MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2018.09.03
Medical Library 書評・新刊案内
認知症イメージングテキスト
画像と病理から見た疾患のメカニズム
冨本 秀和,松田 博史,羽生 春夫,吉田 眞理 編
《評者》池田 学(阪大教授・精神医学)
画像と病理の関係を視覚的に理解できるユニークな一冊
近年の進歩が著しく,出版が相次いでいる認知症の神経画像に関するテキストと思い込んで,この本を手に取った。しかし,良い意味で期待は全く裏切られた。図譜の半数は美しい神経病理に関するものであり,さらには各疾患の病態仮説や最新の臨床診断基準が丁寧に盛り込まれている。まさに,副題の「画像と病理から見た疾患のメカニズム」に沿った内容となっている。
序文にあるように,本書の出発点は,技術の進展とともに近年とみに距離が近くなりつつある神経画像と神経病理の関連を視覚的に理解できるようにしたいという編者の慧眼にある。わが国を代表する4人の神経画像と神経病理のエキスパートの協働により,このようなユニークなテキストブックが誕生したことを喜びたい。
本書はまず,海馬,前脳基底部といった認知症や高次脳機能障害における最も重要な神経基盤について,MRI上の位置関係を画像と図譜を対比させながら丁寧に解説している。これから認知症臨床や研究を開始しようとしている初学者にとって,極めて有用な内容となっている。さらに,MRI SWI像やMIBG心臓交感神経シンチグラフィ,ドパミントランスポーターSPECTなど日常診療でも頻用され始めた新しい神経画像についての考え方,利用法と限界が丁寧に解説されていて,認知症の日常臨床に直ちに役立つ内容となっている。
神経病理に関しては,アミロイドβ,タウ,TDP-43,αシヌクレインなど主要な認知症の異常蓄積タンパクが美しい写真とともに,組織学的分類や重症度評価,臨床サブタイプとの関連で解説されており,臨床のエキスパートである認知症専門医にとっても,最新の神経病理学的知見を整理する機会になると思われる。
最後に,アルツハイマー病など主要な各認知症の神経病理や分子生物学的知見に基づき病態仮説を紹介し,診断基準や臨床症状の詳細な解説とともに各種の神経画像の特徴的所見を紹介している。臨床医にとっては,遭遇した患者の疾患に合わせて,この最終章から読み込んでいくことも可能であろう。
本書によって神経画像と神経病理を両方向から学ぶことができるようになった恩恵を享受して,読者の認知症の病態理解や臨床診断技術がさらに進展することを期待したい。
B5・頁266 定価:本体9,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03231-5
山下 康行 著
《評者》徳田 安春(群星沖縄臨床研修センター長)
シェーマを見れば一目瞭然 お薦めのリファレンス
診断学において,主要な診断医には,臨床診断医だけでなく,画像診断医や病理診断医も含まれる。いずれのタイプの診断医も,豊富な知識と経験をベースにした,サイエンスとアートの効果的な使い手である。特に,診断困難ケースでは,これら3者の診断エキスパート間の良好なコミュニケーションが正確な診断をタイムリーに行うための必要条件となる。
いずれのタイプの診断医になるにせよ,診断エキスパート間で円滑にコミュニケーションをとるためには,相手方の診断の基本を学習し,そのロジックを理解しておくことが望ましい。例えば,臨床診断医をめざす医師も,画像診断と病理診断の基本を学習しておくことが望ましい。
医学生や研修医の皆さんが,そのような基本部分の学習を行う際には,まず典型例に習熟しておくことを私は勧めている。そんな中,『医学生・研修医のための画像診断リファレンス』が出版された。この本には,押さえておくべき全ての疾患に,最重要ポイント,典型的画像と重要所見のカラフルなシェーマによる図解,そして箇条書きのわかりやすい画像所見解説が記載されている。各疾患で必須の,単純X線,CT,MRI,MRA,エコーなどの画像が網羅されている。臨床と病理サイドとのコミュニケーションを意識した「臨床と病理」もやはり箇条書きでわかりやすくまとめられている。
従来の書籍では,画像の重要所見をテキストで説明されても,どこの何を指しているのかよくわからないことがあったが,本書のシェーマによる図解を見ることによって,あるサインがどこのどの部分を意味していたのかがよくわかるようになった。
例えば,肺胞蛋白症で特徴的とされているcrazy pavement appearanceは,従来型の書籍ではCT画像所見に,「小葉間隔壁の肥厚とびまん性のすりガラス影が重なった所見である」とテキストが添えられているのみのことが多かった。半分わかったような,でも半分わかっていないような,達成感の乏しい学習で消化不良であった。しかし,本書のわかりやすいシェーマをみれば,どのような所見を指すかが一目瞭然である。
各疾患のコンテンツには,画像上重要な鑑別診断の疾患画像と実際にあったケースの病歴なども記載されている。正確な診断には鑑別診断が重要であり,画像診断において重要な鑑別疾患について効果的に学ぶことができる。医学生や研修医だけでなく,診断に関心のある医師や放射線技師の皆さんにもぜひお薦めしたいリファレンスである。
B5・頁304 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02880-6
野村 総一郎 監修
本田 明 編
《評者》松﨑 朝樹(筑波大病院講師・精神神経科)
精神科医にとって大きな助けになる
学会会場の書店でこの本を立ち読みし,さあ買おうとレジに向かおうとしたそのとき,ちょうど私を見掛けた医学書院の編集者に「その本の書評を書きませんか?」と声を掛けられて,この本を手にしている。しばらく診療の中で,患者の身体合併症に向き合うごとにこの本を開きながら過ごしてみたが,結論から申し上げれば,この本は私自身が必要と思える一冊であり,多くの精神科医に救いとなり得る有用な一冊である。
精神科の病院や診療所に勤務する中,併存する身体的な問題への対応も求められ自信を持てずにいたり,新しく生じた身体的な問題への対応に当惑したり,そんな身体的な問題に対して苦手意識を抱く精神科医は多いのではないだろうか……少なくとも私自身はそんな精神科医である。そして,総合病院に勤める者であれば,精神障害者の抱える身体的な問題に接することはより多く,さまざまな状態への対応が求められるだろう。精神科医も「医師」であり基本的な身体的問題には対処できるべきだという正論については,反論するつもりはないが耳が痛いというのが本音である。しかし,これまでずっと精神科の本ばかりを読んできた私には内科や救急などの専門書は手に取るにはハードルが高く,手にしても身体に関して基本が身についていない私には理解が困難なことも少なくない。しかし,この本であればすべきことがよくわかる。なぜなら,この本が誕生したのも,立川病院の精神神経科病棟の業務で使用されるために作られたマニュアルが基になっているからだ。臨床の場での実践のための本なのだ。
その内容は,甲状腺機能異常や鉄欠乏性貧血などの精神症状をもたらし得る身体的異常から,肺炎や尿路感染症などの精神科での治療中に偶発し得るもの,悪性症候群や水中毒などの精神科での治療により引き起こされ得るもの,異物の誤飲や骨折などの精神症状により引き起こされ得るものまで多岐にわたっている。さまざまな問題が網羅的に扱われており持っているだけでも心強く,検査や薬剤の具体的な内容まで解説されておりすぐに役立つ実践的な本ともいえる。
この本は精神科医の他にも,内科や外科などの身体的な科の医師の中でも精神科病院に勤める者や精神障害をよく扱う総合病院に勤務する者にも活用され得る。精神障害者によく起こり得る問題や精神障害を合併する身体疾患に対して必要な配慮についても具体的に解説されている。総合病院での精神科コンサルテーション・リエゾンについても,対応に当たってのポイントが具体的かつ詳細にまとめられており,精神科医に相談する側にとっても相談を受ける側の精神科医にとっても非常に参考になるはずだ。
精神障害者だからといって身体的な治療がおろそかにされて良いはずはない。医局や診察室の書棚に一冊この本があることで,精神科医にとって大きな助けになることを,そして,それを通して患者にとっても救いになるだろうことを期待したい。
B6変型・頁448 定価:本体4,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03545-3
公益社団法人 日本視能訓練士協会 シリーズ監修
若山 暁美,長谷部 佳世子,松本 富美子,保沢 こずえ,梅田 千賀子 編
《評者》大鹿 哲郎(筑波大病院教授・眼科)
視能訓練のコツがふんだんに盛り込まれた至れり尽くせりの書
このたび,《視能学エキスパート》シリーズとして,『視能検査学』『視能訓練学』『光学・眼鏡』の3部作が刊行された。公益社団法人日本視能訓練士協会の監修である。これは大げさではなく,快挙と言ってよい。量的にも質的にも驚くばかりである。日本の視能学,特にその臨床教育が達した高みに,ひとしきり感心した。
3部作のうちの一つである本書が扱うのは,視能訓練士の業務のうち,彼ら/彼女らが最も“腕を振るう”フェーズであろう視能訓練である。視能訓練とは,斜視や弱視の回復を主な目的として,医師の指導のもと専門の視能訓練士が行うリハビリテーション訓練と定義されており,わが国におけるその歴史は未だ半世紀ほどにすぎない。したがってこれまでは,眼科医が眼科学書を微修正する形で編さんしたテキストブックが教育に使用されてきた。実際,国家試験合格が目的であれば,そういった教科書で十分であった。本書はそれらと異なり,視能訓練士が自らの視点から企画したものである。
一読してまず感じたのは,基礎から臨床までの振り幅が非常に大きいことである。前半の基礎知識の部分は,大学の基礎医学系の教官が執筆を担当されているだけあり,生理学,光学から心理学まで実に詳細な記述がなされている。率直に言って内容がオーバースペックと感じるところも少なくない。編者も少し肩に力が入ったか。まあ,これらの部分は実地に生かす知識というよりも,何かの時に調べる資料的な使い方がされるものであろう。ついでに記すと,全体の最後に収められた再生医療と人工網膜は,はやりの分野ではあるものの,本書の本来の目的との関係は希薄で,また刻々と変化していく研究分野であることを考えると,長く使われるスタンダードな教科書をめざすべき本書に含めるのが適当かどうか疑問を感じた。
一方,後半の臨床部分に入ると,一転して実臨床に即した記述となる。検査や治療に関する実践的な記述に加え,それぞれの要点が「ポイント」として箇条書きで要領よくまとめられている。また,ケーススタディとして臨床例が豊富に提示され,検査や治療の過程でどのような点に留意すべきか,考える道しるべが示されている。視能訓練のコツがふんだんに盛り込まれており,学習者にとって至れり尽くせりである。初級者のみならず,熟練者にも多くの発見と学びをもたらすであろう。実地に即した書でありながら,引用文献が充実していることにも感心した。この部分はぜひとも通読をお勧めしたい。
いずれにせよ編者の長年の苦労がしのばれる力作である。日本の視能学の練度が反映された書であるが,その逆もまた真で,本書が広く活用されることによってわが国の視能学の臨床レベルがさらに向上することを確信する。
B5・頁440 定価:本体15,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03223-0
金子 唯史 著
《評者》山本 伸一(山梨リハビリテーション病院リハビリテーション部副部長/作業療法課課長)
対象を総合的に診て正しい分析・介入へつなげる
脳卒中の動作分析は,正常運動が基本である。正常とは何か。合理的であり,機能的な動きの中で培われてきた経験の結果でもある。それは「標準」である一方,幅を持つという側面もある。多くの場合は「動き」であることから,表現することが難しいかもしれない。だからこそ,多くのセラピストにとって苦手といえるのだろう。しかしながら,動作分析は,今行っている自身の対象者へのアプローチが「続行なのか」「中止なのか」「変更なのか」についての判断材料になる。つまり,正常運動分析を知っていることは,介入の見極めだけでなく,セラピーの質の向上につながるといえよう。
今回,STROKE LAB代表の金子唯史氏から本書の発刊の連絡を受けた。15年の付き合いになる優秀な作業療法士である。2015年,主として脳卒中を対象とした自費リハビリ施設を立ち上げた。それまでは急性期・回復期病棟にも勤務し,各Stageについても経験されている。
本書のテーマは,「脳卒中の動作分析」。これは興味をそそられる。概要の章で「動作分析と臨床推論」について述べ,その後は,基本動作を5つに分け,「寝返り・起き上がり」「立ち上がり/着座」「上肢のリーチ」「手」「歩行」としてまとめられている。
金子氏はChapter 1において,「動作分析のなかで問題点を抽出する際,①神経学的側面(運動制御に関与する構造および経路),②生体力学的側面(筋肉,関節および軟組織の構造および特性を指す),③行動的側面(認知的,動機づけ,知覚,感情的側面)の3つに分類して観察する必要がある」と述べている。さらには,動作分析から臨床推論の在り方,その知識の組織化やメタ認知の重要性などを説いている。また各基本動作については,概要から始まり,“目に見える”解剖学・運動学からの分析,“目に見えない”神経学からの分析,そして治療的応用・戦略についてまとめている。
臨床推論を行う上で各種の分析は必要であるが,「見る」ことは「診る」ことともいえる。目に見える分野と見えない分野を「診る」のである。私たちセラピストは,身体を通して総合的に「診る」ことができるはずだ。そのためには,解剖学・運動学だけでなく,中枢神経系を知ることも大切だというメッセージが本書に込められている。また,介入の切り口(段階付け)は多々あり,一つだけではない。随所に盛り込まれている「臨床Q&A」がそれを裏付けている。
私たちは「活動」へかかわるために心身機能を「診る」。それと同時に分析・介入できることがセラピストの強みだと思う。金子氏の強い意志が込められた一冊。私からも推薦したい。
B5・頁268 定価:本体4,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03531-6
黒川 由紀子,扇澤 史子 編
《評者》繁田 雅弘(慈恵医大教授・精神医学/慈恵医大病院メモリークリニック)
「ケアや支援の効果を高めるアセスメント」がわかる一冊
「心理検査が進むにつれて,その人の顔が徐々にこわばっていくとき,どのように声をかけるでしょうか」「これらの検査での失敗は,本人に認知機能の“低下”を突きつけるだけではなく,容易に回復しえない衝撃をもたらすことさえあります」(まえがきより)。認知機能や精神機能を評価する場合,観察よりも課題や刺激を与えて反応を見るほうが,領域ごとの心理・精神機能の正確な評価が可能である。しかしその一方で,課題や刺激はしばしば致命的な傷跡を残す。認知症疾患の場合は,病名が引き起こす予後不良との偏見や先入観と強く関係している。治療や介入の効果を高めるには初期治療の段階からそういった偏見や先入観を払拭(ふっしょく)したいが,残念ながら評価というものはしばしばそれらを助長してしまうわけである。著者たちは多くの臨床経験からそのことを実感しているのであろう。
すなわちアセスメントの本であると同時に,治療やリハビリ,そして支援を強く意識して書かれた本である。機能を正確に測定するだけでなく,被験者である本人の想いに寄り添い,支援の効果をできる限り高めることをめざしている姿勢を強く感じた。評価は出発点であって,それで完結するものではない。評価によって本人の自尊感情や自己効力感を不必要に下げれば,治療やリハビリの効果をそれだけ失うことになる。本人を失望させ無気力にさせるような評価ならしないほうが良い。そのことをよく知った著者たちだからこそ編むことができた本だと思った。
心理職も多職種連携の一員であるという強い思いが随所からうかがえる。スタッフが患者に対して陰性感情を持ってしまう場合でも,評価者が病棟スタッフと心理背景を一緒に検討するだけで病棟スタッフの見方が変わりバーンアウトを予防することができるとしている(p.138)。心理職が伝える内容が,かかわるスタッフがケアの方針を自身で考え,やってみようと動機付けられるものであることが重要だとしている。心理職は,個室で被検者と1対1で向き合ってアセスメントするイメージから他の職種から独立して動くように思われがちだが,決してそのようなことはない。むしろ心理職が多職種協働のチームに参加し,その経験と知識を皆で共有することで連携がさらに有機的で視野の広いものになることを,この本は教えてくれる。
B5・頁184 定価:本体2,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03262-9
宮岡 等,内山 登紀夫 著
《評者》兼本 浩祐(愛知医大教授・精神科学)
発達障害から考える「診断の意味」
読んで多くの項目にいちいちそうだそうだとうなずくことが多く,一気に最後まで読み進むことができた。大人の発達障害は今や精神科の臨床の中で常に意識せざるを得ない事項であり,どうやってこの概念なしにわれわれが二十世紀には臨床をやっていたのかがわからないほど今やわれわれの臨床に溶け込んでいる。先日の日本精神神経学会でも本書は売上1位を連日続けていた。いくつか激しく点頭したい項目を抜き書きしてみた。
まずは,診断だけを告知して送りつけてくるのはやめてほしいという件だろうか。そもそも発達障害というのは,統合失調症やうつ病,いわんやてんかんなどとは診断の意味が異なっていて,同じ診断という名前を冠にしていてもその実態は大きく違う。例えばわれわれ誰もが自閉症スペクトラムの傾向性はあって,違うのはそれが1なのか5なのか9なのかという程度の問題であり,その傾向性を念頭に置いて診療をすると,中には随分治療的介入のフォーカスを絞ることができる人がいる。したがって,自閉症スペクトラムという特性を念頭に置いて,それをいかに臨床の中に組み入れていくのか,あるいはいかないのかは,来院して来られる家族・本人とのやりとりの中で個別に,オーダーメイドで一人ひとり考えなければならず,そこには診断をどのように告知し,どのように治療に組み込むか,あるいは事例化して医療が引き受けるかどうかまでの幅広い選択肢がある。あらかじめ,本当かどうかもわからない自閉症スペクトラムの診断を付けられての来院ということになると,こうした枠組み作りの大きな妨げになるのは間違いない。大人の発達障害のための専門施設を対外的に喧伝し膨大な公的予算を消費しているような場合は別であるが,診断をした医師が治療も行う,治療を行わないなら診断はしないというのは,確かに意識化しておいてよい重要な指摘だと大いに得心するところがあった。
次に挙げるとしたら,発達障害を診断名として使わないことであろうか。自閉症スペクトラム自体が非常に幅広くかなりヘテロな傾向性の集合体であるが,注意欠如・多動性障害はそれとは独立した傾向性であり,さらにいえば発達性協調運動障害とか,読字困難をはじめとする学習障害など,脳機能の数だけ発達障害も種類があるのは間違いない。これを全部ひとくくりにして取り扱うのは当然乱暴この上ない話であり,少なくとも診断という名には値しないことは著者らの言う通りであろう。発達障害といえば自閉症スペクトラムのことを指すことが多いが,花は桜といった用語法であり,医学的な診断名にはなじまない。
いずれにせよ本書を通して強く感じられるのは,診断ということの意味を発達障害ほど私たちに突き付ける状況は他にはないということである。最近は,「発達障害かどうかを判定してほしい」という主訴で来院される方が少なからずある。本来は主訴があり,主訴をどう治療するかということを考えるための手段として診断はあるはずなのだが,AQとか知能テストなど目に見えるもので診断の白黒が付かないと納得できない方もいる。自閉症スペクトラムの診断は,あくまでも人生をより良く過ごす手助けをするためのツールであることを考えれば,診断で終わりではなく,診断してそれからどうするのかが問題となるはずだが,現状ではしばしば診断それ自体が社会的・心理的に大きな影響を与えてしまう。著者らの言うように大人の発達障害は,精神科医に突き付けられた大きな試練であることは間違いない。
A5・頁330 定価:本体3,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03616-0
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