地域ベースで活躍する看護師が高めたい ジェネラリストとしての資質と役割(四方哲,秋山智弥,山岸暁美,澁谷咲子)
対談・座談会
2018.08.27
【座談会】
地域ベースで活躍する看護師が高めたい
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四方 哲氏(三重県立一志病院院長)=司会
秋山 智弥氏(岩手医科大学看護学部共通基盤看護学講座特任教授) 山岸 暁美氏(慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室講師/あおぞら診療所) 澁谷 咲子氏(三重県立一志病院看護部長) |
地域でジェネラルに活躍する看護師の存在が脚光を浴びつつある。三重県では,病棟・外来・訪問看護まで幅広く対応できる「プライマリ・ケアエキスパートナース」(以下,エキスパートナース)の育成が独自の理念と研修プログラムで始まった。京都府では大学病院と地域の医療施設の人材交流事業が行われている。
領域横断的な知識・技能を有し,医療・介護の多職種連携にも幅広く対応できるジェネラリストとしての看護師をどう育成すればよいか。地域医療の現場で働く看護師のスキルに加え,モチベーションの向上にも目を配りながら試行錯誤を重ねる医師と看護師が,地域ベースで活躍する看護師に期待する役割を話し合った。
四方 へき地医療に携わってきた私は,日本の地域医療を守るリーダーは看護師がふさわしいと常々思っています。看護師は地域住民の暮らしに根差したケアを提供できる医療職だからです。高齢化が進む中,地域医療を担う看護師にはどのような能力が求められ,育成システムをいかに構築すればよいか。今,各地で模索され始めているのではないでしょうか。初めに,看護を取り巻く現状からお聞かせください。
秋山 超高齢社会の日本の医療は,病院完結型から地域完結型に移行するムーブメントの真っただ中です。2025年問題に向け,看護師に求められる役割も地域包括ケア時代の対応へと大きくかじが切られています。
山岸 2018年度の診療報酬・介護報酬同時改定では「治す医療」から「治し,支える医療へ」とのメッセージが打ち出されました。めざす姿は地域ベースの医療。看護師の多くが地域に出ることになるでしょう。
澁谷 県立一志病院(46床)のある三重県津市南西部の山間地域の高齢化率は58.3%と,既に2025年問題を先取りしています。地域唯一の入院機能を持つ当院の看護師は,訪問,介護など病院の外に出た活動を始めています。
看護師に求められる9つのNursing Functionとは
四方 日看協の『看護にかかわる主要な用語の解説』では,看護師は幅広い知識と技術を身につけることが前提とされ,専門分化は「ジェネラリストの存在があって,初めて可能となる」とあります。看護師は専門性を高めるだけでなく,社会の要請に応じ,ジェネラリストの資質を身につける方向へ立ち返ると見てよいのでしょうか。
秋山 はい。医療機能の分化で急性期病院の在院日数は大幅に短縮し,入院から退院後の生活まで,患者さんの安心は各機能の看護師がバトンをつながざるを得ない状況です。他領域の看護師や介護・福祉職との共通理解を築く会話も欠かせません。看護のプロは,専門領域に「点」でかかわるだけでなく,ジェネラリストとして連続した「線」でのかかわりが重要になるのです。
四方 在宅医療の最前線に立つ山岸さんは,これからの地域に求められる看護師像をどう考えますか。
山岸 大切なのは,患者さんの身近な問題に対応でき,そして身近な存在になることです。そこで私は,「地域ベースのNursing Function」を9つにまとめました(表)。地域住民の価値観や希望,社会機能をまるごと評価するヘルスアセスメント機能を持ち,今後の病状の変化や起こり得る事態を予測した上で予防策を講じるプロアクティブな介入が必要です。家族も含め見通しをしっかり伝えることは地域ベースの看護では重要になります。
表 地域ベースのNursing Function(山岸暁美氏提供) | |
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意思決定支援に関しては,人生の最終段階における医療上の内容に限らず,家族やお金,お墓のことなど多種多様です。医療者ができることは限られているものの,伴走者としての支援はますます求められるでしょう。ヘルスプロモーション・自立(自律)生活の支援として,療養中の方が生活の営みを自分でどう解決していけるかをエンパワーメントすることも,看護師が備えたい機能です。
四方 いずれも「生活」の視点が強調されています。
山岸 ええ。看取りケアや家族ケア,コミュニティリエゾンなども,生活まで見通せる看護師だからこそハブ機能を果たせる分野です。治療ベースの医師に対し患者の生活に軸を置いてケアに当たる看護師ができること,やるべきことは実に多い。都会でもへき地でも必ず求められる役割だと考えます。
医療過疎地域で働く看護師の活躍を認める
四方 では,地域ベースで働く看護師の生涯教育をどう進めるか。当院では医療過疎地域ならではの課題を踏まえ,2015年からエキスパートナースの教育プログラム作成を始めました。看護部長として中心的にかかわる澁谷さんから,目的を紹介してください。
澁谷 多職種と連携しつつ,地域に貢献する看護師としての誇りとモチベーションの向上を図ることです。外来,入院,訪問,介護と,どの領域でも幅広く実践ができ,隙間を埋めながら病院と地域をまたぐ橋渡し役をめざします(図)。現場の職員のボトムアップで作った当院のビジョンでは,「安心してこの地域で生活し続けられる医療を提供し,全国の医療過疎を解決する病院のモデルになる」ことを掲げました。
図 プライマリ・ケアエキスパートナース育成プログラムの概要(クリックで拡大) |
外来,入院,訪問,介護それぞれの機能の中で,エキスパートナースとして必要な態度・知識・技術を100の習得項目で横断的に評価。学習ツールとしての活用も期待している。他施設での実習には,近隣施設との関係構築や業務連携の足掛かりを作る狙いもある。 |
秋山 名称が良いですね。私は20年前に米国でNurse Practitioner(NP)の活動を見て裁量の広さに関心を持ちましたが,それとも異なる,「医師と共に地域の医療を包括的に担う」との意図が伝わります。問題意識は何だったのですか。
澁谷 人員の限られた施設では,特定行為研修や各種専門資格を取得するための長期研修に職員を出しにくい状況があります。それでも役割を認め,モチベーションを維持しながら活躍し続けてほしいとの思いからです。
四方 当院は2007年以降,三重大病院総合診療科の支援を得て,総合診療医がプライマリ・ケアを実践してきたこともエキスパートナース育成の後押しとなりました。さらに,県から三重大が委託された事業として「三重県プライマリ・ケアセンター」が2016年10月に当院に設置され,育成が本格化し...
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