腸内細菌叢と循環器疾患の関連
冠動脈疾患発症予測と動脈硬化予防への期待
寄稿 山下智也
2018.12.24 週刊医学界新聞(通常号):第3303号より
腸内細菌叢とさまざまな疾患との関連が明らかにされており,循環器疾患においても,その発症予測法への応用や治療標的として注目されている。腸内細菌は主に代謝と免疫への影響を介した生体作用により宿主(ヒト)のホメオスタシス維持に関与し,さらに疾患発症にも関連すると考えられている。
循環器領域で最も有名な腸内細菌関連研究は,コリンやL-カルニチンの腸内細菌関連代謝物であるトリメチルアミン-N-オキシド(trimethylamine N-oxide;TMAO)に関するものである。卵,チーズ,エビ,肉などに含まれるコリンやL-カルニチンは腸内細菌の酵素によってトリメチルアミン(trimethylamine;TMA)となる。TMAは腸管から吸収され,ヒトの肝臓の酵素によって代謝されてTMAOとなる(図1)。臨床研究で,TMAOの血中濃度が高いほど心血管イベントの発症が多いことや,心不全の予後が悪いことが示されている1, 2)。TMAOは,動脈硬化巣における脂質成分蓄積に重要なマクロファージの泡沫化を増加させることと末梢から肝臓へのコレステロール逆転送系を抑制することで動脈硬化の形成を促進する。さらに血小板凝集能を亢進させることにより動脈硬化粥腫破綻の際の血栓性閉塞の可能性を上昇させ,心血管イベント増加に関与する。すなわち,腸内細菌が代謝物の産生を介して動脈硬化の悪化に関与することが示され,逆に腸内細菌叢への介入が動脈硬化性疾患の予防戦略になり得ることを示唆している。
ヒトの腸内細菌叢を糞便の優位菌によって3種類(enterotypeと言われる3型)に分類できるという報告がある3)。Bacteroides属が優位なenterotype I,Prevotella属が優位なenterotype II,Ruminococcus属が優位なenterotype IIIだ。その後の報告では,必ずしもこの分類で全てが処理できるわけではなさそうだが,このような分類が完成すると,健常人と患者の腸内細菌叢の差異を比較検討する臨床研究が容易になる。われわれの研究では,冠動脈疾患患者でenterotype IIIが多いことがわかり(図2A),脳梗塞・頸動脈狭窄の患者でも同じ傾向が示されている。
われわれは,循環器内科病棟に入院した冠動脈疾患患者にご協力いただき,糞便の細菌叢のタイプをT-RFLP(terminal-restriction fragment length polymorphism)法という簡易な腸内細菌叢解析方法にて調査し
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山下 智也(やました・ともや)氏 神戸大学大学院医学研究科内科学講座循環器内科学分野准教授
1993年神戸大医学部卒。2000年同大大学院修了 (医学博士)。米カリフォルニア大サンディエゴ校留学などを経て,14年より現職。循環器専門医・総合内科専門医。若手医師と一緒に,循環器疾患の診療と基礎・臨床研究を行っている。
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