医学界新聞

対談・座談会

2018.04.02



【座談会】

インターネット上の医療情報の信頼性をどう担保するか

辻 正浩氏(株式会社so.la代表取締役/SEOコンサルタント)
若尾 文彦氏(国立がん研究センター がん対策情報センター長)=司会
片木 美穂氏(卵巣がん体験者の会 スマイリー代表)


 2017年12月6日,大手インターネット検索サービスGoogleにおいて「医療や健康」に関する検索結果の改善を目的とするアップデートが実施された。この背景には,科学的根拠の乏しい“医療・健康情報”がインターネット検索で上位に表示されてしまう問題があった。

 情報化が進み,患者や家族が医療情報を自ら検索できるようになった一方で,情報が溢れているため正しい情報にたどり着くのは容易ではなくなっている。アクセスした情報の正確さは非医療者には判断しにくい。本紙では,医療者の立場から若尾氏,SEO(Search Engine Optimization)専門家の立場から辻氏,患者の立場から片木氏に,インターネット上の医療情報の課題を議論していただいた。


若尾 国立がん研究センターの若尾です。がん対策基本法制定を受けて2006年にがん対策情報センターが設置されて以来,人々が正しい情報に基づいた適切な意思決定をできるよう,情報を収集・発信しています。

 私はSEOの専門家で,企業サイトが検索エンジンとの相性を改善するためのコンサルタントをしています。医療関連の検索の問題に注目しており,医療や健康の検索結果の変化は常に追い続けています。

片木 卵巣がんの患者会スマイリーで代表をしています。私自身卵巣がん罹患経験があり,病気についてインターネットで検索することがありました。最近は患者からインターネット情報の正誤や情報の調べ方について相談を受けることが多くなっています。

若尾 内閣府によるがん対策に関する世論調査では,がんの治療法や病院についての情報源を聞いています1)。その結果,一般の方の51.6%がインターネットを情報源としていました(図1)。さらに患者会への調査で,インターネット検索では検索結果の上位から順に見ていく方が多数でした2)。インターネットには信頼できる情報もある一方で内容の質が担保されていない情報も多いことや,検索結果の上部には広告が表示されることを知らない方もおり,間違った情報にたどり着きやすい状況にあると言えます。

図1 がんの治療法や病気についての情報源(文献1より一部改変)(クリックで拡大)

Google,ヤフーのアップデートで検索結果は大幅に改善

若尾 まず辻さんから,医療情報の検索を取り巻く状況を教えてください。

 最近話題となったのは,17年12月6日にGoogleが行った検索アルゴリズムの大幅なアップデートです。Googleは17年は医療関連の対策を集中的に行っています3)。同年2月には問題のある20~30サイトの検索順位を落とし,そして12月6日には何千ものサイトを落としました。これは前代未聞の規模です。

若尾 検索アルゴリズム変更のきっかけとして,16年秋に社会問題となった健康・医療系キュレーション(まとめ)サイト「WELQ」の問題があります。記事の内容の信頼性や正確性が保証されていない粗悪なコンテンツでも検索の上位に表示されていました。

 実はWELQ以前にも,信頼性の低いサイトは多数ありました。検索エンジンがアルゴリズムの改善でうまく封じ込めていたのです。例えば「がん」を検索した場合,09年頃は検索上位にも個人のサイトやリンク集が多くありましたが,16年には上位の多くが公共機関や医療機関,大手報道機関,製薬会社でした。しかし,SEOを駆使すれば検索上位に入れることをWELQが示し,類似手法で運営するサイトが増えたのです。

 そうした状況を受けて17年12月6日のアップデートは,記事を大量生産する手法のサイトや投稿型サイトの順位を落とし,「医療従事者や専門家,医療機関等から提供されるような,より信頼性が高く有益な情報が上位に表示されやすく」しました(図2表1)。

図2 12月6日Google検索アルゴリズム改善前後での検索結果の変化(辻氏作成)(クリックで拡大)

表1 17年12月Google検索アルゴリズム改善前後の検索結果上位10件の変化(辻氏作成)(クリックで拡大)

若尾 当センターが運営する「がん情報サービス」へのアクセスは,以前は月平均250~300万でしたが,12月6日以降およそ2倍になりました。アップデートの影響の大きさを感じます。

 さらに,ヤフーと当センターの連携により,今年1月末からはスマートフォン(以下,スマホ)版,2月末からはタブレット版,PC版のYahoo! JAPAN検索において,検索結果画面の上部に「がん情報サービス」の情報提供枠が表示されるようになりました。必ずしも正確・正式な病名で検索するとは限らない問題にも対応できるよう,Yahoo! JAPANのシステムと当センターのページ内容の両方を調整しています。

複数ワード検索では状況に変化なし,情報発信で工夫を

 Googleやヤフーによる改善は一定の評価ができるものです。しかしまだ問題は残っています。

若尾 片木さん,患者の中では検索について何か意見は挙がっていますか。

片木 単一ワードであれば信頼できる情報が上位に表示されやすくなりました。しかし,複数ワード検索では従来とあまり変わらないようです。患者が実際にどのように検索するかを考えると,「卵巣がん」などの病名だけでなく,「卵巣がん いい病院 口コミ」「卵巣がん 治療 つらくない」などのキーワードを用いますよね。

若尾 確かに,病名と症状で検索すればがん情報サービスの疾患の基礎知識が表示されますが,病名と治療では広告が最初に表示されてしまいます。

 新しいアルゴリズムの対応ワード数が今後増えることを期待したいですね。医療情報に関する検索全体を見ると,検索ワード数は増加傾向です。検索エンジンを用いると,入力の途中で検索予測のリストが表示されることも一因です。全検索の33%で,検索予測が利用されているという調査結果があります4)

若尾 入力するよりも候補を選択するほうが簡単ですから,納得の結果です。検索予測はどのような基準で表示されているのでしょうか。そのキーワードでの検索が多い単語ですか。

 はい,それが一番大きい要因です。スマホが普及してからは特に予測候補の利用が増えています。

片木 患者は待ち時間や移動時間に調べる方が多いので,スマホの利用が圧倒的に多いです。

若尾 私はPC世代なので,「こんな小さい画面でよく見るなぁ」と感じますが,「がん情報サービス」へのアクセスは6割がモバイル端末からです。患者の目線に立つと医療情報の発信ではスマホ対応が重要ですね。

 将来的に音声検索が普及すれば「卵巣がんの症状の〇〇が書いてあるブログ」などといったさらに細かいキーワードで検索されるようになるでしょう。Googleは12月6日のアップデートが全体の「6割」に影響すると公表しました。それは,カバーしきれない部分もあることを意味します。

片木 病名や症状が入っている場合,他のキーワードが何であれ公共機関や医療機関の情報サイトが上位に出るようになるとよいのかもしれませんね。

若尾 ただ,例えば旅行中に病気になって近隣のクリニックを検索しようとしたときに,公的機関ばかりが検索結果に出てしまうのでは困ります。検索者の意図するものがきちんと出る仕組みも残しておかないといけないので,なかなか難しそうです。

 複数ワードの検索でもヒットできるよう,情報発信側も掲載情報や用語の選び方を工夫することが必要なのだと思います。例えばがん領域では,一般の方は「完治」という言葉で検索しますが,医療者は「寛解」を使います。悪質なサイトはそのギャップに注目し,アクセスを増やします。医療者も,「正しくないから使わない」ではなく,「患者が求めそうな言葉をキーワードとして取り入れつつ,正しい情報を伝える記事」を作っていくべきです。

医療者から見て問題のある広告は積極的に「通報」してほしい

片木 問題は他にもあります。患者は体験談を求めますが,そうした記事が載っているのはブログやSNS,新聞社のサイトが多い。そして,それらにはバナー広告があります。

 ブログやSNSはアフィリエイト(広告収入)目的のものも多いですね。

片木 口コミなどで治療や商品が気になって検索した場合,アフィリエイト目的で患者や家族になりすまして効果を謳うブログや体験談ばかりが多数ヒットします。SNSなどでも「やってみようかな」という声はあっても「効果がなかった」という情報はあまりない。それは,試してみて効果がなかった場合は,自分の見る目がなかったと公言するようで発信しにくいことも影響していると思います。

若尾 結果として,効果があるという情報ばかりが表示され,まるで信憑性が高いかのように見えてしまうのですね。そもそも情報を探す人は,自分に合った情報,自分の欲しい情報を探して検索を行っているという要因もあるでしょう。

片木 効果があると信じたい心理状態があり,不確かな情報だと他の人から指摘されたとしても,「虚偽の広告なら取り締まられているはずだ」と聞く耳を持たない方もいます。

若尾 検索結果画面の上部に広告が表示され,一般の方には普通の...

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