医学界新聞

2018.11.19



Medical Library 書評・新刊案内


上肢運動器疾患のリハビリテーション[Web動画付]
関節機能解剖学に基づく治療理論とアプローチ

中図 健 著

《評者》深谷 直美(藤田医大ばんたね病院 リハビリテーション部門・作業療法士)

日々の臨床に寄り添う「実践できる」実践書

 「わかりやすい・おもしろい・実践できる」。単純な感想を述べるなら,この三つに集約されます。

 本書では,上肢運動器疾患に対するリハビリテーション治療の組み立てかたを理解し,62本もの動画でセラピストの治療技術を学べます。学生時代から運動器疾患のリハビリテーションに興味を示し日々患者さんに向き合ってきた著者である中図健先生の知識と経験をもとに,セラピストが知りたいことを丁寧に説明しています。日々の臨床に寄り添ってくれる技術書であると思います。何よりも動画で繰り返し確認できることがありがたく,臨床力が向上することは確実でしょう。

 前半は「各疾患の治療方針の立てかた」,後半は「関節・軟部組織に対する治療法」で構成されています。各疾患は,頚椎,肩関節,肘関節,前腕,手関節,指関節に分けてまとめてあり,頚椎症性脊髄症,橈骨遠位端骨折などのよく経験する疾患が挙げられています。各疾患に対し「治療プログラム」と題したリハビリテーションの治療方針の立てかたと治療順序が解説されています。後半の治療法の章では,頭頚部,体幹に始まり上肢各部位の解剖学的な特徴と具体的な治療方法について疾患に合わせた形で学べます。随所に挿入されている関節の構造や病態,整形外科的治療法などの図が理解を助けてくれます。

 疾患の説明は簡潔であるものの,拘縮や筋機能不全などの運動障害が生じる理由については,介入すべき問題が理解しやすいように丁寧に書かれています。疾患と関節機能解剖とアプローチが結び付いていくので「わかりやすく,おもしろい」と思えます。とはいえ,解剖や運動器疾患に詳しくない場合にはやや難解な部分もあるため,他の解剖学書や,著者が編集された前著『上肢運動器疾患の診かた・考えかた――関節機能解剖学的リハビリテーション・アプローチ』(医学書院,2011年)なども読むとより理解しやすくなるでしょう。

 動画の中には,著者が解説しながら骨や筋を身体上に描画していくものもあったので,見ながら実施したところ,自身でもかなり確実に触診できました。治療場面の動画でも,セラピストが手を添える部分や対象者の身体の動かしかたがわかりやすく,「実践できる」と感じながら試してみると本当に実践できました。62本の動画1つずつは数分~10分程度に編集されていて気軽に視聴できます。

 実践のためにもっと勉強したい! と求めているセラピストにぜひ見てもらいたい内容です。機能解剖学や生理学を復習しながら読み進めれば,患者さんの状態を今まで以上に理解できるようになり,治療へとつなげられる一冊だと思います。

B5・頁160 定価:本体4,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03453-1


《ジェネラリストBOOKS》
外来でよく診る
病気スレスレな症例への生活処方箋
エビデンスとバリューに基づく対応策

浦島 充佳 著

《評者》大谷 泰夫(神奈川県立保健福祉大理事長)

人生100年時代を見据えた新時代の医療

 これまでは人間の健康状態を健康か病気かという二分法で区分して対処してきた。しかし,その両者は連続した変化の中で存在している。特に生活習慣病の分野では,人はある日突然病気に陥るのではなく,予兆段階を経て発症し,重篤化していく。こうした流れを念頭に置いて,従来型の健康観とは異なった,個人の自立的意思や予防・回復努力を重視した新しい健康観「未病」が提唱されている。

 本書でいう「グレーな症例」への対応策は,まさしくこの未病的な健康観に符合するものと思われる。これはわが国で通例行われている医療スタイル,すなわち公的医療保険が想定する医薬品や手術に依拠する典型的な治療方法に一石を投じる新時代のスタイルである。治療の手段として,運動や食事療法を重要な選択肢に加えた「生活処方箋」という考え方は,健康寿命の延伸をめざす人生100年時代という人生の健康サイクルに目を向けた注目すべき方法論である。

 こうした治療方針に際しては,これまではエビデンスという側面からの不安や不信がつきまといがちであったが,本書においては医学的根拠に基づく治療の実例とアドバイスが,個別の症例に即して具体的かつ豊富に展開されていることが画期的である。

 今後の医療現場において,本書の提唱する新時代の医療に理解と共感が広がることを心から期待する。

A5・頁212 定価:本体3,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03593-4


《視能学エキスパート》
視能訓練学

公益社団法人 日本視能訓練士協会 シリーズ監修
若山 暁美,長谷部 佳世子,松本 富美子,保沢 こずえ,梅田 千賀子 編

《評者》仁科 幸子(国立成育医療研究センター眼科)

症例を数多く挙げて具体的に解説

 本書は視能学エキスパートシリーズの一冊として出版された,日本視能訓練士協会による視能訓練士のための実用書である。検査や光学・眼鏡に関する書籍は多数出版されているので,「視能訓練」にスポットを当てた本書はシリーズの最高峰として編集されたものに相違ない。

 小児眼科や弱視斜視を専門とする眼科医にとって,日々の診療に視能訓練士による詳細かつ的確な検査が不可欠である。われわれの施設では,一人ひとりの患児がよりよい視力と両眼視機能を獲得し維持していけるように,手術治療や訓練について医師同士,視能訓練士共に意見を交わして進めていくのが常である。しかし眼科診療の多くの場では,理想的な環境で診療に従事できる者は少なく,医師は外来や手術に,視能訓練士は新しいさまざまな検査に追われ,視能訓練について十分に検討できる時間を持てないのではないか。本書をひもとくことによって,視能訓練士のみならず眼科医も,初心に戻って視能訓練の分野を学び,実践的な知識を得ることが可能であると思う。もちろん,弱視斜視の指導者がいない施設の視能訓練士にとっては,検査や訓練の方法について症例を数多く挙げて具体的に解説している本書が大変に役立つこと...

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