医学界新聞

2019.03.11



漢方医学教育SYMPOSIUM2019開催


 漢方医学は2001年から医学教育モデル・コア・カリキュラム(以下,コアカリ)に記載され,知識の修得が医学教育における卒業時の到達目標の一つとなった。多くの教育機関で漢方医学教育が進みつつあるが,その教育基盤はまだ発展途上である。これを受け,漢方医学教育のさらなる発展・充実をめざす日本漢方医学教育振興財団が2017年に設立された。事業の一環として「漢方医学教育SYMPOSIUM 2019」が2月9日,都市センターホテル(東京都千代田区)にて開催された。シンポジウムでは,財団による2017年度漢方医学教育研究助成対象となった3人による中間報告の他,2018年度漢方医学教育奨励賞・功労賞受賞者らの講演が行われた。

漢方医学教育の充実に向けた工夫を共有

 優れた漢方医学教育を行う者を表彰する奨励賞を受賞したのは熊本赤十字病院の加島雅之氏。受賞講演の冒頭,「漢方を知ることが翻って西洋医学を知ることにつながる」と,漢方医学教育の重要性を強調した。氏は,一般医学生に対しては西洋医学や中医学との対比を重視した教育を行い,特に興味を持つ学生にはセミナー合宿や勉強会でより発展的な内容を指導しているという。取り組みを続け,「漢方専門医だけでなく,『臓器専門医かつ漢方医』や『プライマリ・ケア医かつ漢方医』の養成も行っていきたい」と,今後の漢方医学教育活動の充実に向けた意気込みを語った。

 漢方医学教育の普及・発展に優れた貢献活動をしてきた者に贈られる功労賞を受賞した寺澤捷年氏(富山大名誉教授/千葉中央メディカルセンター)は,明治時代以降の漢方医学教育の歴史を振り返った。明治政府の方針により医学教育において西洋医学の比重が高まった結果,漢方医学の知識を持つ医師が激減した。一方,市民は漢方を使用するという「ねじれ現象」が1970年代に目立つようになる。これを解消するため,1976年に医療保険制度に,2001年にはコアカリに漢方医学が組み込まれるようになった。さらに2022年1月発行予定のICD-11(国際疾病分類)に,気虚などの東アジア地域の伝統医学の病態が大幅に組み入れられることに触れ,「漢方医学教育発展の後押しとなる」と期待を示した。

 2018年度漢方医学教育研究助成対象に選ばれた佐藤浩子氏(群馬大大学院)は,医学生の漢方への関心を高める卒前教育の工夫を紹介した。同大の臨床実習では腹診シミュレーターを用いた実習やロールプレイによる症例演習など,体験型の漢方医学教育を行っている。氏は「これらの取り組みが漢方への関心や興味を変容させるに至ったか解析したい」と今後の研究に意欲を示した。

 「漢方になじみがない医師に効能を納得させる効果的な方法は,患者の『良くなった』との声である」。この考えから加藤士郎氏(筑波大病院)は,実臨床に直結する教育に重きを置いていると話した。卒前教育では漢方外来での臨床実習に加え,希望者を対象に漢方専門病院での実習を行うという。卒後の臨床研修では漢方診察法や投与方法修得のための講座を開催し,より実践的な教育に努めている。氏は講座参加者の声を紹介し,実践的な漢方医学教育の重要性を強調した。

 文科省高等教育局医学教育課の荒木裕人氏は,漢方医学教育の現状と展望を概説した。2017年に改訂されたコアカリにおいて漢方医学教育は,個別の漢方薬の特徴だけでなく,漢方医学全体の特徴の理解をめざすよう変更された。氏は,多様なニーズに対応できる医師養成のために「文科省としても,漢方医学教育の充実に向けた取り組みを全国医学部長病院長会議などで促していきたい」と話した。

 2019年度漢方医学教育研究助成,奨励賞・功労賞の募集は5月より行われる予定。詳細は,3月下旬から財団ウェブサイトにて公開される。

2018年度漢方医学教育研究助成対象者と奨励賞・功労賞受賞者が表彰された

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