MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2018.04.09
Medical Library 書評・新刊案内
上條 吉人 著
《評 者》落合 秀信(宮崎大教授・救急・災害医学)
救急科と精神科の双方の観点からまとめられた実践的なマニュアル
近年,精神疾患を持つ患者が急病などのために救急受診する機会が多くなってきている。また,人口の高齢化を反映してか入院中に精神合併症を来す患者も増加してきている。そして,そのような精神疾患を持つ救急患者は,しばしば救急隊の病院選定困難の理由の一つに挙げられる。精神疾患を持つ救急患者の初期治療は,救急医に求められる重要な社会的ニーズの一つといっても過言ではない。救急医もある程度精神疾患に対する知識を持ってこのような社会的ニーズに広く応えていくことが必要であり,本書はそのための実践的なマニュアルである。
これまでも同様の主旨をうたった書籍はあったが,いずれも救急側もしくは精神科側のどちらかの視点に偏っていることが多く,どこか完全ではない印象を持っていた。その一方で,本書の著者は,わが国における中毒診療の第一人者で,精神保健指定医かつ救急科専門医の資格を持ち,日常的に精神科診療ならびに救急医療の第一線で活躍している稀有な救急医である。本書はそのような背景を持つ著者が,長年にわたる経験を基に執筆した書籍であるので,これまで感じていたもの足りなさが全くない。本書は,病態から治療,治療におけるピットフォールはもちろんのこと,生理学や生化学など基礎的な事項まで取り入れて明確に解説してあり,楽しみながら読み進んで深い知識を得られる。
本書の構成も実践的に理解できるよう工夫が施されている。まずこれまでの著者の経験に基づき治療に必要な最小限の薬剤を厳選し,それらの使用法や注意点を解説してある。その後に日常遭遇する頻度の高い症状について,ケーススタディ的に解説してあり,実際の臨床の現場にいるような臨場感を持って理解を深めることができる。もちろん緊急対応時に必要な事項を調べるマニュアルとしても申し分ない。このように本書は,救急そして精神科の両面から深く解説してあると同時にマニュアル的な簡便性も有しており,この分野において本書の右に出るものはない。
東医歯大や都立広尾病院で精神科医として,さらに,北里大救命救急センターで救急医として研さんを積まれ,現在でも救急医,精神科医,そして中毒研究者として第一線で活躍中である著者による本書は,精神障害のある救急患者へ対応する機会のある医師全てにおける必須の書といっても過言ではなく,ぜひ診療のパートナーとして活用していただきたい。
B6変型・頁304 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03205-6


行動変容を導く!
上肢機能回復アプローチ
脳卒中上肢麻痺に対する基本戦略
道免 和久 監修
竹林 崇 編
《評 者》藤原 俊之(順大大学院主任教授・リハビリテーション医学)
ニューロリハの第一人者による行動変容へと導く戦略書
“道免和久先生と竹林崇先生の本!”と聞いて,「これは読まずにはいられない」と思った。道免先生はわが国における神経科学に基づいた,いわゆるニューロリハビリテーションの第一人者であり,わが国にCI療法を導入し,普及させ,さらにその機序について神経科学的手法を導入することで明らかにした。竹林先生はその道免先生のもとで,作業療法士として上肢機能障害に対する治療を行うとともに,研究を重ねてきた。現在の日本を代表するリハビリテーション科医と作業療法士であり,研究者であるといえる。このお二人が監修,編集をされたのが本書である。
本書のコンセプトは従来からあるような治療法のマニュアル本とは異なり,「単に麻痺を回復させる治療法という二元論的理解を超えて,機能障害を課題指向的に改善させ,改善した機能障害を日常生活活動につなげる(転移させる)という新たなアプローチの考えかたである」とうたっている(「監修の序」より)。
内容を見ていくと,まず「行動変容を導く上肢機能回復アプローチ」と題し,機能と行動を結び付けて行動変容を促す上肢機能回復アプローチとしてCI療法を紹介。続いて実際の「麻痺手に対する課題指向型アプローチ」について理論的背景を基に述べている。また,「練習効果を生活に転移させるための方略」では機能回復を行動変容に結び付けるための方略について解説している。一方,本書の後半では実際の症例を通して,具体的に臨床現場においてどのように治療を行っていくのかという点について解説が施されている。
神経科学や行動心理学といった行動変容を導く戦略の根幹となる学問をベースとした上肢機能回復アプローチについて,その学術的背景,基礎知識,実際の治療法を一冊に凝縮した内容となっており,一貫してreasonableな理論からどのように考えて治療するのかというプロセスを明らかにした上で治療法が解説されている。
ニューロリハビリテーションや神経科学に関心の深い医師,コメディカルスタッフ,学生にお薦めの一冊である。
B5・頁304 定価:本体4,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02414-3


R.M. Tobin,A.E. House 原著
高橋 祥友 監訳
高橋 晶,袖山 紀子 訳
《評 者》今村 芳博(直方中村病院精神科)
子どもに対するDSM診断への疑問に丁寧に答える解説書
本書は,米国の学校精神保健に携わる学校心理士を対象としており,精神的理由から学業に支障を持つ子どもに対する公的扶助や保険申請のために,DSM-5診断を行う際の助けになることを前提に書かれている。そのため,日米の違いを意識しつつ,DSM-5の原本も傍らに置きながら活用することとなる。
今回のDSMの改訂根拠の解説が続くため,精神医学にある程度知識のない一般の学校関係者にとって,本書は残念ながら難解であろう。しかし,あまたあるDSM-5解説本の中で,児童思春期精神科医療に携わる全ての職種にとってこれほど有益な書を私は知らない。例えば,注意欠如・多動症の発症年齢引き上げについての議論は,その年齢相応とする症状評価や成人への影響などが詳述されており,参考になる。
評者は精神科医として多少の臨床経験を積んではきたものの,子どもの精神症状の多彩さと変化にはいつも戸惑わされる。自らの不勉強と出来の悪さを棚に上げて言わせてもらえば,成書を読んでもどこかピンと来ないのは今でも変わりがない。「学校・地域との連携が大事」と聞いて,とりあえず担任や養護教諭とかかわりだしたはいいが,そううまくいくものではなかった。あまり疾患理解を強調すると「学校では対応できない」「他の子に悪影響がある」と不安を刺激してしまう。ケース会議をしても医療,教育,福祉,行政といった他職種に精神医学的知識を説明することもたやすいことではないし,今話題にしていることはどのモデルの視点なのかを理解して,バランスをとりながらその子への援助を考えていくことは,とても労力を必要とすることだ。
DSMは1980年のDSM-IIIから操作的診断基準となり,社会的影響力が強まった。診断の一致率と信頼性を高め,精神医学への理解の底上げに大いに有益であったことは間違いない。しかしその成り立ちから,複雑な人間の問題を過度に単純化し,年代差も含めて重要な個人差を無視しがちなところがあり,個別の臨床的治療のための診断を目的とするにはまだまだ発展途上のものだ。私が抱いていた疑問はそこに集約している。また,こうしたマニュアルは往々にして恣意的に運用され,結果が独り歩きしてしまう。よく言われるように過剰診断・過剰な治療,さらに商業主義的拡大として,反精神医学論議の格好の題材となっている。子どもに対してはなおさらのことで,そもそも発達途上の小児期に精神医学的診断を下すことに抵抗感が生まれるのは自然なことだ。
知的能力障害などの診断が偏見や差別につながることも重大な懸念だが,そのために名称変更が繰り返し行われてきたことは一時的な解決策にすぎないと,本書の著者らは鋭く指摘している。第5章の「知的能力障害のレッテル貼り」というコラムの中で,「彼らは学習は遅いが,適切な教育でより多くを学ぶことができる」という点で,むしろ以前の「精神遅滞」のほうが現象をより的確に表現しているとして,その変更を惜しんでいる(p.47)。
さらに第21章で,「しかし,言葉...
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