医学界新聞

インタビュー

2018.07.30



【interview】

「見る技術」で医療に光を
自由なもの作りで広がる,生体イメージングの可能性

西村 智氏(自治医科大学分子病態治療研究センター分子病態研究部教授)に聞く


 体の奥深くを透視するX線撮影やMRI。肉眼の分解能を超えるミクロな世界を映し出す顕微鏡――。これまでの医学・医療の進歩に重要な役割を果たしてきた「見る技術」は,今なお進化を続けている。

 「見る」をキーワードに,映像技術の医療応用を独自に展開しているのが西村智氏だ。生きたままの組織を観察する「生体イメージング」を研究し,NHKと共同で開発した8K顕微鏡でも知られる西村氏に,発想の原動力や今後の展望を聞いた。


広視野,高解像度で生命現象をとらえる

――「光を使って体を見る」技術を研究・開発してきたそうですね。

西村 生きたままの組織を高解像度でリアルタイムに観察する「生体イメージング」を研究しています。深部の観察に適している「二光子顕微鏡」を改良して,マウスの血管内で血栓ができる様子などを動画で撮影しました。動画は当研究室のウェブサイトでも公開しています。

――とても鮮明で,インパクトのある動画です。

西村 世界に先駆けて,血小板の一つひとつを血栓の中でも血流中でも明瞭に観察しました()。高感度の8K CMOSイメージセンサーを使うことで,従来よりも広い視野を高解像度で観察できるようになりました。従来の顕微鏡で見えるのは0.1 mm四方程度ですが,この8K顕微鏡では5 mm四方程度を一度に撮影することができます。

 血栓形成過程の生体イメージング(クリックで拡大)
レーザー照射により誘発された微小血栓の形成過程。生体イメージングとレーザー傷害を組み合わせることにより,腸間膜の毛細血管において,血栓を誘発し,血栓形成に寄与する単一血小板を可視化。レーザー照射により血小板血栓が発達している。

――撮影方法を教えてください。

西村 麻酔した実験動物に手術で観察窓を開け,そこから撮影します。傷が大きいと本来の生体環境とは異なってしまうので,なるべく低侵襲な方法で撮影することが重要です。私は,5~10 mmくらいの小さな孔からでも撮影できるよう工夫した機器を作りました。これにより,心臓や肺,肝臓など体の深い場所も見ることができます。また,蛍光物質を使って細胞種を染め分けることで,マルチカラーでの撮影が可能です。

――生体イメージングはどう応用できますか。

西村 当研究室では生活習慣病の病態解析を行っています。これまでに血栓形成の他,肥満に伴う脂肪組織の炎症などの生命現象をとらえてきました。広範囲を撮影できる利点を生かして,従来はアプローチが難しかった細胞間相互作用を含め,さまざまな研究への応用が期待できます。

スマホで撮るような手軽さで体の中を見たい

――他にはどんな研究をしていますか。

西村 内視鏡など臨床現場で使う各種撮影機器の開発を行っています。臨床医のニーズを聞いて機器を作り,実際に使ってもらいます。そのフィードバックを受けてどんどん改良を重ね,スピード感のあるもの作りを心掛けています。手術で「この角度の術野が見づらい」などの細かいニーズにも素早い提案ができるのは,医師である私の強みだと思います。

――今後,作りたい機器はありますか。

西村 私がめざすのは,X線撮影やMRIよりも低リスク・低コストで体内を可視化する技術の開発です。それには,X線や紫外線よりも体への傷害が少ない,可視光線や赤外線など長波長の光を使います。安全な光なら動画を撮ることもでき,体の中の様子をよりわかりやすく把握できるでしょう。

 これらの光は産業界でも広く活用さ...

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