医学界新聞

2018.04.16



Medical Library 書評・新刊案内


行動変容を導く!
上肢機能回復アプローチ
脳卒中上肢麻痺に対する基本戦略

道免 和久 監修
竹林 崇 編

《評 者》森岡 周(畿央大大学院教授・理学療法学)

課題指向型の介入を意識した臨床と科学の融合書

 リハビリテーションの理念は全人的復権である。故に,それに携わる専門職は対象者の全人的復権に向け日々努力を怠ってはならない。なぜなら,対象者の人らしさを復権するといった究極の目標を掲げているからである。

 人らしさを象徴するものとして上肢による道具操作が挙げられる。乳児は環境に対して挑戦的に行動を繰り返すことでスキルを有した上肢機能を獲得していく。人は生まれながらにして意のままに身体を操れる機能を持ってはいない。言い換えれば,司令塔としての脳の組織化のためには,上肢を介した行動を起こすことが優先されるべき必要条件であるわけである。

 本書は単純に脳卒中上肢麻痺に対するアプローチと題さず「行動変容を導く!」という修飾語を含んでいるところに特徴がある。行動は目的を伴う。目的を伴わない運動と伴う運動は関節運動が同じであっても,運動の組織化にかかわるニューロン活動が異なることは自明であり,だからこそ課題指向型に介入しなければならない。課題指向型とは単に日常生活活動(ADL)を繰り返すことではなく,療法士の教育の下,対象者が能動的に挑戦的課題に取り組むといった指向性を意味するものである。

 本書は全6章で構成されている。その特徴は,1章に行動変容を配置し,それを読者に強く意識させるとともに,2章にも課題指向型アプローチを配置しており,その配分が編者の意図を感じるくらい多いところにある。ともすれば臨床関連の書籍はマニュアル本になる傾向があるが,本書は1・2章の理解なくして5・6章の症例検討や実際例に行くべからずという編者の強い意図を感じる。

 要するに,本書は単にアプローチの紹介にとどまらず,神経学的かつ心理学的な根拠が記されているところに特徴があり,なぜ運動の量が必要か,なぜ運動の質(難易度調整や目標設定など)が重要かについて十分に解説がなされている。そして,アウトカムメジャーをあえて章立てて構成しているところにも意図を感じる。リハビリテーションは評価に始まり評価に終わる。適切な評価の実施なくしてリハビリテーションの進歩はない。

 本書は道免和久先生のチームによる臨床と科学の融合に基づいた結晶であり,そのチームの旗手として大部分を執筆している竹林崇先生の気概を十二分に感じ取ることができる。お二人は一貫して脳卒中後の運動障害に対する臨床・研究・教育に従事されてきた。彼らの長きにわたる経験に加え,現在進行形の科学的根拠を含んでいる本書に収載されている情報は信頼できるものであることは間違いない。

 本書は臨床で格闘している療法士の金科玉条として位置付けられる作品と思われるが,それは時に融通の利かない例えとしても用いられる。日々進む科学技術に足並みをそろえながら今後柔軟に改訂を重ねていただきたい。いずれにしても,リハビリテーション関連職種・学生の皆様に手に取っていただきたい良書として自信を持って薦めることができる。

B5・頁304 定価:本体4,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02414-3


触診解剖アトラス 第3版

Serge Tixa 著
奈良 勲 監訳
川口 浩太郎,金子 文成,藤村 昌彦,佐藤 春彦 訳

《評 者》高橋 哲也(順大特任教授)

人体を触り,診るセラピストの必携本

 「美しい本」というのが最初の印象である。統一された背景に,洗練された美しい男女のモデルと繊細なタッチのmasso-kinésithérapeute(理学療法士)の指先が,danse contemporaine(コンテンポラリー・ダンス)を思わせる。この「美しい本」の著者が,フランス人のSerge Tixa氏であると確認し,その印象に間違いがなかったと納得する。静止した写真であるにもかかわらず躍動感あふれ,舞踊芸術を観ているような錯覚にすら陥る。愛情表現豊かなフランス人らしさが感じられる。

 フランスは,理学療法をphysiotherapyまたはphysical therapyと表現せず,kinésithérapieと表現する。Kineの接頭語から,kinesiology(運動学),kinetics(動力学),kinesthetic(運動感覚)が頭に浮かぶ。運動や動作を学ぶうえで,骨学,筋学,神経学,脈管学が一冊で学べる貴重な本でもある。著者のSerge Tixa氏はオステオパシー,カイロプラクティック,理学療法の学校の講師を務めている。オステオパシーやカイロプラクティックは,わが国では,民間療法として受け止められているが,理学療法同様,手を使って施術を行うものであり,特にオステオパシーは骨や筋に限らず,動脈や静脈などの循環器系や脳神経,末梢神経などの神経系の広範囲の知識を基に,施術を行うものである。そのため,本書においても,「主な神経と血管」という項を設け解説されており,局所の解剖学的理解を助ける構成になっている。患者の触診に焦点を絞れば,幅広く性質の異なるアプローチであるが,多様性として理解し十分受け入れることができる。

 触診は,一般的にはmanipulationまたはpalpationと英訳されるが,この本は,冒頭から触診をmanual exploration of surface ...

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