医学界新聞

2019.01.28



Medical Library 書評・新刊案内


看護学生が身につけたい
論理的に書く・読むスキル

福澤 一吉 著
山本 容子 執筆協力

《評者》安部 陽子(日赤看護大教授・看護管理学)

トゥールミンの論証モデルを使って論理的に記述する

 小学一年生である息子の国語の教科書に興味深い物語1)が載っていた。クマは何かが入っている袋を見つけた。袋の中身が何かをリスに聞きに行った。ところが,袋には穴が開いていて何もなかった。暖かい風が吹き始めたら花の一本道ができた。これがその物語である。袋には穴が開いていたので,クマがリスに会いに行く間に中身が全てこぼれてしまったこと,そのためリスに中身が何かを聞くことはできなかったこと,穴の開いた袋の中身が花の種であったこと,リスに会いに行く間にこぼれた種が春になって芽吹き花が咲いたことはどこにも記述されていない。読者がこれらを仮定して物語を読み取るのである。

 小学一年生を対象とした物語では複数の事柄が綿密につながっていなくてもよい。しかし,高等教育の論文・レポートや専門雑誌の記事では論理的に書くこと,そのために論理的に読むことが求められる。

 学生が書いた文章を読む。または自分が書いた文章をしばらくしてから読み返す。そのときに,「ここの文で書いてあることと,その後の文で書いてあることがつながっていない」と悩むことがある。文章全体には,前提/根拠と結論/主張があって,その間には前提/根拠から結論/主張を導くこと(導出)がある。しかし,その前提/根拠が単なる推測や意見で事実ではなかったり,読者が考えもつかない仮定が導出に含まれていて飛躍しすぎていたりすると,内容がつながっていない印象を読者に与えてしまう。その結果,文章が「論理的」でないと評価される。論文などでは前提/根拠が事実であること,仮定(論拠)を明示することが求められる。

 本書では,言葉で表す複数の事柄の関係として表れるものが論理であるとし,トゥールミンの論証モデルを枠組みとした,論理的に書いたり読んだりする方法が説明されている。

 本書の良い点は,まず基礎編で論理的に思考するための道具を紹介し,それから応用編でそれらの道具を使って論理的に書く方法と読む方法を説明している点である。特に,基礎編ではトゥールミンの論証モデルを枠組みとして論理的に思考する方法を系統的に説明している。ここで,前提/根拠,結論/主張,導出,仮定,論拠といった用語の詳細な説明が出てくる。応用編では論理的に書くため,論文などを書き始める前に文章の設計図(論証図)を描くこと,一文に一つの意味が含まれるように記述すること,論文などをパラグラフで構成することが説明されている。加えて,文章をいったん分解し,再構成するために読む方法も説明されている。

 本書は,教科書としては,練習問題を行ったり,文章の設計図を描いて実際に論文などを書かせたり,演習に使用できる。より良いレポートや論文を書きたい学部生のみならず大学院生にも役立つと思う。さらに,これらの学生を指導する教員,より良い論文を執筆したい研究者にもお薦めである。

参考文献
1)おかのぶこ.はなのみち.甲斐睦朗,他編.こくご一上――かざぐるま.光村図書出版;2018.32-9.

B5・頁176 定価:本体2,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03640-5


サルコペニアを防ぐ!
看護師によるリハビリテーション栄養

若林 秀隆,荒木 暁子,森 みさ子

《評者》丸山 泉(日本プライマリ・ケア連合学会理事長)

「サルコペニア」を共有するために最適な一冊

 「サルコペニア」は間違いなく,QOLの維持,改善のために知っておかなければならないキーワードです。そして,患者や介護サービスの利用者にかかわる全ての者が共有しておかなければ,サルコペニアを防ぐことはできません。

 日本の医療と介護の課題は,専門職と非専門職と患者(住民)が,いまだに,お互いの力量や可能性を十分に認め合っていないことだと思っています。専門家は,専門的技量は独占的に与えられたものと考える傾向にあり,さらに職能集団としての力が加わると,領域主義という閉鎖性に変質してくるのです。開かれた職種間連携を体験的に最も理解しているのがリハビリテーション,そしてプライマリ・ケアの現場です。

 人口構成の変化,認知症,フレイル,多疾病併存に代表される高齢者特有の疾病構造の変化,医療・介護保険制度の持続可能性,そして働く世代の減少,次世代の高負担など,医療・介護に関係する多くの課題にわれわれは直面しています。これを解決するシステムとして,「地域包括ケアシステム」の構築が全国的に始まりました。

 地域包括ケアシステムは,地域を基盤とするケアと統合されたケアを二大柱とするものです。地域を基盤とする要点は,コミュニティ・エンパワメントに尽きます。では,私たちの働く病院や診療所,医師や看護師が勤務するその他の施設ではどうでしょうか。専門職は専門的知識を組織全体に広めているでしょうか。専門職がその力量をどのようにして組織内で広めていくかが求められています。それは,組織内エンパワメントとも言えます。「サルコペニア」という切り口での組織内エンパワメントが住民まで拡大していけば,サルコペニアはコミュニティ共有の課題になり,予防にもつながります。

 本書『サルコペニアを防ぐ! 看護師によるリハビリテーション栄養』は,サルコペニアの問題を医療および介護のシステム全体として解決すべきだと考えて全国的な啓蒙活動を続け,国際的にも評価されている若林秀隆医師をはじめ多くの専門家が,看護師による栄養管理の重要性を確信して書いたものです。多くの医療職がサルコペニアへの理解を深め,自分たちの役割を本書によって確認していただき,その重要性を看護職から介護やその他の多くの職種,そして患者さんやそのご家族に広めていただければ幸いです。

A5・頁244 定価:本体2,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03225-4

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