リウマチ・膠原病をどう疑い,追いつめるか(萩野昇)
インタビュー
2018.07.09
【interview】リウマチ・膠原病をどう疑い,追いつめるか | |
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従来は整形外科の守備範囲と考えられてきた関節痛・関節炎を内科で診る機会が増えている。背景には疾患メカニズムの解明や薬の開発による治療の変化と,患者数の増加に伴うプライマリ・ケアでの対処への求めがある。リウマチ・膠原病診療において,内科研修医は何を知るべきか。このたび『ロジックで進めるリウマチ・膠原病診療』(医学書院)を執筆した萩野氏に,リウマチ・膠原病診療ならではの特徴と,診療のロジックを聞いた。
――リウマチ関連学会の参加者に,内科医が増えています。なぜでしょうか。
萩野 リウマチ・膠原病の発症メカニズムである免疫学的異常の解明が進み,より広範な筋骨格・軟部組織の疾患への治療に応用されるようになってきたことが一因と考えられます。内科医がリウマチや膠原病を診療できるようになるためには,リウマチ・膠原病の個々の疾患の特徴を知り,これまで整形外科医に任せてきた筋骨格・軟部組織の診察技術を身につける必要があります。そこに,研修医や非専門医は「専門性が高く,とっつきにくい」という印象を持つことがあるようです。
個別性の高さは難しいが,それが魅力でもある
――他の内科診療と比べたときの,リウマチ・膠原病診療の特徴を教えてください。
萩野 単一のパラメータで診断や治療効果の判定ができないことです。糖尿病におけるHbA1cのような指標はありません。症状や検査項目をもとにした分類基準を米国リウマチ学会や欧州リウマチ学会が出していますが,ある因子が分類基準に合えば診断に至るとは限らず,分類基準に合致していなくても診断される場合もあります。
また,診断が除外診断になることも特徴です。全身性エリテマトーデス(SLE)や血管炎の診断には,似た病状を持つ他疾患の除外が必須です。内科領域の広い知識がないと適切な診断に至りません。
――治療を進める上で心掛ける点は何でしょうか。
萩野 同じ診断名でも臨床経過が多様なことです。私の師匠格である岡田正人先生(聖路加国際病院)の言葉を借りると,「SLEの治療」なんてものはありません。個々の患者さんの,個々の臓器障害の程度に応じて治療を決めるので,生活指導だけでうまくいく場合もあれば,強力な免疫抑制療法で生命予後を改善させなければならないシチュエーションもあるのです。
――治療薬の種類が増えてきたことにも注意が必要になりそうです。
萩野 今,治療は猛烈な勢いで進化していて,最新の論文や学会発表をもとに治療方針を変更することも頻繁にあります。かといって,新薬i)をどんどん使うことが一概に良い治療とは言えません。患者さんに応じて,適切な組み合わせとタイミングで薬物療法を行う。場合によっては投薬の中止も患者さんに適した治療となり得ます。免疫系に作用するがゆえに,肝臓,肺,血液など,副作用の及ぶ範囲が単一臓器に限らないことにも注意が必要です。
――こうした個別性の高さが,リウマチ・膠原病診療の難しさの一因かもしれませんね。
萩野 はい。ですが,そこが興味深く,魅力に転じるところでもあります。診断がきちんと合い,適切に治療したら,痛みなどの患者さんの自覚症状が取れて,良くなったことが目に見えてわかります。患者さんが「良くなった」と言ってくれる小さな喜びを,絶えず感じられるのです。
筋骨格・軟部組織の診察には“教師あり学習”を
――リウマチ・膠原病診療の学び方における課題は何でしょう。
萩野 適切な診断と治療選択に欠かせない,筋骨格・軟部組織の診察技術を学ぶ機会が少ないことです。
リウマチ・膠原病診療には,「縦糸」と「横糸」があります。縦糸は筋骨格・皮膚・軟部組織の診察技術,横糸は臨床免疫学の知識です。これまでのリウマチ・膠原病の教育は,横糸である臨床免疫学ばかりが強調されてきました。例えば,学生向けの膠原病の本には,最初に免疫の解説があって,その次に各論として個々の疾患,例えば関節リウマチやSLEの説明があるんです。その間には関節や皮膚の診察があってしかるべきですが,ないのです。
――研修医のどのようなつまずきにつながっていますか。
萩野 所見の取り方とその解釈です。私たちリウマチ科医は,「関節の圧痛がある」とか「関節の腫脹がある」と日常的に言いますが,どれぐらいの強さで押して痛む場合に所見と考えるのか。これは腫れか,それとも単に骨が出っ張っているだけなのか。それを学ぶのもフィードバックなしには難しく,つまずいてしまいます。私たち指導医のこまめなフィードバックによる“教師あり学習”で,学びを手助けすることが大切です。
また,従来のリウマチ・膠原病の教育は主に「ある程度のリウマチ・膠原病診療経験がある人」向けとなっていて,リウマチ科医が当たり前にやっている基本的な考え方が明文化されていませんでした。専門医のロジックがわからない初学者や非専門医には,「何を言っているんだろう?」となってしまうのです。
疑い,迫るだけでなく,他疾患の除外と経過のフォローが必要
――その考え方を研修医,若手内科医に向けて『ロジックで進めるリウマチ・膠原病診療』にまとめたのですねii)。
萩野 はい。リウマチ・膠原病診療のロジックには,「❶疑う,❷迫る,❸除外する,❹フォローする」という4つのステップがあります(図)。例えば心筋梗塞の診断であれば,❶胸痛から心筋梗塞を疑い,❷心電図や冠動脈造影などの所見で迫り,診断しますよね。ですが,リウマチ・膠原病診療は,症状が複雑かつ決め手となる検査がない諸疾患なので,❶疑って,❷その疾患に特異的な症状を探して迫るだけでなく,❸類似の症候を来す疾患を除外する必要があります。さらに,時間軸によって症状が変化しますので,❹治療経過を丹念に追わないと,正しい診断にたどり着けません。
図 リウマチ・膠原病診療の4ステップ(『ロジックで進めるリウマチ・膠原病診療』(医学書院)より改変) |
――研修医にはどのように指導していますか。
萩野 4つのステップに「抜け」がないか一緒に確認しています。例えば,SLE患者が腹痛と下痢で受診したとき,「SLEで腹痛・下痢だからループス腸炎」と研修医が診断することがあります。この思考過程には,❸除外するステップが抜けています。腸管感染症の基本的な検査をして他疾患の可能性を除外しないといけません。最近も,似たケースで腸管出血性大腸菌感染症と判明したことがありました。
加えて,リウマチ・膠原病の本質である自己免疫系の異常から起こり得る,表現型のバリエーションを伝えるようにしています。SLEや炎症性筋疾患の典型的な症状だけを教えるのではありません。目の前の症例に合う点と合わない点は何か。その合わない点は時間がたてば症状が出てくるのか,経過の異なる別の疾患の可能性があるのか。それらを個々の症例でディスカッションしています。
――リウマチ・膠原病診療を学ぶ研修医へメッセージをお願いします。
萩野 リウマチ・膠原病診療は,少しハードルが高い領域に感じられるかもしれません。しかし,特にその「縦糸」である筋骨格・軟部組織の診療は,リウマチ・膠原病以外の内科診療にも広く役立つ重要なスキルです。診察技術とロジックを学び,筋骨格・軟部組織の愁訴を有する患者さんへの診療に役立ててほしいと思います。
(了)
Huggy's Memo
i)患者数よりも開発中の薬の種類のほうが多いかもしれない。
ii)「注釈(Huggy's Memo)が面白い」「Huggy's Memoだけ読んだ」など,主に本文以外の部分が好評である模様。もしかすると本文も面白いかもしれません……。
はぎの・のぼる氏
2000年東大医学部卒。横須賀米海軍病院インターン,都立駒込病院内科シニアレジデントなどを経て,06年から東大病院アレルギー・リウマチ内科で診療・臨床教育に従事。11年より現職。13年より後期研修医の指導を行う。「Dr.ハギー」として多数のレクチャー経験を持つ。近著に『ロジックで進めるリウマチ・膠原病診療』(医学書院)。
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