってくるべき一生モノの本
・臨床家だからこそ書ける臨床パールが満載

 人工呼吸管理については,こだわりのある先生方がたくさんおられると思います。だからこそ,私のような集中治療領域にいる非専門医にとっては,どこまでが「患者利益のために外してはいけないエビデンスのある一般論」であって,どこからが「流派によるこだわりポイント」なのかが混沌としてきます。

 しかし,この書籍を読めば,それらの悩みが全て解決します。これだけコンパクトにもかかわらず,記載の正確さ,引用文献の質の高さは圧倒的です。むしろ,簡潔にコンパクトに,それでいて必要十分な一義的で明確な記載にそぎ落とすことにかなりの努力をされたのだろうと拝察します。多忙な読者への愛情ですね。

 この努力の結晶の書籍を,日本全国で活用していけることは素晴らしいことだと思います。再度,あらためて,このような書籍を世に出してくださったことに感謝。

写真 評者が則末先生に相談した人工呼吸器の設定調整画面

:ARDSの症例。超重症というわけではなかったのですが,A/C(PCV)にすると補助呼吸筋も使って,写真のように人工呼吸器に非同調,鎮痛・鎮静薬や人工呼吸器設定を調整してみても見た目が苦しそうな呼吸が続きます。SpontにしてEsens 1%にするとTV9 mL/kgくらい入ってしまうものの,とても気持ちよさそうに呼吸され,レスピのグラフィックスもよくなります。
 私の判断として,鎮静をさらに深くしたり筋弛緩をかけたりして「レスピの見た目をよくする」よりも,後者のSpontの状態でこの患者さんにはそれほど経肺圧はかかっていないはずと判断して,管理しました。結果的に患者さんは改善され抜管できましたが,次からも同じ思考過程で良いのか100%定かではなく,則末先生に聞きに行ったという次第です。
 症例振り返りのノリスエ塾の内容,気になりますか? 本書の第15章ARDS,第18章患者―人工呼吸器間の非同調,第19章食道内圧モニタリングを読めば,わかります。

B6変型・頁216 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03834-8


新生児学入門 第5版

仁志田 博司 編
髙橋 尚人,豊島 勝昭 編集協力

《評者》多田 裕(東邦大名誉教授)

新生児医療に携わる者の基礎となる一冊

 『新生児学入門 第5版』が出版された。1988年に初版が発刊されて以来改版を重ね,第5版では最新の新生児医療が紹介されている。

 この機会にわが国の新生児医療を振り返ってみよう。

 出生に伴って,新生児は人の一生の中でも最も大きな変化を経験する。各臓器の機能が未熟で脆弱なため,死亡率が高いだけでなく,この時期に受けた影響は小児期から成人期の生活の質にも影響を及ぼすことが知られている。

 新生児や未熟児は,体が小さいだけでなく未熟な臓器機能や脆弱性からその取り扱いが難しく,新生児医療は他領域に比べて発展が遅れていた。また,成人や年長児では普通に使用される医療機器や検査法も,体重が成人の20から100分の1しかない新生児や未熟児には適用が困難であった。

 他領域では診断や検査方法,治療が進歩し専門性が深まり,全体を診るよりは疾病を診て治療する傾向になった。しかし新生児医療では,利用できる検査や治療方法が限られていたこともあって,経験と観察を生かして対象となる児の全体を診るとともに,できる限り児に負担を掛けないこと,現在の疾病の治療だけでなくこれからの長い一生を見据えた対応をすることが特色となった。

 その後,新生児や未熟児の生理・病理が次第に解明され,利用できる機器の開発も進み,新生児医学の中での各専門領域が深まっていった。予後は大きく改善し,わが国の新生児医療は世界でも最も優れたものとなった。

 しかし専門領域が深まっても,児とそれを取り巻く家庭環境全体を配慮する特色は変わらない。入院中の児を巡る環境の改善,ケアへの両親の関与,ディベロップメンタルケア,フォローアップと退院後の支援など,関係する医師,看護師,助産師,臨床心理士,保健師,保育士,その他の協働の下に志向する子どもと親に優しい医療は,疾病だけでなくこころも重視する本質が保たれている。こうした新生児医療の考えは,他領域にも影響を与えるようになった。

 『新生児学入門』は新生児医療に長く携わり指導を続けてきた仁志田博司氏が,新生児医療に携わる者の基礎となるように,これまでの経験と知識を中心にその考えを著した書である。第5版では,新生児医学各領域で活躍中の第一人者がそれぞれの領域の基礎と臨床について分担執筆し,深い内容を理解しやすく解説した書となった。加えて,新生児に対する温かいまなざしが伝わる氏の哲学は,版を重ねてもご自身で担当した多くの章の中に保たれ本書の特色となっている。

 タイトルには「入門」とあるが,これから新生児医療に携わる者が新生児学の基礎と心構えを学ぶ書であるとともに,経験を重ねた者にとっても初心に帰って日常の診療を見直す良い機会となる書である。また,他領域の医療従事者にとってもどのような考えの下に新生児が療育され,成長して現在の診療対象になったかを知る上で参考になる書であろう。

B5・頁456 定価:本体5,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03625-2


救急画像ティーチングファイル

Daniel B. Nissman 編
船曵 知弘 監訳

《評者》佐藤 朝之(市立札幌病院救命救急センター部長)

「語り継がれるべき経験」を蓄積したteaching file

 知らなければならないけれども,「知らなければならないこと自体を知らない」(だから,知ろうとする行動自体が起こらずに,いつまでたっても知らないまま)ということがある。

 適切なtermさえわかれば自由に検索ができて,さまざまな情報を獲得可能な現在ではあるけれども,検索されない情報には触れることができない。

 日々の臨床で患者さんに向き合いながら,自分の知らないこと,できないことに向き合っては学んでいく中で医師として経験を積むわけだけれど,経験には個人差があるし,「知らなければならないことを知らない問題」は常に付きまとう。

 先輩の医師はそれを知ってか知らずか,時折若い医師に自分の経験を語ってくれる。エビデンスの世の中ではあるが,一例の経験が教えてくれることは少なくない。「語り継がれるべき経験」は蓄積されて,teaching fileになる。そこには(全てではないにせよ)自分がまだ知らないことへの学びのきっかけや,経験のばらつきを埋めてくれる材料が詰まっている。

 救急という単語が醸す意味にはさまざまあるけれど,診療科に関係なく,「その時その場にいる者が適切に判断を下して時間の制約のある中で治療的介入をしていかなければならない」という差し迫ったものを多くの人は感じ取るのではないだろうか。治療的介入は必ずしも急ぐものばかりではないけれど,「急ぐか,急がないかの判断は,急ぐ」のである。判断を下すときに,画像診断の力は欠くことができない。

 本書は画像診断の能力を高めることに目的があるものではない。ある程度画像が読めるくらいの経験を積んだ上で,ページに挙げられているkey filmの意味を味わうことができるようなレベルでの使用が最も好ましい。

 私たちは,画像をオーダーするときも読むときも,病歴や症状から,外傷の時は受傷機転から,「ここにこういう所見があるはずだ」という正しい先入観を持ってこれに臨むが,本書では,あえて病歴や受傷機転は最小限にとどめられている。一方で,救急外来では所見を取ってある程度鑑別を挙げたら,適切な専門医と共に診療に臨むけれども,本書はその所見を取った先の解説が手厚くなされている。放射線科の視点からの画像読影の表現,画像上なぜそのような所見を生じるか,病態あるいは損傷一つ一つの機序や分類などが記載されている。自分が「ある」と認識した所見を適切な言葉で表記できるようになることは,各診療科とのコミュニケーションを実りあるものにしてくれるし,そのような所見を呈した背景を知ることは,読影の応用力を上げてくれるだろう。

 「100本ノック」の並びの順番は内因,外因の区別なく,重症度緊急度,解剖学的にもランダムである。さまざまな傷病者が次から次にやってくる救急室のありようそのまま,ということなのだろう。

B5・頁304 定価:本体4,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03628-3

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