MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2018.03.19
Medical Library 書評・新刊案内
行動変容を導く!
上肢機能回復アプローチ
脳卒中上肢麻痺に対する基本戦略
道免 和久 監修
竹林 崇 編
《評 者》山本 伸一(山梨リハビリテーション病院リハビリテーション部副部長)
リハビリテーションの可能性を広げる“渾身の一冊”
作業療法士になって約30年。就職当時,脳卒中上肢麻痺に対する機能回復アプローチという概念は,当然ながらほぼ存在せず,いわゆる健側志向のリハビリテーションが主流であった。しかし一部の療法士は麻痺側の潜在性や可能性を信じ,試行錯誤していたのも事実である。私自身もその一人であった。
1980年代よりサルやヒトに対して神経の除去・感覚の遮断や関節の固定などを行うと,身体の変化だけでなく大脳皮質などのマッピングが変化するといった論文が数多く発表された。なかでも1996年,Nudoらは「サルに対し,巧緻動作系の練習(CI therapy-like procedure)を実施し,一次運動野における手指の動きにかかわる領域が拡大する」ことを発見した。言わずと知れたCI療法(constraint-induced movement therapy)の始まりである。これは,脳卒中対象者を担当する全ての療法士に大きな希望,そして患者にとっても光となったことは言うまでもない。
そしてこのたびの本書の出版である。監修の道免和久氏は,日本のトップクラスのリハビリテーション医,そして編集の竹林崇氏は,2012年にCI therapy training courseに参加し,臨床と研究を重ねながら,多くのジャーナルや書籍の執筆や学会の講演などで活躍されている期待の作業療法士である。
道免氏は,「書名にはあえてCI療法やニューロリハビリテーションという言葉は入れていない。将来的に本書で示したコンセプトがリハビリテーション全般に広がることを期待している」と述べている(「監修の序」より)。凝り固まった概念ではなく,対象者の可能性と普及への熱意が込められていると感じた。
本書は全6章で構成されている。第1章では課題指向型アプローチとtransfer packageを含むCI療法の効果とエビデンスを紹介している。その後は,概要と実践の在り方や効果を計測するアウトカムにつなげ,さらには最終章の実際例に至るまで,基礎・基本から応用までもが解説され,研究と臨床の橋渡し的存在となっている。
脳卒中上肢麻痺に対する機能回復アプローチは,われわれ療法士にとって長年の課題である。軽度だけでなく重度の痙性や弛緩,痛みや感覚過敏・鈍麻・脱失,失調症,振戦など,対象者によって十人十色である。そして対象者はやはり,動けないより,動けたほうがよい。それが生活に活かされればなおさらである。ADLアプローチだけが手段ではなく,全人的・包括的に対象者をとらえることが大事である。解決する手法はたくさんあっていい。選択肢が多いほど未来は変えられる。
本書は,リハビリテーションの可能性をさらに広げるきっかけとなるであろう。そう確信した。ぜひとも熟読いただきたい“渾身の一冊”である。
B5・頁304 定価:本体4,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02414-3
衣袋 健司 著
《評 者》吉満 研吾(福岡大主任教授・放射線医学)
最新の画像診断情報と臨床の視点を見事に融合
本書は衣袋健司先生が,腹部の血管についてご遺体の解剖所見と最新の画像診断所見を組み合せた膨大なデータをまとめられた単著である。忙しい臨床の間を縫ってこれだけの量の情報を全てお一人で収集し,お一人でまとめられたのは信じがたいことであるが,それだけに本書の隅々にまで衣袋先生独特の緻密さやセンスが行き渡り,内容に凸凹のない,均一に良質な仕上がりとなっている。
血管解剖,変異,吻合など肉眼解剖で証明して終わるのではなく,最新の画像診断情報と関連付け,臨床に(特にわれわれ放射線科医に)どう役立つか,どういう症例にどう反映されるかが,見事に融合して表現されている。
正直,内容的には多分にマニアックで万人受けするものではないと思う。しかしながら,腹部を専門としている放射線科診断/IVR医にとっての上級者向けバイブルとなる良書であることは間違いない。例えば,医学講義では腹壁,腹腔,後腹膜をコンパートメントとして個別に教える傾向にあるが,これらが間膜,もしくは癒着部の結合組織を介して極めて密に連続した血管のネットワークでつながっていることが,非常に大きなダイナミックレンジで語られ,提示されている。個人的にも本書を通して,あらためて人体解剖の不思議や美しさに感じ入った次第である。
特に,腹部の静脈系(門脈も含め)についての詳細なデータが記されていることは特筆に値する。動脈系の解剖については,従来の医学書にも良書が散見されるが,静脈系まで網羅したテキストは限られ,いまだ満足のいくものに巡り合ったことはない。本書はそのgapを埋める,極めて重要な役割を果たすと考えられる。
私事で恐縮であるが,衣袋先生と私は同じ時期に米国MD Andersonがんセンターに臨床フェローとして留学し,一緒に働かせていただいた。本書の序文にもあるように,そこでChusilp Charnsangavej教授らの教えを受け,そのangiographerとしての血管解剖に根ざした精緻なCT読影に感銘を受けた一人である。その後,私はその知識を自らの診療や教育に役立たせているだけであるが,衣袋先生は本書を完成させたことで,その教えをさらに大きく花咲かせ,世に出したと言える。共に学んだ同期のフェローとして大きな拍手でたたえたいと思う。
B5・頁160 定価:本体10,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03057-1
BRAIN and NERVE―神経研究の進歩
2017年11月号(増大号)(Vol.69 No.11)
増大特集 こころの時間学の未来
《評 者》梅田 聡(慶大文学部教授・心理学)
心理的時間研究の多様性を網羅
『BRAIN and NERVE』誌2017年11月号に「こころの時間学の未来」というタイトルの増大特集が掲載された。「こころの時間学」とは,2013~17年度までの5年にわたる科研費新学術領域研究〔代表:北澤茂(阪大教授)〕の名称であり,この特集号は,その領域研究における成果の集大成の一部としてまとめられている。
「時間とは何か」という概念的な問いに対する論考は,主に哲学の文献に数多く見いだされるが,一方で,これまで科学的な研究対象として「時間」を扱ってきたのは,主に物理学,特に力学の分野であろう。しかしながら,それを主体の中で知覚,認知するメカニズムの科学的探求については,これまで決して目覚ましい発展があったわけではなかったように思われる。その理由は,心理的な側面として「時間」を正確に取り出すことの難しさにあったものと推察される。極論すれば,時間が関与しない知覚・認知処理など存在しないわけであり,あらゆる現象には時間という要素が付帯されてくる。ゆえに,時間のみを取り出そうとしても,他の要素を排除することが困難になってくるのが常である。よって,心理的な意味での時間の謎に迫るためには,時間を多次元的にとらえ,その共通要素をあぶり出すということが必要になってくる。
科研費の新学術領域研究は,あるテーマについて,複合領域から分野横断的にクロストークしながらアプローチする研究プロジェクトであり,時間の探求を深める上では,まさに絶好の機会であろう。実際,この増大特集でも非常に興味深い成果が示されている。
特集全体を概観して,取り上げられているテーマは,①時間知覚や時間評価,②タイミングとしての時間とデュレーションとしての時間,③過去・現在・未来という軸からとらえた時間,④時間処理機構の障害,⑤時間処理と空間処理の類似点と相違点,⑥時間処理にかかわる言語認知機能,⑦時間概念の発達と進化などに集約できる。
全体的にみて特に印象的な点は,いずれのテーマにも,表出される行動の背後にある神経メカニズムを探るアプローチが含まれており,先端的な研究成果が網羅的に紹介されていることにある。いくつかの研究では,これまでの研究の壁を乗り越え,心理的な時間を正確に取り出すことにも成功しつつあるものと評価できる。特に,記憶として取り出される「過去」,「いま」という自己意識の幅を持つ「現在」,予測として表象される「未来」という時間軸の中で,時間が脳内でどのようにつくり出されているのか,その難題が徐々に解かれ始めていることに大きな興奮を覚える内容となっている。
こころの時間学の「未来」と題されていることからもわかるが,冒頭の鼎談でも議論されているとおり,本特集全体に目を通すと,今後,どのような方向に進んでいくべきか,さまざまな可能性が浮かぶ。こころの時間学が,これまでに構築された物理学・力学・哲学の時間論とどのように融合されていくのか,時間処理の各要素の障害は,われわれの自己(セルフ)の認識にどのような影響を及ぼしているのか,さまざまな日常的時間に関する主観的経験をどのような理論で説明すべきなのかなど,問いは尽きない。逆にこれは,それだけこの領域がいかに魅力的であるかの証しである。読者には,特集号の一読を強く勧めたい。
後藤 浩 著
《評 者》福島 敦樹(高知大教授・眼科学)
数多くの症例と病理組織像を提示した必携の書
「今日,外来で見た腫瘍はきっとこのなかに載っている!」,魅力ある帯の文言。さっそく本書を開いてみると,昨日診察した結膜血管腫の患者さんとほとんど同じような写真が……さすが後藤浩先生と思いました。これだけ多くの種類の腫瘍の写真が全て東京医大で撮影されたとのこと,どれだけ多くの患者さんが受診されているのでしょうか? また,全ての患者さんにこんなに美しい写真を撮影されていること,病理組織像を管理されていることも驚愕に値します。
本書は,眼瞼腫瘍,結膜腫瘍の2部で構成されています。まず,総論として,眼瞼腫瘍,結膜腫瘍に対してどのように診察すべきかを,診察のコツとして記載されています。続いて各論として眼瞼腫瘍,結膜腫瘍の各種疾患が列記されています。総論では東京医大における膨大な数の統計を基に,各疾患の頻度を知っておくことの重要性を強調されています。次に良性・悪性の見分け方のポイントとして好発年齢,腫瘍の見た目,そして経過を記録としてきちんと残しておくことの大切さ(これがなかなか難しいですね)を記載されています。最後にどのように治療戦略を考えるかについて,全摘出,生検,専門施設への紹介,どの手段を選択すべきかを理路整然,かつ誰が読んでもわかりやすく記述されています。
各論は良性腫瘍,悪性腫瘍,鑑別診断として非腫瘍性疾患を列記する形で構成されています。各論において特筆すべき点は,各疾患についてたくさんの症例を提示することにより,まさに診療における疑似体験ができる点ではないでしょうか。同じ疾患でもさまざまな臨床所見を呈することがあり,診断に自信を持てない場合が多いと思います。本書では数多くの症例を提示することにより,バリエーションの多さを読者が実感できる仕組みになっています。しかも,それぞれの疾患で病理組織像を提示されており,眼科専門医試験にも役立ちます。臨床像,ワンポイント病理学の項目での解説,ポイントを箇条書きにしている点も,読者が頭を整理できるように組み立てられています。「ひとり言」と題するコラム,実はここに伝えたいことが隠されているのかもしれません。
最近では各種眼疾患で画像を中心とした書籍が増えました。しかし,眼腫瘍,特に一般診療で必ず遭遇する眼瞼腫瘍・結膜腫瘍に特化した書籍はなかったように思います。しかも,昔からアトラスというと,お堅いイメージがあるのですが,本書は読者にとって非常にフレンドリーで,後藤先生のイメージされた通りのアトラスに仕上がっています。明日から,外来診察室で必携の書籍となることは間違いありません。
A4・頁176 定価:本体12,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03222-3
《標準理学療法学・作業療法学・言語聴覚障害学 別巻》
脳画像
前田 眞治 執筆
《評 者》種村 留美(神戸大教授・リハビリテーション科学)
本書を片手に脳画像を見てみよう!
最近,脳画像の教科書は増えているが,本書は,PT・OT・STのためにわかりやすく書かれたものである。特に学生にとって脳画像の勉強には最適の本だと思う。
かつて私の教え子たちの中には,「どうしても脳画像の二次元画像から三次元の脳がイメージできない」「ブロードマンの絵が理解できない」と質問に来る学生がいた。当時この本があればどんなに教えるのが楽だっただろうか。
構成は,10章から成る。第1章はブロードマンの脳地図をベースにした「人間の脳の特徴」,第2章はCT,MRI,fMRIやSPECT,MEG,拡散テンソル画像などのそれぞれの特徴が述べられた「脳画像の基本」,第3章は各スライスのレベルや主な部位の見極め方などを解読した「脳の画像解剖」,第4章は前頭葉,頭頂葉,後頭葉,側頭葉それぞれの機能局在と症状が述べられた「脳の機能局在」,第5章は脳出血,脳梗塞,くも膜下出血,脳動静脈奇形,もやもや病などの疾病を経時的にみる見方などを説き起こした「脳血管障害」,第6章は頭部外傷の各疾患である急性硬膜外血腫,急性硬膜下血腫,慢性硬膜下血腫,外傷性くも膜下出血,脳挫傷,びまん性軸索損傷の脳画像の特徴を示した「頭部外傷」,第7,8章は各疾患の特徴を示した「脳腫瘍」「認知症」,第9章は脊髄小脳変性症や多発性硬化症,パーキンソン病などの画像を収めた「神経難病」と,一冊に画像の知識が網羅されている。
「今さら聞けない」と思われるような説明も丁寧になされている。例えば,CTの吸収域の高低の意味や,CTとMRIの色調の違い,T2*強調画像ではヘモグロビンがヘモジデリンに変化した後は低信号として表されること,などなど。
学生諸氏(や画像を勉強中のPT・OT・ST)には,特に第3章がお勧めである。本章を「神経の診かた」を解説した教科書と並べて読んで勉強してほしい。第3章を読むと,例えば,ウィリス動脈輪はペンタゴンの形,脳槽はダビデの星の形,大脳脚はミッキーマウスの耳,松果体はクリオネの形として見つけられるようになる。それが目印となって,レベルごとの病巣が見えてくるはずである。例えばミッキーマウスの両耳の付け根に黒質や内側膝状体,赤核,網様体などがあるので,感覚検査や運動テスト,脳神経検査と合わせて症状を確認することにより,パーキンソン病などが同定できる。また脳血管障害では,経過によって画像も変化する。第5章には経過日数ごとの変化が示してあり,フレッシュなのか陳旧性なのかの判断もできるようになる。
さあ今から一冊手に持って,電子カルテの画像を確認してみよう!
B5・頁176 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03250-6
循環器Physical Examination
[動画・心音186点付]
診断力に差がつく身体診察!
山崎 直仁 著
《評 者》室生 卓(倫生会みどり病院院長・心臓弁膜症センター内科)
実践力をつけ,診察を楽しめるストロングスタイルの一冊
著者の山崎直仁先生は毎年開催される「循環器physical examination講習会」の主要メンバーである。彼のレクチャーはわかりやすく,またウィットに富んでおり,毎回参加者からの評価も非常に高い。その高評価の本質はしっかりした基本とその上に積み上げられた豊富な経験と知識に裏付けられた彼の実力である。いわば,毎日数千回に及ぶヒンズースクワットで鍛え上げられた足腰の上に百戦錬磨の実戦経験を積んだ本格派ストロングスタイルである。
本書は内科臨床誌『medicina』の連載「診断力を上げる 循環器Physical Examinationのコツ」を再編成したもので,各論は基本編とも言える「1.循環器Physical Examinationのコツ」と,実践編の「2.症例から学ぶ 循環器疾患の診かた」の2部構成になっている。両編とも一つひとつの記載がしっかりしていてあいまいなところがなく初学者にもわかりやすい。
さらに本書のもう一つの特徴はストレートな記載にならんで全編にふんだんに用いられているカラー動画,シェーマと心音である。いずれも非常にわかりやすく説得力がある。Physical examinationは患者から直接得られる情報を自らの五感で収集し自らの経験と知識で判断するものである。その分「見方」「聴き方」「触り方」とその解釈のいずれにおいても実力の差が如実に現れることになる。血液検査ならばその結果は数値で得られ,基準範囲が与えられるから,少なくとも正常,異常の判別に迷うことはない。本書では重要な所見が「百聞は一見に如かず」(聴診は「一聴」か)と言わんばかりの説得力で動画や心音で体験できる。まさにベッドサイドで山崎先生と回診をしているかのような臨場感があり,読んでいて楽しくなってくる。
これから循環器のphysical examinationを学ぼうとする初学者はもちろんだが,教育的立場の指導医,あるいはphysical examinationには結構自信があるという「猛者」を自認する人でも歯ごたえは十分の書と言える。小手先でなく本格的にphysical examinationを学ぼうと思う人に最適の書である。
B5・頁188 定価:本体5,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03235-3
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