MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2018.09.10
Medical Library 書評・新刊案内
聖路加国際病院内科チーフレジデント 編
《評者》山中 克郎(諏訪中央病院総合内科/院長補佐)
診療でよく出合うケースを疑似体験しながら学べる
私にとって聖路加国際病院は憧れの病院である。駆け出しの内科医であった頃,聖路加国際病院『内科レジデントマニュアル』を購入し必死になって勉強した。日本最高レベルの愛の心に満ちた医療が行われているという印象をずっと抱いている。
聖路加国際病院内科チーフレジデントの皆さんが,実践力のあるレジデントを育てるために編集した『内科レジデントの鉄則』は2006年に初版が出版された。6年ぶりとなる今回の改訂では,アドバンスドな内容や根拠となる参考文献をより充実させたという。
チーフレジデントは医学知識が豊富なだけでは務まらない。人間的な魅力に溢れ,同僚や後輩の面倒見が良い人だけがチーフレジデントとして選ばれる。診療でよく出合うケースを疑似体験しながら,若手医師が間違えそうなポイントについて,きめ細かいアドバイスを受けられる点がこの本の最大の魅力である。
「当直で呼ばれたら」,「内科緊急入院で呼ばれたら」,「入院患者の管理で困ったら」の3つの章では,救急や入院診療で若手医師が困りそうな症候や疾患にフォーカスが当てられている。
「鉄則」という形で最初に必要最小限の重要ポイントが明示されているのが良い。さらに鉄則が実臨床でどのように役立つのか,治療はどうするのかについても非常に具体的である。わかりやすい図や表がたくさんあることも読者の理解を助ける。
「もっと知りたい」というコラムでは知っていると同僚にちょっと自慢したくなる知識がこっそり書かれている。私も10年前から知っているようなふりをして,研修医たちにウンチクを傾けたくなってくる。
実際の症例からたくさんのことを学ぶという勉強スタイルが私は好きである。有名な教科書を読んでも,実際のケースがイメージできないと記憶にあまり残らない。この本で紹介されている症例は,歴代のチーフレジデントたちが大いに悩んだ経験をもとに構成されているのだろう。
聖路加国際病院で研修していなくとも,研修の内容を知り,そのエッセンスを体得できるのは非常にありがたい。本書の教えを全て記憶する必要なんかない。この本のどこにそれが解説されていたかをおぼろげに覚えてさえいれば,当直や入院患者の対処に困った時,大いに心強いだろう。何度も読み返すことで「怒濤(どとう)の反復」となり記憶に定着する。
さらに指導医にとっても,どのような点に注意して研修医を教えればよいのかという教育法を学べるのはとても心強い。伝統ある聖路加国際病院の医学教育が全国の病院に広がり,そこでも大きな花が開くことを願わずにはいられない。
B5・頁344 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03461-6


帰してはいけない小児外来患者2
子どもの症状別 診断へのアプローチ
東京都立小児総合医療センター 編
本田 雅敬,三浦 大,長谷川 行洋,幡谷 浩史,萩原 佑亮 編集代表
《評者》崎山 弘(崎山小児科院長)
知的に美しく小児科医を育てる本
小児科外来を訪れる患者の多くは自然治癒します。おおむね間違いではない診断を付けて投薬をしながら経過を診れば,医療によって症状が多少早く落ち着くかもしれませんが,多くの場合で治癒に至る道筋を付けたというほどの貢献はしていません。しかし,この本に出てくる疾患は,直ちに確定診断することは難しくても診断が曖昧なままに診療を終わらせてはいけない(帰してはいけない)ものばかりです。病気の診断,特に重篤な疾病の診断を一瞬にして成し遂げられる人はそうはいません。「何かおかしい」「どこか説明が付かない」など紆余曲折しながら診断に至ることが大部分です。前作の『帰してはいけない小児外来患者』では,主訴と所見をどのように結び付けるか,単なるひらめきに終わらせることなく,診断に至る思考の組み立て方を中心に症例の診断経過が記載されていました。第2弾となる本書では,この症状では具体的にどのような点に注意するべきかが丁寧に解説されています。診断の筋は良かったけれど最後の決め手に欠けたという苦い経験に至ることを防ぐ判断力が養われます。この本で類似の書籍との違いとして特筆すべきは,以下の3点です。
まずは東京都立小児総合医療センターならではの豊富な症例と専門家集団の適切な診断に基づいた貴重な教訓,多くの示唆が得られることです。症例のカラー写真,X線写真,超音波画像など,教科書に掲載されてもおかしくない典型的な資料が示されています。多施設から症例を寄せ集める形式での分担執筆の書籍は,個々の著者の癖が出るために読みにくいことがありますが,この本は外来受診から診断までが一連の流れとなって一つの医療機関で完結するために統一感があって読みやすくなっています。
二つ目は,育成する教育という視点が明確になっていることです。「泣き止まない」「嘔吐」「皮疹」など17種類の症状について概略を記載した後にいくつかの症例を示すという流れの中で,総論,各論の実践形式で読み進めることができます。重篤な疾患は,診断に当たり同じ間違いを二度としないと肝に銘じても,同じ疾患に遭遇することがほとんどないようなまれな疾患ばかりです。他人の誤診を指摘してこれを正す教育は,診断要素の一部分を強調するだけで,丁寧に育成する教育とはなりません。初めて経験するまれで重篤な疾患を適切に診断する能力をつけるためには最適の書です。
そして三つ目は,書籍ならではの力です。インターネットで検索すれば疾病の知識を情報として取り出すことは可能です。しかし,見開きのページに効果的に図や表が配置されていて視認性が良いので紙面上の配置とともに文字の情報が頭に素直に入ってきて,理解を助けてくれます。この編集の美しさという感覚はパソコンなどの画面では得られません。
小児科医を育てるという観点からは前作よりはるかに優れており,子どもの診療に携わる医師にぜひお薦めする一冊です。
A5・頁272 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03592-7


洛和会音羽病院 救命救急センター・京都ER 編
宮前 伸啓 責任編集
荒 隆紀 執筆
《評者》池上 徹則(倉敷中央病院救命救急センター救急科主任部長)
上級医の頭の中が言語化された,研修医のバイブル
本書は洛和会音羽病院救命救急センター・京都ERで「バイブル」とされてきた院内向けマニュアルを書籍化したものです。臨床教育病院の雄として名をはせる音羽病院由来のものだけあり,随所に秀逸なエッセンスが詰め込まれています。
まずは冒頭数十ページの「原則編」にお目通しください。多くの医師にとってERという特殊な環境と特別な時間軸の中で診療することは容易ではなく,またその特殊性を研修医の先生方に伝えることも困難ですが,ここでは患者さんの臨床像の変化に対する時間経過とその考え方,救急外来での診療の流れにおける時間とその考え方が非常に明快に記述されています。そして,これら「時間」についての考え方は,以下「検査編」を経て「トリアージで考える 主訴別アプローチ編」では,さらに緊急度を付与して整理されるなど,本書を通して幹のように貫かれています。
また,勤務先が変わった時などにしばしば経験することですが,従来の自身の診療スタンスと,変わった先の医療機関で目の前の患者さんに対峙する際の診療およびその結果における微妙なずれを「自分の置かれた病院のセッティングにも注目すべきである」と説明されている箇所など,多くの臨床医の納得するところでしょう。著者らは「上級医の頭の中を言語化する」ことを目標として執筆に臨んだと記されていますが,その試みの成功が見て取れます。
加えて,総論的に書かれた書籍を忙しい救急外来で有効に使うには索引の充実度が重要になりますが,ここにも十分な配慮がなされ,例えばサ行に「死の下痢」,ハ行に「昼ドラ」など,一見すると「えっ?」というようなキーワードまで盛り込まれています。
「ああ,もう当直の時間がやってくる……」と憂鬱な気持ちで救急外来に向かった経験が執筆の動機であったと,著者の荒隆紀先生は「あとがき」に記されていますが,今日も同じような気持ちでトボトボと救急外来に向かう全国の研修医の先生方のみならず,そんな彼らを指導する立場の先生方にも,お薦めします。
A6・頁416 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03454-8


エキスパートに学ぶ精神科初診面接[Web動画付]
臨床力向上のために
日本精神神経学会 精神療法委員会 編
《評者》田宗 秀隆(東大大学院・神経細胞生物学)
初対面でグッとこころをつかむ“技”を学べる一冊
精神科初診面接で何が行われているのか,興味を持ったことはありませんか。しかし,その専門性は診察室という密室に閉じ込められてきました。1対1でのこころのやりとりを基本とする精神科臨床では,診察室に見学者が入った瞬間,通常の診察の構造とは異なるものになってしまうからです。
日本精神神経学会で満席続きの人気ワークショップ3年分が書籍化された本書では,エキスパートによる初診面接の“技”が惜しみなく披露されています。
第1章は「抑うつ」,第2章は「パニック障害」というコモンな症状に対して,第3章は「家族のみが受診した初診面接」という発展的な題材を用いて,3×3人のエキスパートの初診面接が逐語録されています。丁寧な解説とまとめ(総括)によって理解が深まることでしょう。
購入者特典として付録されたWeb動画がまた秀逸です。臨床経験の豊富な心理士による模擬患者の自然な演技のおかげで,診察医の「間の取り方」や相づち,声色などの非言語的スキルが,存分に伝わってきました。
ただ,若手や経験の浅い医師が全く同じ言葉遣い・所作をしたら,不適切な場面もあり得そうです。例えば,患者さんにあえて“タメ口”を使うタイミングは,十分に意識されるべきだと感じました。
「はじめに――精神科における初診面接とは」で述べられている通り,精神科初診面接の2つの課題である「診断/見立て」と「関係構築」は,別々の過程ではなく,有機的に結び付いています。特に精神科臨床では,関係構築自体に困難を抱えている患者さんも多く,その関係構築の困難さは診察室で再現されることも少なくありません。
一方,医師自身の「関係構築」の在り方を振り返ってみましょう。医師という立場で“職業的に”行う手技・行動獲得に比べ,日常...
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