病棟における口腔管理の最前線から(後編)(白石愛)
寄稿
2019.03.25
【寄稿】
病棟における口腔管理の最前線から(後編)
口腔スクリーニングの実際と歯科衛生士による介入のエビデンス
白石 愛(熊本リハビリテーション病院歯科口腔外科/歯科衛生士)
(前編よりつづく)
最良の栄養療法は経口摂取である。料理の彩りを目で見て,香りを感じ,味を楽しみ,大切な仲間や家族と食卓を囲むということは,ただ栄養を摂取する以上の意味があるだろう。口から食べることは,日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)にも影響を及ぼす。
口腔機能は摂食・嚥下プロセスの主要な役割を担っているにもかかわらず,多くの高齢者は口腔の問題を抱えている。われわれが行った研究では,65歳以上の入院高齢者の約8割に何らかの口腔機能障害が認められ,口腔機能障害とサルコペニア,低栄養との関連も示唆された1)。さらに入院患者の口腔の問題は,栄養状態や嚥下レベル,自宅退院や退院時ADL,院内死亡と関連することも明らかになっている2)。入院患者における口腔の問題とその他の因子との関連を図に示す。
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図 入院患者における口腔の問題とその他の因子との関連 |
急性期から在宅まで,さまざまな現場で何らかの口腔の問題が頻繁に発生しており,患者の健康状態を維持・改善するためには,医科と歯科,双方の緊密な協力を促進することが重要である。そのため,入院時に口腔スクリーニングを行い,必要に応じて介入することは医療の基本である。
口腔スクリーニングツールを活用し,多職種で問題を共有
口腔スクリーニングの手法にはさまざまなものがあるが,ROAG(Revised Oral Assessment Guide ; 改訂口腔アセスメントガイド)は信頼性と妥当性が検証され,国際的に使用されている口腔スクリーニングツールのひとつである。
ROAGでは,口腔機能を【声,嚥下,口唇,舌,粘膜,歯肉,歯・義歯,唾液】の8項目に分けてスコア化しており,1~3点で評価を行う。また,各項目の評価だけでなく,ROAG総スコアによる重症度分類も可能である(8点:問題なし,9~12点:軽度~中等度の口腔問題あり,13点~24点:重度の口腔問題あり)。
ROAGの他,OHAT(Oral Health Assessment Tool)も臨床現場において普及し始めている。いずれも口腔管理やモニタリングに適しており,歯科以外の職種でも慣れれば1分以内で評価可能である(患者セッティングに応じて使い分けることが肝要である)。病棟や施設,在宅医療などでこれらのスクリーニングツールを用いることにより,多職種で口腔の問題を共有することが可能となる。
熊本リハビリテーション病院における取り組み
前編で述べたとおり,当院では病棟専属の歯科衛生士を配属するとともに,看護師・歯科衛生士の双方で口腔スクリーニングを開始した。
口腔スクリーニングの結果,重度の口腔問題(ROAG総スコア13点以上)や異常があれば,歯科衛生士に連絡が来るシステムとなっている。口腔スクリーニングの結果や口腔内所見などは電子カルテを通じて全職種が把握できるようになっており,今ではROAGスコアがカンファレンスなどの場で多職種の共通言語となっている。
口腔スクリーニングの開始以降,看護師から歯科衛生士に対して,口腔内の状況や食事に関しての相談が数多く...
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