他職種に贈るThanks Card(北別府孝輔,安藝敬生,瀬尾龍太郎,山室伊吹,大島洋平,藤本侑大,加藤博史)
寄稿
2018.05.21
【寄稿特集】他職種に贈るThanks Card相手へのリスペクトが連携を生む |
他者との対話は「相手へのリスペクト(敬意)と自己へのサスペクト(疑念)がなければ成り立たない」(朝日新聞 2018年2月19日「折々のことば」より)――。
多職種が働く医療現場では,連携の在り方が問われ続けています。理想の連携は組織によって異なり,達成への道のりは千差万別ですが,他職種を知りリスペクトすることで,連携の第一歩を踏み出せるのではないでしょうか。身近な他職種スタッフが何を考え,どんなところに助けを求め,どのようなとき力になりたいと思っているのか。救急・集中治療領域を中心に活躍する方々に,他職種への日頃の“Thank You”と,自職種の頼れるポイントをしたためてもらいました。
北別府 孝輔 | 安藝 敬生 | 瀬尾 龍太郎 | 山室 伊吹 |
大島 洋平 | 藤本 侑大 | 加藤 博史 |
北別府 孝輔(倉敷中央病院看護部/急性・重症患者看護専門看護師)
臨床工学技士さんへ 幅広い知識と対応力のおかげで患者安全とチーム医療は守られています。 |
集中治療領域において,患者の緊急度や重症度が高くても,ME機器を装着してしまえばある程度患者の生命が守られることは多いです。その中で,患者の「安全」を守っているのは臨床工学技士だと日々感じています。「なんか,あまり見ないアラートが表示されています」「なんか,変な音がします」「なんか……,変なんです」など,看護師のアバウトな要望にも昼夜問わず対応してくれます。呼吸ケアサポートチーム(RST)で病棟を回るときは,患者の呼吸様式に合った設定や,安全担保のためのモニタリングやアラームの提案などしてくれ,とても心強いです。頭の中に取扱説明書が入っているんじゃないかと疑うくらいの幅広い知識と対応力でチーム医療を支えてくれる,まさにME機器のスペシャリスト! これからも頼りにしています。
理学療法士さんへ 患者・家族の身体と心に寄り添ったリハビリテーション,ありがとうございます。 |
理学療法士がICUにおける早期離床に尽力しているのは周知のことですが,身体機能の維持・改善だけでなく,実は心も支えているのを僕は知っています。重篤な患者のリハビリテーションを行いながら,ケアを通して表出される患者・家族の思いやストーリーを折に触れて聞いてくれていますね。多職種カンファレンスで治療方針やケアの方向性について話し合うとき,その情報のおかげで患者のエンドオブライフ・ケアや倫理的検討ができたという経験は一度や二度ではありません。ケアを通して患者・家族を支えるのは看護との共通項であり,勝手に親近感を感じています。患者の「生活」と「その人らしさ」を守るセラピストとしての専門性,すてきです。
薬剤師さんへ 薬剤師の働き掛けで患者のQOLは保たれています。 |
人工呼吸器管理中のある患者でした。疼痛コントロールに難渋しており,嘔気も強く,便秘もあるなど,臨床症状がとにかく強く,どうすれば患者が楽になるのか,回診時に医療チームメンバーそれぞれが頭を悩ませていました。そのとき,薬剤師が麻薬性鎮痛薬の増減を一緒に検討してくれ,他鎮痛薬の併用や症状に合わせた緩下薬,消化管蠕動改善薬などの追加・変更を提案してくれました。すると,なんということでしょう……数日後には患者が楽に過ごせる時間が徐々に増えてきたではありませんか。それまでは「薬剤の医療安全に長けていて配合変化のことは何でも知っている」だけだった僕の中の薬剤師のイメージが,「薬剤を通して患者の生活の質も支えてくれる専門職」に変わりました。多職種連携になくてはならない輝かしいピースの一つです。
◆看護師のここに注目!
看護師は,多職種連携のハブ(ネットワークの中心)として,皆さんの専門性を理解し,連携を広げることができます。それは,患者・家族への質の高い医療ケアの提供につながります。それぞれの専門性に上手に頼ることができる柔軟さも,看護師の強みです。
安藝 敬生(長崎大学病院薬剤部/救急認定薬剤師)
管理栄養士さんへ Critical Care Nutritionのまさに主役です。 |
救急・集中治療では,生命を脅かす病態に合わせたオーダーメイドの栄養管理が求められますが,確固たる療法が確立していないものも多く存在します。病態が刻一刻と変化するため,院内の管理栄養士の介入は難しく,医師・薬剤師に委ねられるのが一般的かもしれません。しかし,Critical Care Nutritionにおいては経腸栄養優先→医薬品のバラエティーの限界→多種多様な経腸栄養剤・栄養補助食品の発達と,管理栄養士に期待する役割は増大しています。当院の救命救急センターには,定期開催の栄養サポートチーム(NST)カンファレンスで中心的な役割を果たす管理栄養士がいます。医師,看護師,薬剤師と連携し,多くの経腸栄養剤を使い分け,薬剤で対応できない電解質の異常に対しても栄養補助食品の介入をすぐに検討してくれます。まさしくCritical Care Nutritionの主役です。
看護師さんへ 24時間無休の情報提供に感謝! |
患者さんの病態変化に伴う薬剤選択と用量調整は,薬剤師が最も得意とするところです。しかし救急・集中治療では薬剤師がベッドサイドで独自に得られる情報は「点」になりがちです。変動する患者さんの状態を先読みし,薬剤師と医師が連携した適切な薬剤選択・用量調整は,看護師からの24時間無休の連続した情報提供とアセスメントに支えられていると強く実感します。循環不全や鎮静薬投与,活動制限のある患者さんは腸管運動の低下を来し,感染性合併症の増加,経腸栄養の吸収遅延等へつながることがあります。薬剤師は胃管排液や消化管蠕動,排便状態を確認しながら適切な薬剤・用量を医師へ提案しますが,変動する情報を看護師が24時間与えてくれなければベストな介入は困難です。排便状態に至ってはブリストルスケールおよび量まで詳細に記録されます。われわれのたった一つの提案の根拠に,その何十倍もの労力によって得られた看護師の情報提供があることにいつも感謝しています。
理学療法士さんへ せん妄管理のベストパートナーは理学療法士! |
急性期の患者さんは,さまざまな合併症と闘います。その代表に治療の継続や回復を妨げ,入院日数の延長へとつながるせん妄があります。もちろん原因の排除が重要ですが,緊急の安全確保が優先され,しばしば非定型抗精神病薬やデクスメデトミジンの投与を提案せざるを得ません。実はこれらの薬剤が効果的であるという明確なエビデンスはなく,有害事象にも悩まされます。推奨されているのは薬剤ではなく,早期のリハビリテーション介入による早期離床の促進です。われわれは,せん妄発症リスクのある患者さんに対して,常に理学療法士と緊密なタッグを組んでいます。お互いの意見交換により早期離床と薬物療法のバランスを整えてこそ,安全な患者管理が実現できるのです。
◆薬剤師のここに注目!
薬剤師には,薬学をベッドサイドで活用する「現場力」がチーム医療の中で求められています。投与に伴う「利」,副作用・医療コストなどの「害」を明確にし,処方設計から投与方法,投与ルート,投与後の作用,投与終了後まで継続的に関与し,最適な薬物療法へ導くことを責任感を持って追求していきます。
瀬尾 龍太郎(神戸市立医療センター中央市民病院救命救急センター/医師)
清掃業務の皆さんへ いつも院内をきれいにしてくださり,本当にありがとうございます。 |
患者さんの入れ替わりが目まぐるしい救命救急センターでは,清掃業務の方々が,いつも迅速に部屋の掃除をしてくれています。出血や分泌物,鋭利物,さらには耐性菌など,清掃上気を付けねばならないことが多くある中で,適切に対応してくれています。また,皆さんいつも笑顔であいさつをしてくださり,ともすると忘れがちなあいさつの重要性を思い出させてくれます。
患者さんとそのご家族へ 医療チームの重要な一員でいてくださり,ありがとうございます。 |
患者さんと家族は,医療チームになくてはならない重要な存在です。ご自身の病気やハンディキャップへの対応において,患者さんは医療チームの一員としてかかわってくれます。また患者さんの家族は不安や心配を抱えながらも,それぞれのできる範囲で患者さんに寄り添っており,頭が下がる思いです。皆さんはまさにスペシャリストであり,「医療チーム」にも多くの示唆をもたらしてくれます。しかし残念ながら,場合によっては皆さんがスペシャリストであればあるほど,皆さんへの対応に医療従事者が戸惑ってしまうことがありますが,皆さんの認識や思い,経験はチームにとって大変重要です。医療従事者もその戸惑いが消失するように,頑張っていきます。そのような医療従事者の戸惑いに対して,それが改善されるまで温かく見守っていただければ幸いです。
医療事務の皆さんへ 医療を円滑に提供できるよう,大きなことから細かなことまで柔軟に対応してくださり,ありがとうございます。 |
医療ライセンスを持つ医療従事者は,自分たちのロジックを優先して物事をとらえがちです。そのため複数の職種が集まると,複数のロジックがぶつかってしまいます。医療事務の方々がそのはざまで対応してくれるおかげで,患者さんに適切な医療が届くようになっています。これからもよろしくお願いします。
◆医師のここに注目!
医師は,実はとてもか弱い存在です。「知識や技術が劣っている」と他人から思われることに強烈な恐怖を感じ,時には自分の存在価値の否定にまで至ってしまいます。自分の存在意義を保守するために,皆さんに強い態度やそっ気ない態度を取ることがあるかもしれません。患者さんを第一に考える思いは皆さんと同じです。
山室 伊吹(済生会熊本病院栄養部臨床栄養室/管理栄養士)
薬剤師さんへ 当院のICU担当薬剤師さんは何よりコミュニケーション能力が高い! |
私が初めてICUへ足を運んだ時に一番に声を掛けてくださり,安心したことを今でも覚えています。そのあいさつや話しやすい雰囲気で多くのスタッフとコミュニケーションを取る姿をよく目にします。その上臨床での知識も豊富で,私だけでなく多くのスタッフからも信頼を寄せられています。
栄養管理の面でも日々お世話になっています...
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