MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2018.10.01
Medical Library 書評・新刊案内
洛和会音羽病院 救命救急センター・京都ER 編
宮前 伸啓 責任編集
荒 隆紀 執筆
《評者》草場 鉄周(北海道家庭医療学センター理事長)
素早く的確な対応が必要な病態を網羅
大都市の総合病院の救急外来はもちろんのこと,中小病院の外来さらには病棟での急変対応,また,郡部やへき地の診療所において遭遇する準救急的な健康問題など,われわれプライマリ・ケアに携わる医師は多様な健康問題に対し,病歴,身体診察,簡単な検査で対応する基礎体力を身につける必要がある。評者も,患者でごった返す総合病院の救急外来を一人でさばく経験,北海道の郡部で救急搬送される患者に一人で対応する経験,訪問診療を行う在宅患者に想定外の急変があり慌てて往診する経験などを持ち,これまで数多くの救急に対応してきた。大事なのは,救急対応において一定のパターンを体得しつつ,例外的状況に対する鋭敏な感覚を養うことだと思う。そのために,経験ある指導医から学ぶことの価値は計り知れないが,そうした指導医が在籍する医療機関はそう多くないのが現実である。
ショック,喀血,頭痛,陰囊痛,高Ca血症,創傷処置,皮膚疾患への外用,肘内障の整復……。多彩かつ素早く的確な対応が必要な病態が広く網羅されている本書を手に取ると,その簡潔ながらも要点をしっかり押さえた内容が印象的である。特に「はじめの5分でやることリスト」は,次から次へと受診するER外来でオリエンテーションをつけるための一助となり,「検査」「鑑別診断」と一歩深めた評価がわかりやすい図表で示される。そして,「Q&A」では「そう,そこがいつも悩ましいところだよな」と感じる論点が詳しく説明されており爽快さを覚える。音羽病院という北米型ERのメッカで培われた指導医の知識と技術がふんだんに網羅された本書をポケットに入れて診療に臨めば,診療に臨む不安のかなりが解消されるだろう。あたかも,すぐそばに熟練の指導医が付き添ってくれているような感を覚える。
本書は,初期研修医を主たる読者と想定しつつも,臨床実習に臨む医学生,総合内科や総合診療の専門研修を受ける専攻医,そして日々診療に当たるベテラン医師にとってもすぐに役立つマニュアルである。日本全国津々浦々で日々救急診療に取り組む医療者にとって,本書がかけがえのない友となることを期待する。
A6・頁416 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03454-8
福嶋 敬宜,二村 聡 執筆
《評者》真口 宏介(手稲渓仁会病院教育研究センター顧問/亀田総合病院消化器内科顧問)
臨床医に役立つ手元に置きたい一冊
臨床現場において「病変の質的診断」は治療方針の決定に直結するため極めて重要である。特に,消化管,肝胆膵領域では悪性病変の頻度が低くなく,常にがんを念頭に置いて鑑別診断していく必要がある一方,がん以外の腫瘍や良性病変も存在するため慎重な診断が求められる。質的診断は画像診断と生検や細胞診などの病理診断の両者によって行われるが,ここに「落とし穴」があることを知っておく必要がある。臨床側では生検や細胞診の検体を病理に提出さえすれば確定診断が得られると考えている「勘違い」の医師が多いが,種々の理由によるサンプリングエラーがあること,肝生検やEUS-FNAの場合には腫瘍細胞の播種の危険性があることも忘れてはならない。片や,病理側では病理医の中でも専門性に差があること,HE染色だけでは確定診断ができない病変があること,病理判定の中にもグレーゾーンがあること,そしていまだわかっていない病態や病変も存在する。この「落とし穴」を埋めるために臨床医も病理を学ぶ必要があり,かつ病理医との連携を深めることが重要となる。
『臨床に活かす病理診断学―消化管・肝胆膵編 第3版』が医学書院から出版された。本書には,病理医だけではなく,臨床医が知っておくべき内容が満載である。入門編,基礎編,応用編で構成されており初学者にも理解しやすい。中でも入門編の「Q&A」,基礎編の「特殊染色の基礎知識」,見返しの「使用頻度の高い組織化学染色」は臨床医,研修医に大いに役立つ。「抗体早見表」や資料編として「病理診断関連用語160」も読者にはありがたい。
執筆者の福嶋敬宜先生とは日本消化器画像診断研究会にて知り合った。本研究会には,肝胆膵を専門とする消化器内科医,外科医,放射線科医,病理医が一堂に集まり,一例報告を数十例にわたり議論し,いかに「臨床医と病理医との連携」が大切であるかを学んでいる。本書はそこに参加されている病理医の福嶋先生だからこその一冊であり,「臨床の現場に病理の情報をしっかり伝え,それを診療に十分に活用してほしい」との思いが込められている。
臨床現場での画像診断は病理のマクロ像をイメージして行うものであり,マクロを知らずして画像診断は行い得ない。そしてマクロはミクロ像が集まって作られるものである(入門編のCoffee Breakに記載されていた)。臨床医は,少なくとも主な腫瘍のマクロ像と病理学的特徴をしっかりと学んだ上で画像診断を行う必要があり,「検体を病理に提出すれば診断を付けてくれるとの勘違い」に終止符を打つべきである。検体を採取する前にどのような診断をしたのか,どの部位からどのように検体を採取したのか,それらの情報を正しく病理医に伝えることが重要であり,「より正確な診断と適切な治療方針の決定」につながることを肝に銘じてほしい。本書は,まさに「臨床に活かせる」病理診断学の解説書であり,臨床医に大いに役立つまさに「手元に置きたい一冊」である。
B5・頁280 定価:本体8,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03553-8
《標準理学療法学・作業療法学・言語聴覚障害学 別巻》
がんのリハビリテーション
辻 哲也 編
高倉 保幸,髙島 千敬,安藤 牧子 編集協力
《評者》中村 春基(日本作業療法士協会会長)
豊富な臨床経験から培われた実践的な入門書
「がんのリハビリテーション」の入門書が,辻哲也氏ご編集のもと医学書院から発刊された。本書の序で辻氏は,わが国では,国民の2人に1人は生涯のうちにがんに罹患し3人に1人はがんで死亡する一方,がん経験者(サバイバー)は現在の約500万人から,今後,1年で60万人ずつ増え,「不治の病」であった時代から「がんと共存」する時代になったと述べている。国を挙げてがん対策が進められているゆえんであり,そこにはリハビリテーションの必要性があると思う。続いて辻氏は,「がんのリハビリテーション」には,がん医療全般の知識が必要とされると同時に,周術期,化学療法・放射線療法中・後の対応,骨転移,摂食嚥下障害,コミュニケーション障害,リンパ浮腫,緩和ケア,心のケアなど高度な専門性が要求されることを示し,高い専門知識と多職種協働の必要性を説いている。このようにがんのリハビリテーションが必要とされる現在にあって,わが国においては「がんのリハビリテーション」を学ぶための実践的な入門書がほとんどなかった。
本書は入門書として,EBMに配慮しつつ,執筆者の豊富な臨床経験から培われた内容が盛り込まれており,多職種協働を前提として,がんのリハビリテーションに関する基本的な医学的知識,各専門職の取り組みを具体的に紹介した内容となっている。学生においては臨床実習前に,また,臨床においては,がん患者と接する前にまず読むべき本であるといえる。
全体は7章からなる。第1章のがんのリハビリテーション概論に始まり,第2章からは,周術期リハビリテーション,化学療法・放射線療法,摂食嚥下障害,リンパ浮腫,と疾患や病態ごとに治療とリハビリテーションの実際について述べており,第6章では緩和ケアが主体となる時期,第7章では心のケアとリハビリテーションまでをも取り上げている。
全体を通して,基本的な内容とともに図表の用いかたが的確で実に的を射ており,紹介されている評価やプログラムは各職種間の共通事項として活用できると思う。加えて,乳がんや脳腫瘍,頸部リンパ節郭清術など要所要所の項目に症例とポイントが紹介されており,本文の理解と各章間の知識の統合を助けている。各節の冒頭には,「Essence」としてその節の概要が示され,巻末のCheck Sheetでは,章ごとに重要ポイントについての中抜き問題が設けられており,読者自身により理解の度合いを確認できるようになっている。
本書の読者への配慮をあと2つ紹介したい。1つ目は,Advanced Studyである。「最大心拍数を予測するGellishの式」「1日1万歩の根拠」など15項目を取り上げ,理解を深められるようになっている。2つ目がTopicsであり,「ICU-AW」「ICU-ASD」「CRF」「嗅覚リハビリテーション」など,近年の治療や制度など17項目を解説し,理解の幅を広げられるようになっている。
冒頭に述べたようにがんのリハビリテーションは国策である。ぜひとも多くの養成校で活用されることを願っている。また臨床においては,本書ががん医療の質の向上に貢献し,がん患者のQOL向上の一助となることを祈念している。
B5・頁272 定価:本体4,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03440-1
大野 義一朗 著
《評者》武井 弥生(上智大准教授・産婦人科学)
満足のいく手術のために,研ぎ澄まされた手技を共有する
筆者の大野義一朗先生は30年有余(南極勤務時代を含め)の経験ある外科医である。手術室に新たに配属された看護師が,一つひとつの手技や手術の流れ,執刀医の胸の内を理解してタイミングよく器械出しを行い,手術が安全で成功裏に終了することを願って書かれた本である。手技・手順の丁寧な説明に加え,外科医自身も判断に迷う場面があることが正直に記されている。
手順がまだのみ込めないまま手渡した器械に執刀医が怒鳴り,そのまま萎縮して部署替えしてしまった駆け出し看護師が,かつて評者の教え子にいた。手術前日には必ず図書館で担当患者の疾患を下調べしていた真面目な彼女がこの本に出合っていたら,今頃は器械出しを楽しめる有能な看護師になっていたのでは,と思う。
本書の特色を述べる。第一に,表紙から最後のページまで,目に飛び込む多色イラストが秀逸である。シンプルで解剖がわかりやすい。術野の臓器が,濃淡を付けて彩られている。腸管の微妙なベージュ,大腸の色合いは小腸のそれよりやや濃く,盲腸は青みがかかっている。緑色の胆囊の表面には無影灯が光る。また,手術は手の技だけに,電気メスを持つ手ばかりでなく腸管や大網などの臓器を把持する手が随所に書き込まれ,その手や指の曲げ具合から,強すぎも弱すぎもない微妙な力の入れ具合が感じ取られる。見やすいイラストは絵本のようでもあり,駆け出しの看護師ばかりか,患者さんへの手術説明にも役立つであろう。著者のこだわりとそれに応えたイラストレーターの合作のアートである。
次に,イラストと同様,各術式の構成が見やすく簡潔である。虫垂切除術では,開腹と内視鏡下の手技が並行して記載され比較が容易になっている。説明文はほとんどが数行であるが,中には息詰まるような一瞬一瞬が丁寧に記載されている箇所もある。修羅場をくぐり抜けてきた外科医の研ぎ澄まされた手技がつづられる。手術書といってもよいくらいだ。しかし筆者はそれを看護師が共有し,その協力によって満足のいく手術へ完成させることを願う。
手順の項に入る前には,該当臓器の解剖や生理が説明され,他の教科書をひもとく必要はほとんどない。アンダーラインが配されている箇所は肝で,術者たちがそれまでの無駄口をぴたりとやめる時である。Q&Aには,今さら聞けない,術中当たり前に飛び交う用語や器械について丁寧に回答し,看護師の緊張を解いてくれる。
その他にも,随所にわかりやすい表現がちりばめられている。「白く光る筋膜」,「(精索動静脈が)地下鉄が地上に出てくるように……」。さらに横行結腸の可動性を,二人の小学生(上行結腸と下行結腸)が立って回している縄に例えるイラストなどはかわいらしい。「むずかしいことをやさしく,やさしいことをふかく」である。
チームのレベルを同等に引き上げ,そして難問に立ち向かう,彼の学生時代の行動と変わってないのだと懐かしく,そして敬意を感じる(評者は大野先生と大学の同窓である)。
手術室看護師はいうに及ばず,病棟看護師,外科系研修医,外科患者の内科系主治医もが担当患者の手術を把握し,術後のフォローアップの理解のためにも,十分活用できる力作である。
B5・頁128 定価:本体2,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02200-2
金子 唯史 著
《評者》新保 松雄(新華康复医院・非常勤/元・順大順天堂医院・理学療法士)
PT/OT領域の日々の臨床に生かせる動作分析実践書
本書は,①人の主要な機能的運動・動作が持つ意味について豊富な文献引用をもとに述べ,②解剖学的・神経学的構成要素から,それらの運動や動作が臨床で役立つように導き,そして,③著者の臨床的エビデンスを交えつつ脳卒中片麻痺患者を代表例として解説を施しています。もちろんそれは,運動障害を伴う多くの疾患に応用され得るものです。
動きを著すというのは本当に難しい上,人の動きは一人ひとり違うために一般化して書くことは困難な作業になります。本書はその難しさに対し,運動・動作をいくつかの相に分解し,それぞれの相における重要な構成要素を解説することで対応しています。本書の構成を見ると,何よりも患者さんへのセラピーに際して役立つことを第一の目的とし,そして豊富な文献を紹介することでセラピストとしての専門性を高めていこうとする著者の思いが読み取れます。
近年ほど「臨床推論能力」と「セラピー実践能力」がリハビリテーション専門職種に求められている時代はありません。患者さんから寄せられる大きな期待は,現実に抱えている問題の解決に向けた援助です。機器,器具,家屋改造も重要ですが,患者さんのImpairmentレベルでの回復・改善を達成することが何よりも大切なことといえるでしょう。
本書は日々の臨床に生かせる書物です。解剖学と神経生理学の基礎知識は私たちセラピストに必須のものですが,その意味でも本書の内容は教育現場での教科書としても十分に価値あるものになっています。また,理学療法領域だけでなく,作業療法領域にも活用範囲が広いように思います。さらには,リハビリテーションを専門としている医師にとっても,運動療法に対する理解と見識を高めるための参考書となり得るでしょう。
人が効率的に運動や動作を遂行するためには姿勢コントロールの働きが欠かせません。人は二足直立・歩行,手の使用,そして言語の獲得と発達によって神経システムを高度に組織化しました。このような観点からも,人における二足直立・歩行動作を理解することは,他の運動や動作を分析する際にも必要不可欠といえます。その意味で,「歩行」の章を読んでから他の章を読み進めてみると,人の運動や動作分析の理解に大きく役立つのではないかと思われます。
本書は単に読むだけではなく,実際に健常者,さらには患者さんの運動・動作分析を実践することで初めて,真の価値を発揮するものといえるのではないかと思います。それは私たちセラピストが介入することで,患者さんの感覚・知覚・認知レベルに影響を与え,さらに,感覚導入を適切に行うことこそが患者さんの運動行動を変化させる刺激情報になるからです。
B5・頁268 定価:本体4,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03531-6
森山 寛 監修
岸本 誠司,村上 信五,春名 眞一 編
《評者》夜陣 紘治(三原赤十字病院耳鼻咽喉科/広島大名誉教授)
世紀をまたいだ待望の改訂版
『耳鼻咽喉・頭頸部手術アトラス』の上巻(耳科,鼻科と関連領域)の第2版が,上梓された。本書の初版は1999年に刊行され,今でも多くの耳鼻咽喉科・頭頸部外科医にとって欠かせない手術書として読まれている。しかし,日進月歩の手術法,手術支援機器などの目覚ましい進歩に伴い,改訂された手術書が待ち望まれていたところである。このたび,監修者の森山寛先生,編者の岸本誠司先生,村上信五先生,春名眞一先生の手により,19年をかけてようやく改訂版が刊行された。世紀をまたにかけた待望の手術書である。
初刊の序で小松崎篤先生は,手術解剖や手術の実際を理解しやすく模式図化し,術前の準備の重要性や手術のポイントを強調すること,インフォームドコンセントに配慮し,新しい分野をできるだけ取り上げることを基本方針として監修したと述べられているが,第2版では,この点を踏襲しつつ,一層充実した手術書となっている。
まず目につくのは2色刷となっていることであり,模式図を眺めているだけで手術の実際をより鮮明にイメージできるようになっている。また,模式図が一人のイラストレーターの手により描かれているので,筆致が統一され,目に優しく,より立体的となり,手術の流れがスムーズに理解できるのも特徴である。
執筆者は,各項目の内容に精通されている第一人者の方々ばかりであり,蓄積されたノウハウ,初心者に知ってもらいたいこと,陥りやすい点などが,本文のみならずインフォームドコンセント,手術のポイント,手術のピットフォールとして余すところなく披歴されている。
内容的には,手術のための画像診断が豊富に取り上げられているし,チタン製人工耳小骨,パワーパンチ,ハイドロデブリッダー,バルーンカテーテル,各種凝固装置など新しい支援機器などを用いての手術法や,耳管開放症に対する手術,埋め込み型骨導補聴器(BAHA)挿入術など新しい手術法もわかりやすく解説されている。鼻科学ではいずれの項目においても,内視鏡下手術法が丁寧に紹介されているのも,改訂になった手術書を特徴付けている。
本書第2版の本文の総ページ数は411ページと,初版の394ページをわずかに超える程度に抑えられているが,いかに充実した内容を過不足なく,簡潔に解説するかに意を注がれているかが,おわかりいただけると思う。
初学者にはもちろんであるが,現役で多くの手術を手掛けている先生方の座右の手術書としても役立つのは間違いないものと確信している。
A4・頁432 定価:本体37,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02105-0
河合 忠 監修
山田 俊幸,本田 孝行 編
《評者》佐藤 尚武(順天堂東京江東高齢者医療センター臨床検査科長)
新たな魅力が加わり一層利用しやすく
『異常値の出るメカニズム 第7版』が刊行された。本書は1985年に初版が出版されて以来,30年以上にわたって版を重ねている臨床検査医学領域の名著である。一度は目にしたことのある医療関係者も多いのではないだろうか。
私は初版以来全ての版に目を通しているが,今回はこれまでで最も大きな変更があった。まず,初版からの編著者であった河合忠先生(自治医大名誉教授)が監修に回り,山田俊幸先生(自治医大教授)と本田孝行先生(信州大教授)による編集になった点である。また,本書の英文名がLaboratory MedicineからKawai's Laboratory Medicineに変更された。本田先生は今回から編者に加わっているが,実は第6版の書評を書いておられ,私はそれを読んだ覚えがある。そこには,信州大でReversed Clinicopathological Conference(R-CPC)を実施するに当たり,『異常値の出るメカニズム』を10回以上精読したと書かれていた。本田先生自身が本書の愛読者だったわけである。
次の変更点は本の厚さである。本書は初版以来,版を重ねる度に徐々に厚くなってきていたが,今回初めて少々薄くなった。実際,第6版は500ページに迫るページ数だったが,第7版は300ページほどになっている。この変化は内容にも反映されており,各章が「総論」「基本検査」「基本検査に準ずる検査」で構成されるようになった(9,11,14~17章を除く)。そして内容がかなりそぎ落とされ,読みやすくなっている。また,基本的検査を中心に解説するという本書のコンセプトが明確になった。
三番目は表紙をはじめ,全体がカラフルになったことである。以前から多色の図表が数多く用いられていたが,今回は色の種類が格段に増え,大変きれいにかつ一見して理解しやすくなっている。本書の特長であった河合先生の原図は,今回も多くが踏襲されているが,新たな図も多数追加されている。
四番目は,いきなり末梢血液一般検査から章立てが始まっており,総論に当たる検査値の見方は最終の17章に移動している点である。尿や便,穿刺液など,血液以外の材料を検体とする検査も後方に移動した。血液検査を,末梢血液一般検査と凝固線溶検査に分けるといった変更も行われている。
全体がスリムになったとはいえ,新たな内容も追加されている。いくつか例を挙げると,感染症の検査では質量分析法による同定や,髄液培養におけるグラム染色による原因菌推定のフローチャートが追加されている。遺伝子検査は一新され,具体的で詳しい内容になっている。総論(17章 検査値の見方)では,共用基準範囲が収載された。
今回の第7版は,これまで本書が有していた価値を損なうことなく,新たな魅力を付加し,かつ利用しやすくなっている。これまでの版以上に多くの読者に愛読され,これにより臨床検査(検体検査)がより有効に利用されることを期待している。
B5・頁304 定価:本体6,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03240-7
Richard J. Hamilton 原著
舩越 拓,本間 洋輔,関 藍 監訳
《評者》藤谷 茂樹(聖マリアンナ医大教授・救急医学)
手のひらサイズに詰め込まれた驚くべき情報量
タラスコン救急の待望の日本語翻訳本が刊行された。評者はすでに国内でも多くの研修医が使用しているものと思っていた。それぐらい需要の高い書籍である。この監訳にかかわった先生方は,日頃北米式ER方式で,多くの救急車を含む救急患者を診療されており,訳者は,第一線で活躍されている若手救急医からなっている。日本では,北米式ER方式を採用しているところはまだそれほど多くない。昨今の新専門医制度,地域包括ケアで,救急の在り方が変わろうとしている。今回のこの書籍が,このタイミングで出版されたことは,まさに好機が到来したかのようである。
この手のひらほどのポケットブックにこれだけの情報を詰め込めるかというぐらいの驚くべき情報量である。循環器,神経内科,呼吸器科,感染症,外傷,環境障害,中毒のジャンルが比較的多く記載されており,実践的に役に立つ内容が厳選されている。
実際に使用するには,ポケットサイズであるため文字が所狭しと記載されている状況で,どのように上手に活用をするかという疑問が出るかもしれない。実は,評者は,米国の内科レジデントをしていたころに,総合内科&集中治療のタラスコンポケットブックを愛用していたので,その活用方法を説明したい。おそらく米国の学生・研修医も同様に使用しているものと思われる。
この小さなポケットブックは,基本的なことが記載されているが,全てのことがいつも頭の中に入っているわけではない。そのため,「あれ,これってどうだったかな」という疑問は必ず臨床現場では生じる。まず,事前に大きなジャンルがどのようになっているか目次を押さえておき,どこに何が記載されているか,ページを流し読みしてうろ覚え状態にしておく。症例を経験し,また議論になった項目を毎回確認する。時間がない中でカルテ記載,オーダー書き,プレゼンテーションなどが要求されるため,自分のメモなども極細のペンで記載して,スピード重視の反復訓練をするように努める。そもそも,症例の暴露と反復訓練で研修をすることで標準的な診療が確立する国が米国であるので,その需要にとても合致している。例として,NSTEMI(非ST上昇型心筋梗塞),STEMI(ST上昇型心筋梗塞),DKA(糖尿病性ケトアシドーシス),HHS(高浸透圧高血糖症候群)などのコモンな疾患に対して,どのようなオーダーが必要かなどもコンパクトに記載されている。最初は,オーダー出しに関してもおぼつかない研修医も,毎回このポケットブックを見ながらオーダーなどをしていくうちに自然と診療の力が身につき,シニアレジデントに成長をしていく。
文字が小さいといわれるかもしれないが,海外でもこのサイズで多くの学生・研修医が使用しているので,対象をある程度小さな文字にも対応できる世代にすれば,機動力と情報を兼ね備えることができる良書となろう。
最後に,このようにとても実績のある書籍であり,これからER患者を多く診ることのある研修医や診療看護師・特定看護師にはぜひともお薦めの本である。
A6変型・頁308 定価:本体2,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03547-7
いま話題の記事
-
医学界新聞プラス
[第1回]心エコーレポートの見方をざっくり教えてください
『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.04.26
-
PT(プロトロンビン時間)―APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)(佐守友博)
連載 2011.10.10
-
事例で学ぶくすりの落とし穴
[第7回] 薬物血中濃度モニタリングのタイミング連載 2021.01.25
-
寄稿 2016.03.07
-
人工呼吸器の使いかた(2) 初期設定と人工呼吸器モード(大野博司)
連載 2010.11.08
最新の記事
-
対談・座談会 2024.12.10
-
循環器集中治療がもたらす新たな潮流
日本発のエビデンス創出をめざして対談・座談会 2024.12.10
-
対談・座談会 2024.12.10
-
インタビュー 2024.12.10
-
寄稿 2024.12.10
開く
医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。