MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2018.06.25
Medical Library 書評・新刊案内
検査と技術
2017年9月号(増刊号)(Vol.45 No.9)
循環器病院の技師が教える メディカルスタッフのための心電図教室
種村 正,葉山 恵津子 企画
《評 者》近藤 祐可(ハートライフ病院看護部・救急センター)
症状と疾患がつながる臨床現場向きの一冊
看護師としての経験も6年目に入り中堅の立場となったものの,心電図波形には新人のころから苦手意識があり,頭に入っているのは「致死的な不整脈は4つ」程度の知識だけでした。私のように,波形の判読や,波形から読み取れる身体の状態など,症状と疾患をうまくつなげることに苦手意識を持っている方も多いのではないでしょうか。
1年前に一般病棟から救急外来へ異動となったことでより幅広い知識が求められるようになり,積極的に学習を行うようになりました。その中で,不整脈には多くの種類があること,波形についても細かな変化を読み取る必要があることがわかり,自己学習に苦戦していました。
本書は心臓血管研究所付属病院の臨床検査技師の方々によってまとめられた一冊で,解剖から血管の名称,心電図波形の名称(波形の位置がどの興奮を表しているか)など,写真やイラストを基に,心電図を読み解く上で必要な知識が細かく記載されています。そのため,解剖生理とつなげた波形の成り立ちを基礎から振り返ることができると同時に,波形と疾患の関連付けなど,基礎的な部分の学習を深めていくことができます。巻末の「実践問題」では,知識の定着を確認することもできます。恥ずかしながら私自身も,基本的な心電図波形についての理解が不十分であったことを知る良い機会となりました。
迅速な対応が必要な臨床現場では,心電図波形に迷うことがあっても時間をかけて調べている余裕はなく,短い時間の中でエビデンスに基づいた知識が求められます。本書は確認したい箇所を探しやすい構成となっているため,そうした時間のない臨床現場向けの一冊であると感じました。症例やX線写真なども掲載されているため,すぐにポイントを押さえて関連した学習を深めていくこともできます。本書で心電図の基本波形を理解できれば,他の参考書などを読み進める際の一助にもなります。
当院では2017年4月よりアブレーション治療を開始しました。スムーズな治療への介入・補助を意識して看護に取り組もうにも,以前は心臓電気生理学的検査(EPS)中でも何となく波形を眺めるだけになってしまうことが多かったのですが,心電図に対する理解が進んだことで,逆行性のP波はないか,⊿波はないかなど,見るべきポイントを押さえて波形を注視できるようになってきました。現場に出ている方,心電図を一度は勉強した方などが基礎から振り返りたい際に強くお薦めしたい一冊です。
看護におけるクリティカルシンキング教育
良質の看護実践を生み出す力
楠見 孝,津波古 澄子 著
《評 者》池西 靜江(Office Kyo-Shien代表)
これからの看護基礎教育を考える上での示唆に富む
看護実践能力の中核となるのは,「専門的知識を活用して状況判断を行い,看護師としてどう行動すべきか考える実践的思考力」であると思う。その育成方法は,これまで“看護過程教育”が主流であった。しかし,医療を取り巻く環境の変化で,従来型の看護過程教育は思考の型のトレーニングに終わり,実践に結び付かないものになっていた。そこで私はポスト“看護過程”を探していた。
数年前,楠見孝先生(京大大学院教授)の講演を聴講する機会を得て,看護過程の意義を再確認し,ポスト“看護過程”ではなく,看護過程を支えるクリティカルシンキング教育の充実にその答えがあるように思えた。20年近く前『基本から学ぶ看護過程と看護診断』(ロザリンダ・アルファロ-ルフィーヴァ,医学書院)を手にして以来しばらくの間マイブームを起こし,その後印象が薄れていたクリティカルシンキングに,再び光を当てたいと思った。
以降,私は楠見先生の数々の著書をひもとき,その理解を深めてきた。しかし,看護基礎教育,そして看護過程教育で,それをどう活かすのかについて,十分な答えが見いだせずにいた。そんな時,本書が刊行された。ワクワクとした期待を抱いて読み始めると,期待に反せず,これからの看護基礎教育を考えるのに必要と思われるいくつかの示唆が得られた。
1つ目は,カリキュラム改正が近々にあろうこの時期を踏まえ,カリキュラムへの提言があったことである。「いきなり専門科目や看護実践場面でクリティカルシンキングを活かそう,といっても無理な話である」(p.82)とあるように,カリキュラムの中で段階的に教える必要性と具体例が解説されている。楠見先生の行う「クリティカルシンキング育成の初年次ゼミ」などは,特に基礎分野教育において,十分参考になるものである。また,専門分野では「具体的場面での問題解決過程全体のなかで教えるほうが学習効果が大きい」とある(p.15)。講義,演習,そして臨地実習で,「看護場面」を教材にしたクリティカルシンキングのトレーニングを取り入れ,段階的・継続的な構築ができると良いと思う。クリティカルシンキングの評価も早速活用してみたい内容である。
2つ目は,クリティカルシンキングと看護過程との類似性が示されている点である。クリティカルシンキングの中核となる「相手の話を傾聴し感情を理解すること」や「データに基づく偏りのない思考」は,個別的で最善の看護をめざす看護過程において,ことさら大切である。その基盤となるのが「推論の土台の検討」である。看護過程教育でこれをどう強化するかが課題であろう。また,第4章で,臨床判断モデルと基礎的な看護過程を,段階的統合と同時的実践知統合の2つの段階に分けて説明している点も興味深い。
3つ目は,本書で提示されるクリティカルシンキングの教育方法に,私の教育実践と共通するものが多かった点である。私は看護場面を教材にして,ワークシートを活用し自ら考え,他者と話し合う機会を多く導入している。さらに「発問」を通して学生の思考を促すことを心掛がけている。このような教育方法がクリティカルシンキングを培うものであることを再確認し,自信を得ることができた。
読み終えて,改めて,クリティカルシンキング教育は看護基礎教育に時間を割いて取り入れるべきものである,と実感する。
B5・頁162 定価:本体2,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03210-0
若林 秀隆,荒木 暁子,森 みさ子 編
《評 者》吉田 剛(日本理学療法士学会栄養・嚥下理学療法部門代表運営幹事)
リハ栄養を実践するための臨床思考過程がわかる
リハビリテーション(以下,リハ)栄養についてはすでに多くの出版物がありますが,看護師向けは本書が初めてと聞いて意外に感じられる人も多いでしょう。リハ栄養という考え方は,本書をまとめた若林秀隆先生から発信され,すでに全国的に定着してきており,2017年には日本リハビリテーション栄養学会が発足しました。その過程で,医原性サルコペニアと呼ぶべき状態が生じていることを認識し,予防するべきであるというメッセージが出されています。
本書は,装丁やフォントがおしゃれで,A5判,244ページながら手にしやすい価格に設定され,専門書というハードルを下げてとても読みやすいものになっています。しかし,その中身は濃く,総論から各論(疾患別リハ栄養)まで網羅されています。特に半分の紙面を割き,10疾患を挙げ,疾患概要,エビデンス,症例についてまとめている「第3章 疾患別リハビリテーション栄養」は本書の魅力であり,症例は「リハビリテーション栄養アセスメント」「リハビリテーション栄養ケアプラン」「介入後の経過」で構成され,看護の実際,ゴール達成状況などが項目を立てて整理され,リハ栄養を実践するための臨床思考過程がとてもよくわかる内容になっています。つまり,本書は職種を超えて最新のリハ栄養を実践するための指南書になるわけです。
私たち理学療法士は,病棟看護師と同じように病棟での患者の生活にかかわり,活動状態を把握し,看護師と共同して医原性サルコペニアを予防する役割を果たしていかなければなりません。本書では,NST専門療法士や摂食・嚥下障害看護認定看護師など研さんを積んできた看護師たちが執筆しています。看護師の視点からの考え方を知ることが,一緒に病棟患者の生活にかかわり医原性サルコペニアの予防に立ち向かっていく理学療法士にとって大事なことだと思います。
私たち理学療法士も,若林先生のように日頃の臨床を厳しい目で見直し,良いと考えることを社会に広め,文化となり普及していくように戦略と強い意思を持って進めていくことが必要であると感じます。
コラムの一つに「セルフマネジメントの究極の質問」(p.16)があり,そこで若林先生は,何によって憶えられたいかと考えたとき,「医原性サルコペニアを病院から(少)なくした人として憶えられたい」と述べています。この信念が貫かれた良書として,最新のリハ栄養の手引きとされてはいかがでしょうか。
A5・頁244 定価:本体2,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03225-4
吉村 知哲,田村 和夫 監修
川上 和宜,松尾 宏一,林 稔展,大橋 養賢,小笠原 信敬 編
《評 者》濱口 恵子(がん研有明病院副看護部長/がん看護専門看護師)
「こういう本が欲しかった!」 思わず叫びたくなる書籍
思わず叫んでしまいそうになる書籍がこのたび出版されました。
本書は薬剤師による薬剤師のためのマニュアルかもしれませんが,がん患者にかかわる病棟,外来,外来化学療法センター,緩和ケアチーム,相談支援センターの看護師や他専門職にとっても有用であることは間違いありません。
本書はがん薬物療法の副作用症状別に,その症状の原因となる抗がん薬のリスト,抗がん薬ごとの発現割合(全Grade,≧Grade 3),好発時期が記載されているだけでなく,その症状が出現する可能性のある抗がん薬以外の原因(考慮すべき疾患・病態,患者側リスク因子),およびその対策がエビデンスに基づいてコンパクトにまとめられています。しかも事例とその解説,総論として「抗がん薬の副作用」「外来における副作用管理のコツ」「アドヒアランス向上の必要性と方策」が記述されており,初心者に対して理解を後押しする工夫がなされています。
がん薬物療法は外来で行われることが主流になりました。予定された治療を安全かつ少ない苦痛で継続・完遂するためには,意思決定の支援はもとより,医師・看護師・薬剤師らが協働して患者のアドヒアランスを高め,患者・家族がセルフケア能力を獲得するための支援が不可欠です。薬物療法を受けている患者からの電話相談は増加傾向にあり,最初に対応するのは主に看護師です。
患者は気になる症状から語り始めます。電話対応する看護師は患者の様子が見えない分,「その原因・要因は何なのか」「救急対応が必要なのか,経過観察で良いのか」について,アセスメントをしながら情報収集し,医師らと連携していきます。本書は,問診のポイントとその意図,重症度(NCI-CTCAEなど)を含め,原因・要因リストがパッと見てわかるように工夫されているので,本書がそばにあれば,どんなに心強いことでしょう。
近年,次々と新薬が標準治療になり,薬物療法に関する最新の知識を得ることが看護師にとって難しい状況にあります。その点,殺細胞性抗がん薬,分子標的薬,内分泌療法薬,がん免疫療法薬を網羅しており,コンパクトなサイズにもかかわらず充実した内容が盛り込まれている本書には感嘆せざるを得ません。
外来患者の対面・電話相談にも対応する外来副看護師長たちに本書を見せると,「わぁ~~すご~い,絶対欲しい!」と言っておりました。
B6変型・頁314 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03532-3
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