医学界新聞

寄稿

2018.11.05



【FAQ】

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

今回のテーマ
てんかん学を効率的に勉強するには?

【今回の回答者】兼本 浩祐(愛知医科大学精神科学講座教授)


 てんかんや認知症のようなcommon diseaseは,さまざまな医師や関係者がさまざまな立ち位置で,自分のできる範囲で疾患にかかわる必要がある。そのため,診療に必要な情報量は人によって大きく違ってくると思われる。てんかんであれば,新生児,乳幼児,学童 ,成人,高齢者で必要な情報は大きく違う。例えば,NICUで必要なてんかんの知識と高齢者診療で求められるてんかんの知識はほとんどオーバーラップしないだろうし,脳神経外科医が必要とする知識と精神科医にとってミニマムな知識にも大きな違いがあると思われる。 そうなると,それぞれの医師,関係者にとってオーダーメイドな学習法が必要となる。立ち位置による学習法について,よくある質問への解説を試みた。


■FAQ1

てんかん診療を専門に行うのは難しい環境です。てんかんが疑われる患者を前にしたとき,てんかん診療の経験が少ない医師でも最低限行うべきことは何でしょうか?

 急がば回れであるが,重要な第一歩は,自分が治療しようと思っている状態が本当にてんかんかどうかを立ち止まって考えることだろう。この質問者の場合,けいれんしている患者を診療する状況が一番考えられる。けいれんしない発作はすぐに対処を迫られることは少ない。そうであればより知識を持った誰かのアドバイスを聞く余裕があるはずである。

 急に転倒し,その後に短く何秒かけいれんする場合,失神発作の除外診断は最低限必要だろう。てんかんの場合,発作中は開眼している例が多いのに対し,てんかんでない失神発作では,多くはほぼ閉眼しているが,よく見るとうっすらと開眼していることもまれではない。

 もっぱら,最初の症状が立位からの転倒である場合,循環器医に依頼して心原性失神の除外診断を済ませておくのは必須である。てんかんよりも心原性の発作のほうが,緊急度が上だからである。心因性の発作も治療を開始する前に除外診断する必要があるが,症状が多様で初心者には鑑別が難しい。また,すぐには生命に直結しないので心原性失神よりも優先度は落ちる。

 てんかんの治療には,発作型によらず有効性があり,しかも重篤な副作用が少ないレベチラセタムが汎用される傾向にあり,それはそれで間違っていないと思われる。しかし,一番大事なのは,「症状がてんかんかどうかには確信は持てないが,次の発作時に受傷する可能性もあるから,とりあえず処方をするのが安全と考える」と今の状況を率直に患者・家族に告げることだろう。しかし,てんかんの診断の重さを考えると,当座の処置はそれで良いとしてやはり可及的速やかに専門医の受診を勧めるべきであろう。

Answer…失神様の発作に遭遇した場合,生命に直結する心原性失神の除外診断は必須です。そうでなくとも,可及的速やかに専門医の受診を勧めます。

■FAQ2

てんかん患者を自分で担当できる程度に本格的に学びたいです。しかし,勉強時間が限られています。

 てんかんを本格的に,しかしミニマムに勉強するにはどうすれば良いか。具体的なステップを考えてみたい。①最低限の用語の理解,②「4大分類プラス2」の理解,③脳波を読むミニマムの能力,④それぞれの立ち位置による,症候群への最低限の習熟の4つが必要だろう。①と②がてんかん学への参入の準備,③と④は実践編になる。学習の所要時間は,①~④の全行程でおよそ3~4時間であろうか。

 学習は実際の臨床例から始めるのが近道である。症例に当たったときに,①と②からてんかん学全体におけるその症例の位置付けを習得し,実臨床的にはその事例に必要な脳波所見(③)と,特徴的な臨床症状,それに対応する治療(④)を調べるという手順になろう。

 このようにして5~6症例を体験すれば,「ミニマムてんかん学」はすでに習得されている。最初の1事例は3~4時間の学習が必要だと思われるが,次の事例からは30分~1時間程度でおおよそ大丈夫と言えよう。「ミニマムてんかん学」への道は決して険しくはない。

Answer…3~4時間の勉強と,5~6症例の経験で最低限の診療に必要な「ミニマムてんかん学」は身につきます。

■FAQ3

では,「ミニマムてんかん学」の①と②で必ず知っておくべき内容の範囲を教えてください。

①最低限の用語の理解 ...

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